第18話「萌芽」

 *


 何かが新しく始まるという状況は、私にとっては緊張と焦燥を伴うものである。


 そこに、期待という要素は少ない。


 始まるということは、仕事風に言うのならタスクが増える――同時にということでもある。


 環境が変化するのである。


 その際の最適な心身の扱い方というのは、未だに確立することができていない。


 体調を崩すのは勿論もちろんとして、精神的にもかなりの負荷が掛かる。


 これは小学校の頃からそうであった。


 クラス替えでわくわくするよりも、新しいクラスに馴染むことができるかが不安になり、担任発表でドキドキするよりも、学級崩壊しないことを密かに願う――そんな子であった。


 小学校から中学へ、中学から高校へ、高校から大学へ、進学するたびに、心身の調子を搔き乱されてきた。


 今勤務している職場には、新卒の頃からお世話になっているけれど、その時も本当に大変であったことが、記憶に新しい。


 しかし、年度変わりのシステムとか、そういう仕組みの世の中に恨みつらみをぶつけようとは思わない。


 人は変わる生き物である。


 一日前と全く同一の自分で在ることはできない。細胞レベルで変化しているし、心も気持ちも、一日前の状態と同じにすることはできない。


 だから世の中も、変わっていって当然なのだ――と思っている。


 ただ。


 新しいからといって、それが総じて「良い」ことであるとは限らない。

 理不尽と不条理が、世の中にはたくさん浮遊している。


 良く、学校は理不尽を学ぶところだ――とか、社会に出たら多少の理不尽は許容するべきだ、とか言う人がいるけれど、理不尽なんて、不条理なんて、受け付けない選択肢があっても良いと、私は思うのだ。


 実際、その言葉を真に受けて、理不尽と不条理を積極的に摂取した結果、心を壊してしまった同期を、私は知っている。


 そもそもその言葉の発言者は、大概理不尽や不条理を与える側の存在――もしくは、自分がそうやって生きてきたから、後輩が自分より楽して社会に馴染むことを許容できない狭量な人間である可能性が高い。だから、気にしなくて良いのだ。


 とは、言っても――変化がない、無変化である訳ではない。


 先程も述べた通り、人も環境も、変化する。変化することで成立している、とも言える。


 きっと私は、今日からしばらく体調とメンタルを崩す。


 変化に身体と心が追い付かず、引きずられる状態になる。


 まあ、大人になって、最早それも自分の中での風物詩となりつつある。


 多くの人が、新たな一歩を踏み出す今日に。


 せめて気持ちだけは前向きでいようと、私は思った。




(続)

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