第7話「不乱」
*
異常に1つの事に集中できる期間というのが、私にはある。
学生時代から、1つのことを定めると、寝食を忘れ、体調を崩すまで集中してしまうことがあった。故に小説を書く時は、必ずタイマーを付け、2時間きっかりで休憩することに決めている。
のだが。
時折タイマーの音すら聞こえないほどに集中してしまうことがある。
過集中とは、多分違うのではないかと思う。
素人判断なので真相は分からないけれど、そこまで日常生活に支障は出ていない(今のところ)から、恐らく違う――はずだ。
カフェインは、不安や不眠に繋がるので摂取していない。
地で、集中しているのである。
今日などがそうであった。
執筆する際には、集中力を敢えて散らすために、好きなアニメや映画を流したり、音楽をかけたりなどしているけれど、今日という今日は流石に集中し過ぎてしまった。昼頃から執筆を始めて、気が付いたら、夕刻を過ぎてもう外は真っ暗であった。
二月の寒い中ということもあって、一応暖房は付けていたけれど、気が付いたら足の先の方が冷たくなっていて怖かった。
急いで風呂に湯を張って身体を温め、布団に入ったけれど、寒さは無くなることはなかった。
身体が芯の方まで冷えてしまっている。
風邪とはまた違う――単に周囲の環境を整える程度では、どうしようもない寒さである。
集中で熱を帯びていたのもあって、心も冷え切っていた。
ふと、こんな思いが頭をよぎった。
もしこのまま書き続けていたら。
凍え死んでいたかもしれない。
そう考えると、急に色々と恐ろしくなってきて、布団の中に身体を沈めた。
両手両足を温め、四方八方を布団で覆い、死神の侵入を防ぐ。
死は、怖い。
なぜなら、死ねば、小説が書けなくなるからである。
本当にそう思って、生きている。
誰に迷惑をかけるとかでも、誰を悲しませるとかでもない。「小説を書けなくなる」という理由。
それで何とか生を享受している自分が、もし小説を書けなくなったら。
一体どうなってしまうのかは、定かではない。
言葉だけを頼りに、何かの間違いで生きている。
それが、私の人生観である。
(続)
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