異世界相談所
私は弘前大学に電話をかけた。事務課に繋がり、雨宮甘菜について問うと先輩の所在は驚くほど簡単に分かり、すぐに電話をかけた。二コールもしないうちに電話は取られた。
「はい、こちら雨宮」
「なんですかこれ」
「お、その感じだと上手く行ったのかな? いやぁごめんごめん。言おう言おうと思ってたけど結局一度も言えなくてね。端的に言うとね、代々『バナネ』の都合の良さそうな常識人枠が……名誉会員がその職務を引き継ぐんだよ」
「今何か言いました?」
「言ってない言ってない。ところで、君の目の前には誰がいる? いや“どなた”がいらっしゃっているかな?」
「……人語を解すキタキツネです」
先輩がニヤッと笑ったのが、電話越しでも分かった。
「ほう……興味深いね。その人は私の師匠筋に当たる方だよ」
「いや知りませんよ。ところで……職務って何ですか」
「古今東西あらゆる世界と時空からやってくる相談者の対応さ」
先輩は飄々とそう語った。
「は? 意味が分かりません。早く帰ってきてください」
「美桜ちゃんが前を向けたら役目は誰かに回るはずだからさ。今は頑張って! いつか戻るから! 最近は本当に忙しいの!」
そう言って
「いつか会いにいくよ、最愛の後輩ちゃん」
先輩は一方的に電話を切った。言葉では言い表せない怒りが私の中に沸々と湧き出てきた。こんなに人を殴りたいと思ったのは久しぶりだ。
「話は終わったか? 新たなる我らが預言者よ」
キタキツネはそんな私の情緒なぞ興味もないのか欠伸をしながらそんな事を言った。
「……狐のお肉って美味しいの?」
「おい、待て。話が違う。妖気が充分になったから我は此処に来ただけである。え、ちょっと待つのだ預言者。甘菜から何も聞いておらんのか?」
「無いですよ? それより狐の肉は美味しいの?」
キタキツネは恐怖というより困った表情を浮かべた。そして先輩、雨宮甘菜が私に託した仕事について仔細に語ってくれた。そして疲れたのか
「今日は、帰る」
と言って部屋から出ていった。結局、先輩が言ってたことの繰り返しであった。それから毎日代わるがわる相談者は私のところへやってきた。自称神様、動物、人間。私の部屋はもはや異界と化していた。
「明日は晴れる?」
「知らん」
「我が民はどちらへ向かうべきか」
「自分で考えてください」
「謎を出すスフィンクスをどうにか」
「そのうちどうにかなります」
「飢饉が起きてしまってな……」
「小麦を育ててください」
そんな日々が二年ぐらい続いた。
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