お狐様
その冬に私は卒業要件を満たし、春に大学を卒業した。桜散る哲学の道を歩き、私は猫の集まるベンチに座った。見事なストレートでの卒業であるが、一方で就職も進学もしていないにニートに進化を果たした。三毛猫を撫でながら、私は静かに決意した。教養人として生きていく。本を読んで眠るだけの生活。それでいい。穴の空いた器であっても、それが溢れ出るぐらいに私は自分を教養で埋めるのである。それしか、もうない。私は引き篭もった。六畳一間に溢れんばかりの本を置いて、ただ寝て起きるだけの生活。時たま来る来客には目もくれず、退廃を3Dプリンタで起こしたような、そんな廃人に成り果てていた。数ヶ月経った時、ふとあの日に渡されたお札を思い出した。どう使うのかも分からず、渡した先輩はもういない。学習机の引き出しを開け、お札を見る。よく見ると幾何学的な紋様をしたお札の真ん中には平仮名で『よろず』と書かれていた。私は何となくそれを、自室の扉に貼った。クソニートは封印されるべきだろう。
「……何やってるんだろうな。私は」
貼った瞬間は何も起きなかった。そしてまた、数ヶ月が過ぎた。本は更に増え、部屋を埋め尽くすほどになった。流石に少し捨てるか売るか考えた所で、唐突に扉が揺れた。左右に縦に揺れる奇妙な挙動は数分続き、そしてピタリと動きを止めた。そして、コンコンコンと三回ノックがされた。誰だろう。葵? お母さん? お父さん? いや、もう誰でもいい。投げやりな声でノックに返事を返す。
「どうぞー」
と言うと
「コン」
と。一匹のキタキツネが私の部屋に入ってきた。結論から言って仕舞えば、先輩が私をサークルに勧誘したのはこの役目を引き継がせるためであった。
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