第21話 サグルとミリアと脳筋『戦士』③

 ボス部屋の壁に叩きつけられたサグルのもとへチユが走る。


「まったくもう『ヒール』!!」


 壁に叩きつけられたサグルはダメージを負ったものの自身にかけられた各種バフのお陰もあってかダメージそのものは軽微、しかし、


「いてててて、ありがとうチーちゃん」

「倒したわけでもないのに無防備に近寄りすぎよ」


チユからの叱責からは逃れられない。さらに


「それでチーちゃん。あのドーム状のものは何?」


 ミリアとミノタウロスを囲むように黒いドーム状のフィールドが展開されていた。


「わからないわ。サッ君が投げ飛ばされてからミリアさんとミノタウロスの周りにあれが突然形成されて……」

「あのミノタウロスとミリアさんが一対一なるのは危険すぎる。とりあえずあのフィールドを壊せるのか確かめてみよう」

「ええ、そうね」

 

 言ってチユとサグルはフィールドの元まで駆け寄るとサグルがネクローシスによる一撃を展開されているフィールドに与える。が、


「ダメだ弾き返される。チーちゃんは?」

「私も一緒よ。試しにマジックバレットの魔法を唱えてみたけど完全に弾かれたわ。多分だけどこのフィールドは結界なのよ、外からの干渉を完全に防ぐためのね」

「そんな……」


 二人はどうにも出来ない歯がゆさを感じながら黒いフィールドを見上げ、そこでサグルはハッとする。


「そうだ!リスナーたちだったら何か解決方法を知っているかもしれない」


 サグルは慌てて配信ウィンドウを見ようとするが自身の周囲のどこを探しても配信ウィンドウが見当たらない。


「くそ!こんな時にどこに行ったんだ」

「サッ君!!」


 チユが自身の持つウインドウを操作しながらサグルを呼ぶ。


「きっとあの中よ」


 チユの写したのはSAGURU TV の配信画面。そこにはミノタウロスと対峙しているミリアの姿があった。


―――結界内


 ミリアは進化の実により進化したミノタウロスとたった独りで対峙していた。

【ミリアちゃん大丈夫?】

【ミノタウロスの進化体と一対一ってマジかよ】

【ミリアちゃん一旦このフィールドの外に出よう】

【そうだよ一対一は危なすぎる】


 コメント欄のリスナーたちもミリアのことを心配しているが、しかし、


「そう言われてもですね」


 ミリアが展開されたフィールドに手を伸ばしてみるとバチィッと電気で弾かれるような反応が起こる。


【!!】

【中からじゃ出れないのか】

【だったら外からなら入れるんじゃね?】

【そうだったら既にサグルとチユ様が入って来てるはずだろ】

【そんな、それじゃあ】


 応援の見込みもない。となれば、


「覚悟を決めるしかないみたいですね」


 そう言うミリアの顔はどこか楽しそうに笑っているように見えた。

 対して、ミノタウロスの進化体は自身の体を値踏みするように見つめながら片手をグーパーと開いたり閉じたりしている。どうやら進化した進化した自身のコンディションを確認しているようだ。そして、


「ブモォォォ」


 再び雄叫びを上げた後、ミリアの方を向き人差し指をクイクイとミリアに向けて伸ばしたり曲げたりを繰り返す。そう、かかってこいとでも言うように。

 ミノタウロスの挑発行為を目にしたミリアは……


「ヘェ牛さんが挑発出来るなんて初めて知りましたよ私。なんかムカついちゃいます……ね!!」


 これ以上ないほどにキレイに挑発に乗ってミノタウロスまで突撃、先程の戦闘開始時と同じ様にミノタウロスと両手を組み合う形で力比べをする。


「ぬぐ!?」


 しかし、先程とは異なり力の面で上をいったのはミノタウロスであった。ミノタウロスは力での優勢を確信すると元々持っていた体格面での優勢(ミノタウロスは体高が2メートル近くあるのに対してミリアは160センチメートルほどしか身長ががない)を利用してミリアに覆い被さるように押し潰しにかかる。


「うぐぅ……」


 ミノタウロスとミリアの力の差は明らかであり、ミリアは徐々にではあるものの力で押され、膝を着きそうになる。が、


「ダリャ!」


 ミリアは一瞬力を抜き、体勢を崩されたミノタウロスは前屈みに倒れ込み、それを狙いすましてミリアはミノタウロスに頭突きを加える。

 不意の頭突きを喰らったミノタウロスはヨロヨロと後退ミリアに絶好のチャンスが生まれる。


【今だミリアちゃん】

【今だ!!】

【この隙を逃すな!!】

【ナイスゥ!】


 コメント欄のリスナーもこの機を逃してはならぬとミリアに声援を送る。が、


「ふにゃ~」


 ミリアもミリアで頭突きの衝撃に耐えきれず目を回していた。


【ああ~】

【そりゃそうだよね】

【ああ~もう】

【惜しかった。次行こう!】


 ミリアとミノタウロスは眩み状態から回復するとニヤリと口の端を吊り上げて互いに笑い合う。

 ミノタウロスは何もない空間から、ミリアは自身ののストレージウィンドウの中に手を突っ込んだ。


「フッフッフ」

「ヴォッフォッフォ」


 互いに見つめ合いながらも不適に笑い合う両者は、突っ込んだ手から各々の得物を取り出す。

 ミリアは当然いつもの使い慣れ親しんだ大戦斧。そしてミノタウロスは……


「!?」


 奇しくもミリアとまったくの同型の大戦斧を所持していた。


「同じ型の武器なんて感激するじゃあないですか」


 ミノタウロスも不適な笑みを崩さない。そして、


「それじゃあ行きます。よ!!」


 爆発するようにミリアがミノタウロスに突進、接触するとミリアがいつものように片手で大戦斧横一線に振り回す。と、


「ヴォッフ」


 ミノタウロスがミリアとは逆方向から自身の大戦斧を振り回す。するとミリアとミノタウロスの大戦斧が激しく衝突し、大きな火花が宙を舞う。


「ぐうぅぅぅ……」

「ゔぉぉぉぉぉ……」


 しかし、ミリアとミノタウロスの両者はそれでは止まらない。


「りゃ!!」

「ヴォッ!!」


 自身の攻撃が弾かれると同時、次の攻撃のために体勢を整え、再度の攻撃。再びの武器同士の衝突。それを次も、次も、次も、と何度も繰り返して行く。


【なんか……】

【ん?】

【なんかおかしくねぇか?】


 それはミリアの戦闘を固唾を飲んで見ていた一人のリスナーが最初に気が付いた。


【何が?ってかリスナー同士の会話はマナー違反だぞ】

【それじゃあ俺の独り言だ。さっきからおかしいと思ってたんだけどよ】

【さっきからミリアちゃんミノタウロスに攻撃してないんだよな】

【バカ乙】

【お前は何を見てるんだ?】

【いや、お前らもうすうす気付いているんじゃないのか?さっきからミリアちゃんがミノタウロス本体じゃなくて武器の方を狙って攻撃してるって】

【!?】

【そういえば】

【そうか?】

【いや、間違いない】


 そうリスナーが確信した時、ミリアも確信した。何を?当然作戦の成功をだ。


「せいりゃ!!」


 ミリアがこの戦闘何十度目かの攻撃をミノタウロスの武器に向かって放つ、するとミリアの持つ大戦斧に大きなひびが入った。


「!!」


 その瞬間ミノタウロスは自身の勝利を確信。その確信をより現実に近づけるためにミリアの武器めがけて必殺の上段からの振り下ろしの一撃を振るった。瞬間、ミリアの大戦斧が真っ二つに破壊され、ミリアはその余波を受け後方に大きく飛ばされる。


【ミリアちゃん!?】

【ミリアちゃん!?】

【ミリアちゃん!?】

【ミリアちゃん!?】


 リスナーたちは吹き飛ばされたミリアを見て大きく動揺する。しかし、


「フフ、フフフフフ」


 吹き飛ばされたミリアはヨロヨロと立ち上がりながらもその顔は不適に笑っていた。

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