第20話 サグルとミリアと脳筋『戦士』②
チームSAGURUTVの面々はミリア強化作戦の作戦会議後、順調に歩を進め、ダンジョンアビスホールの第15階層のボス部屋前に到着し、今はボス挑戦直前の休憩をとっていた。
「それでここまでは予定通りといえば予定通りなのだけれど、本気であの作戦でいくつもりなの?」
「本気も何も作戦立案者はチユさんじゃないですか」
「それはそうだけど、やっぱりあの作戦には穴があるような気がしてならないのよ」
「穴があったら踏み抜けって言ったのもチーちゃんだよ」
「う……」
【かわいい】
【チユ様可愛い】
【可愛すぎ】
【hshsしたい】
「それと何なのよこの可愛いBOTみたいなリスナーたちは!!私とミリアさんが喋る度に【かわいい】しか言わなくなるじゃない!!」
言いながらサグルの配信ウィンドウを指差すチユではあるが、
「チユさん、コメント欄とはかわいい女子がいれば可愛いで埋め尽くされ、キレイな女子がいても可愛いで埋め付くす。そんなものなのです」
「だからってこれはあんまりだと思わない?」
「まあ今はチユさんがこのパーティーに参加してそんなに経っていないから可愛いブーストがかかっているだけです。しばらくしたら落ち着きますよ」
そんなミリアの説明にチユは「何よ可愛いブーストって」などとブツブツ言いながらいまいち納得のいっていない様子でこの場は引き下がり、そんなチユの態度を気にしてかサグルがフォローするように言う。
「で、でも俺はチーちゃんの作戦には穴なんか無いように感じたし、多少無理があってもミリアさんのかいり――」
「すてきパワー」
「――すてきパワーがあればなんとかなるんじゃないかな」
苦笑いを浮かべながらそう言うサグルをチユはジッと見つめ、短いため息を吐いた
「むしろそこなのよねぇ」
「そこって言うと?」
「この作戦はミリアさんのかいり――」
「すてきパワー」
「――すてきパワー有りきの作戦じゃない。だからもし、ミノタウロス相手にミリアさんのすてきパワーが通用しなかった場合――」
「この作戦は詰んでしまうと」
「まあ、その場合はミリアさんの強化は諦めて通常通りに相手をするだけだから別に良いのだけれどね」
「それは良くありません!!」
チユの発言に食いぎみで発言するミリア。そんなミリアにチユは掌を見せて落ち着くようにとジェスチャーをする。
「それだけミリアさんの力が重要な作戦だけどあまり気負わないでねって言いたかったの!まったくそこまで言わないとわからないものかしら?」
「チーちゃんがツンデレ過ぎるだけなのでは?」
「何よサッ君、私が素直じゃないって言いたいわけ?」
キッとチユがサグルのことを睨むとサグルは慌てながらチユに言う。
「いや、チーちゃんそれは違わないけど――」
「なんですって!?」
「いや、違うんだチーちゃん。俺はそんなことが言いたかったわけじゃなくて――コメント欄!!」
【知るか】
【知るか】
【自分で考えろ】
【て言うかカメラに写り込むなよカメラマンww】
サグルが答えに窮してリスナーに助けを求めるがリスナーたちは相も変わらずサグルに厳しい。というかチユが加入してから余計に厳しくなっていた。
その後、へそを曲げたチユの機嫌を取り戻すのに余計な時間を要したのであった。
そして数分後ボス部屋の中に入る準備を整えたサグルたちチームSAGURUTVの面々は
「それじゃあ行くよ」
サグルの宣言に首肯で返し、サグルの後に続いてボス部屋の中に入って行く。
ボス部屋の中央ではミノタウロスらしき牛頭人体のモンスターがサグルたちを見据えている。
ボスの存在を確認した三人は互いに互いを見回しアイコンタクトを取ると
「ストーンスキン!」
チユによる補助魔法によりサグルとミリアの防御力を増加させて戦闘前の準備を行う。そして、
「挑発!!」
ミリアがミノタウロスに向けて『挑発』のスキルを使用すると、
「ブモォォォォォ!!」
ミノタウロスが雄叫びを上げてミリアに突進してくる。
【キター】
【キター】
【キター!!】
【迎撃だ!!】
「了解です」
それに呼応するようにミリアもミノタウロスに向かって突撃、しかも互いに徒手空拳でだ。そしてミリアとミノタウロスの距離が縮まり0になった瞬間、ミリアとミノタウロスがガシッと組み合う。
「フッフッフ流石はパワー系モンスターの代表格のミノタウロスさん。中々のパワーをお持ちです。が!!しかし!!」
ミリアは余裕の表情のままミノタウロスを投げ飛ばす。
「私のすてきパワーの方が遥かにパワーがあります!!」
【うっわマジかよ】
【ミノタウロス投げちゃったよ】
【悲報ミノタウロス氏17歳女子に力負けする】
コメント欄ではミリアがミノタウロスを投げたことで大騒ぎ、ミリア強化作戦も順調な滑り出しだ。
「ミリアさん次!!」
「わかってますよ」
そう言ってミリアは投げられたばかりで体勢の整っていないミノタウロスに再接近し、ミノタウロスが立ち上がる前にミノタウロスを足で踏みつけて立ち上がることを防ぎ、更には、
「ブモ!?」
ミノタウロスの口を無理矢理にこじ開ける。
「サグル君!!」
「応!!」
ミリアの準備完了の合図にサグルは素早く反応、あらかじめストレージから取り出していた進化の実をミノタウロスのこじ開けられた口の中にねじ込んだ。
「飲み込め~!」
突然異物を口内に入れられたミノタウロスは進化の実を吐き出そうとするが、それはミリアが許さない。今度はミノタウロスの口を無理矢理閉じてミノタウロスが進化の実を飲み込むのを待つ。やがてミノタウロスは口の中に入った進化の実を嚥下すると、それまで必死に暴れていた体からガクッと力が抜け、ダラリとその手足を地面につけ大の字に倒れた。
「ヤッちゃいましたかね?」
「ヤッちゃったかな?」
二人はミノタウロスの近くでその様子を注視していると、唯一この状況を離れた場所からみていたチユが叫ぶ。
「二人とも、早くそのモンスターから離れなさい!!」
しかし、そんな言葉もむなしくサグルの足がミノタウロス手に掴まれる。
「え?」
次の瞬間、サグルはミノタウロスの腕力によってボス部屋の壁に叩きつけられるように投げ飛ばされる。
「ガッ!?」
「サッ君!?」
良く見るとミノタウロスは黒い魔力を纏っている。
『黒死ミノタウロス』
その名が進化の実により進化したミノタウロスの名であった。
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