第19話 サグルとミリアと脳筋『戦士』①
「ミノタウロスの討伐を任せてくれってどういうことなの?」
「実はですね。私前回のボス戦の時にとあるアイテムを手に入れまして……そのアイテムを使うのにちょっと特殊なモンスターを相手にしなくてはならなくてですね」
「それがミノタウロスだと」
「はい、そうです」
「それってどんなアイテムなのよ?」
「それはですね――」
そう言ってミリアはサグルとチユにリスナーには聞こえないように声量を調節して説明をする。が、
「却下」
説明のかいもなくチユにあっさりと却下されてしまう。
「え~、なんでですか~」
ミリアはチユの言葉に納得がいかないのかなおも食い下がる。
「何度も言ってるけど貴女バカなの?いくら戦力アップが期待できるからと言ってそんな危険な真似この私が許すと思う?」
「ならサグル君」
ミリアはサグルの方を見るがサグルは体の前で手をクロスさせてバツ印をつくっている。
「え~サグル君もですか~」
「ミリアさん、いくらミリアさんでも相手は明らかにパワー系のボスモンスターだよ?そんな相手に一対一を挑むのはどうかと思うよ」
「サッ君の言う通りよ。いくらレベルによるステータス補正があるとはいえ貴女は元は可憐な女の子なのよ。それなのにミノタウロス相手に一対一はありえないわ」
「むう……」
「「ん?」」
二人に否定され、頬を膨らませているミリアをよそに、話の違和感を感じ取った二人は互いに互いの目を合わせる。
「サッ君今なんて言ったの?」
「チーちゃんこそ何て言った?」
「私はミリアさんにはミノタウロスとの一対一はありえないって……」
「いや、その前」
「前?ミリアさんは可憐な女の子なんだからって」
「あ~、そこか~!!」
サグルは顔を手で覆って天を仰ぐ。
「そこかって何よサッ君」
「いや、俺とチーちゃんの認識の違いについての話」
「認識の違い?」
「そう、そうだな……」
そう言ってサグルはしばし思案しポンと手を叩く。
「やっぱり見てもらうのが一番だな。チーちゃん、それにミリアさん一度ダンジョンに潜ってみようか」
「私は全然かまいませんよ」
「私もいいけど……それが認識の違いと何の関係があるの?」
「いいから、いいから。それじゃあダンジョンに向かって出発!!」
―――ダンジョンアビスホール第13階層
「てりゃ!」
ミリアがいつものように大戦斧をいつものように片手で振るってモンスターを一撃で屠り去って行く。
「……」
チユはそんなミリアを唖然とした様子で見つめている。
「そい!」
そんなチユをよそにミリアは次々と一刀の元モンスターを屠り去る。
「サ」
「ん?」
「サッ君、私の目がおかしいのかしら?ミリアさんが身の丈はあろうかという巨大な斧をあの細腕で、しかも片手で振り回しているように見えるのだけれど」
「間違いないね」
サグルも苦笑いを浮かべながら答える。
「それに彼女確かタンクで戦士のはずよね?」
「そうだね」
「なんでタンクがアタッカーばりの活躍を見せているのかしら?」
「う~んそれはやっぱりミリアさんのあのバカ――」
力、とまで言いきること無くサグルは言葉を噤む。それは何故か、ミリアが何か狙いを定めるような目でサグルのことを見ており、サグルはその目に言い知れぬ危機感を抱いたからである。
「バカ――?」
「いや、あの人並み外れた膂力からきてるんだよ。あの膂力があって初めてあのスピードであの斧が振れる。だからこそミリアさんはタンクにしてアタッカー並みの攻撃力が出せるんだ。あと地味に運動神経も良いしね」
【だな】
【だね】
【ミリアちゃん最高!】
サグルの説明に同意を示すリスナーたち。そんなサグルたちを見てチユはしばらくの黙考の後に口を開く。
「サッ君の言うようにミリアさんには規格外の膂力が備わってるわ。それが本来タンク役である戦士をアタッカーたらしめているのも理解できる。でもねサッ君、」
「だからと言って進んで危険な道を取らせる理由にはならない」
「ええ、その通りよ」
「だったら!」
ミリアがサグルたちの前方でモンスターを倒しながら言う。
「どうすれば許可してくれるのですか!!」
すると、チユがフッと不適に微笑んで言う。
「簡単よ一対一にこだわらなければいいの」
「でも、三対一だとおそらくあっという間に戦闘が終わっちゃいますよ」
「そうね」
「だったら私の計画が意味を成さなくなるじゃないですか」
「いいのよそれで」
チユは不適に笑い次いでサグルの方を見る。サグルはそんなチユの笑みに嫌な予感が止まない。
「サッ君」
「な、なんだいチーちゃん」
「持ってるわよね」
「な、何をかな?」
「前回のボス戦の戦利品」
「いや、なんのことだか――」
「サッ君」
何かを誤魔化そうとするサグルの言葉を遮ってチユは言う。
「私、嘘つきはキライだな~」
釘を刺されたサグルは両手を挙げて参ったと敗北を体で表し正直に自身のストレージからあるアイテム取り出した。
そのアイテムとは進化の実、スケルトンキングが使用した進化の宝珠と比べると効果は劣るがモンスターを強化出来る貴重なアイテムであった。
「よくわかったね。俺がこのアイテムを持ってること」
「あら、簡単なことよ。ダンジョンのボス戦ではボス戦に参加した者全員にボス討伐後何らかのアイテムが配布されるの。でね、ここからが重要なんだけど配布されるアイテムには何らかの共通点が存在しているの。今回の場合は――」
「進化アイテム」
「そう、だからきっとサッ君も何らかの進化アイテムを持ってるだろうって踏んでみたの。わかったかしら?」
「わかった。わかったんだけどもしかしてチーちゃんこのアイテムを使う気じゃあないよね」
チユの言う答えなどわかりきっている。しかし、サグルはそう言わずにはいれなかった。なぜならこの進化の実は使用対象をモンスターすなわち敵に限定している。ならばこのアイテムは使用することで自身のパーティーを危険にさらす可能性が十二分にある。そんなアイテムをサグルは可能な限り使用したくはなかった。故にパーティーメンバーであるチユたちにもその存在をひた隠しにしていたのだ。が、しかし、
「もちろん使うわよ」
あっけらかんとした顔でチユは言い放つ。
「でも、そんなことをしたらパーティー全体に危険が――」
「あら、だったらサッ君はミリアさん一人を危険にさらすの?」
「それは――」
サグルが言葉を噤むとモンスターを倒し終えたミリアが二人の会話に参加する。
「チユさん貴女は私のことを散々バカだバカだとバカにしてくれましたけど、貴女はその上を行く大バカ者です」
「そうね、私でもそう思うわ」
「だったらなぜ――」
「それは私たちが探索者だからよ。探索者は仲間一人を危険にさらすようなら全員が危険にさらされた方がましって考えるくらいバカなのよ」
そう言ってチユが微笑むと、サグルとミリアもつられるように微笑み、
「よし!それじゃあチームSAGURU TV ミリアさん強化作戦、作戦会議を開始します!!」
そう言ってサグルたち三人とその他500余名のLIVE配信視聴者との会議が始まるのであった。
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