第16話 心の再生

――不思議な体験だった。

この体験で、愛は母の意識はまだ存在しているのを感じた。


私は生温い言葉になるかもだけど、

名前に恥ずかしくない私になりたい。


お母さん、お父さんもみていて。

私、自分に恥ずかしくない生き方をしてみせる。


愛は、朝を迎えた。

そこで見た朝陽は、今までみたものより

壮大で光り輝き、私を包み込む。


そうだ。父や母、祖父の魂は、私の傍にいつも居てくれる。


愛の様子を心配していた大人たちであったが

何か吹っ切れたような顔を見て安堵した。


「…愛ちゃん、船を解体しなければいけないのだけど」

珠恵は、愛にある提案をした。


「船は見ての通り解体するしかないのだけれど、

あのね、破片を活かしてアクセサリーを作りたいの」

「…アクセサリー、ですか?」

「そう。いつでも身に付けてお母さんの温もりを

感じていて欲しい」

「珠恵さん、嬉しいです。ありがとうございます。

どんなアクセサリーよりずっと価値があります」

愛の言葉を聞いて、珠恵は微笑んだ。


時男達三人は、短い滞在期間ではあったが

実りある時間を過ごす事が出来た。


愛は、まだ幼い高校生だ。

今回の地震の事で、どれほど心に傷を受けただろう。

でも、ゆっくりかもしれないがそれを乗り越え

生きていこうと前を向いている。


千賀子は、その強さに感服していた。

――愛ちゃんなら、これから大丈夫だ。

三陸の荒々しい海にいつも向き合ってきた父や母の背を見て生きてきたんだもの。

それは時男も同様に感じていた。


帰国した愛は、真っ先に優花へ連絡した。

グアムへ行く前は、気持ち沈んだ愛を見て

とても心配していたが、生まれ変わったかのような愛の姿をみて

とても喜んだ。


「優花ちゃん、私ねグアムでお母さんに逢ったよ」

「え?それどういう事」

「お母さんの御霊なのかな…。あれは確かにお母さんだった」

愛は空を見上げた。


「船は解体することになったのだけど、

グアムで知り合った方がね、身に付けるアクセサリーにしてくれるって」

「良かったじゃない!愛ちゃん。早く出来上がると良いね」

優花も、まるで自分の事のように嬉しくなった。


二人は、中座していた曲作りを再開する約束をし、別れた。


心は時間がかかるかもしれないが、再生する。

この傷みは年月と共にオブラートに包まれて

柔らかな記憶へと変わる事だろう。


確かに忘れてはいけない事もある。

震災の恐ろしさは忘れてはいけない。

ただ、立ち止まったままでは自分がダメになると思う。


小さな一歩。

3歩進んで2歩下がるっていうよね。

それでいい、それがいい。











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