第15話 幻影
四人は、公園を散策した。
サンアントニオ橋のところにきた時だ。
「愛ちゃん、見て」
珠恵が指をさして言った。
橋の隣には人魚の像があった。
「シレナ像っていうのよ」
シレナは木陰に涼んで座っているかのようだった。
――お母さんに似ている――
シレナが一瞬、微笑んだように見えた。
……まさか、まさかね。
シレナの一族は魔力を使う一族だったという。
その魔法でシレナは人魚になったのだと、珠恵が教えてくれた。
私のお母さんも人魚になり、この海で泳いでいるのかしら。
愛は、それもあり得るかもしれないと心で思った。
夕暮れも近くなってきたので、四人は珠恵の家に向かう。
テールライトの鮮やかな色が夕陽に溶けていく。
しばらく走ると珠恵の自宅に到着した。
アーチ形の窓が素敵な家だ。
広いガレージに車を停めると、そこには朽ちた船があった。
大漁丸。
間違いなく、夏海の乗っていた船だ。
~~~~~
庭では、珠恵の夫がバーベキューの準備をしてくれていた。
「アイチャン、ヨウコソネ」
金髪で青い目の背の高い男性は、ジョンさんという方だ。
親し気な笑顔に、愛の心も和らいでいく。
気持ちの良い風が愛の頬を撫でていった。
大人たちはアルコールを飲んで、ほろ酔い歓談している。
そっと愛は席を外しガレージにある大漁丸の所へといった。
白い船体は朽ちてはいたが、まだ原型を留めている。
空を見上げれば青白く輝いた月が愛を見つめていた。
船体を触ると塗装の剝げた部分がゴツゴツとしている。
この上で白い歯を見せて笑っていた母の姿が目に浮かぶようだ。
ふと、耳を澄ますと、背中の方から声が聴こえた気がした。
「あい……愛…」
風の悪戯だったのかもしれない。
だけれど、振り返った愛は見た。
丘の上に、月明かりを背に浴びた母の姿を。
月光を背にしているので、顔は見えない。
「…おかあさん!」
人魚セレナの魔法だろうか。
いや、確かに母だ。間違うわけがない。
そしてその影が、愛に微笑みかけている気がした。
――お母さんが私を迎えに来てくれたんだ――
愛はその影の方へ引き寄せられるように進んだ。
「愛ちゃん!危ない!」
愛はハッとして気付くと、道路の真ん中に立っていた。
珠恵は、愛の姿が見えなくなっていることに気付くと同時に胸騒ぎがし、
道路でボウっと突っ立っている愛を見つけたのだ。
「愛ちゃん、どうしたの。危なかったわ」
「……おかあさんが…」
「え?お母さん?」
「迎えに来たんだ、私を」
愛は、今起きたことを皆に話した。
母の幻影だったのだろうか。
珠恵が
「お母さん、きっと愛ちゃんに逢いに来たんだと思うよ。
いつまでも傍で見守ってくれているのよ」
珠恵は、続けてこんな話を教えてくれた。
――ここのグアムは激しい戦争があった地なのよ。
本当かどうかわからないけれど、こんな話をきいたの。
ある兵隊さんの話。出撃する前にね、残っている兵隊さんにこう言ったわ。
「なぁ、お前たち知っているか。
牛や馬は1頭、
鳥は1羽、
魚は1尾と、こう数える。
何故か。
それは、
「死んだ後に何が残るか?」で、決まるんだ。
では、ここで一つ聞きたい。
俺たち人間は?
1名。そう数える。
そうなんだ、名前なんだ。
俺たち人間は死んでも「名前」は残るんだ。
お前たちは
自分の大事な「名」に恥じない「生き方」ができているか?
一回きりの人生。
後悔しないよう意識すべきことは
「能力」ではなく「生き方」
「知識」ではなく「行動」
読むべきものは「空気」でも「本」でもない
「自分の心」だ。
明日人生が終わると思って生きなさい。
永遠に生きると思って学びなさい――
愛の名前。
誰からも、愛し愛される。
そんな人になって欲しいという家族の想いと願い。
無気力になってしまった私を、母は幻影となって
再び立ち上がらせるために、ここに連れて来てくれたんだ。
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