第4話
二人はコンピュータールームにストーカーがいるかもしれないと思いながら、荷物をまとめて真紀の寮へと向かった。いつもなら入口の前で別れ、隆二は隣の自分の寮へ戻るのだが、今日はそのまま真紀の寮の中へ入った。
真紀の部屋は1階で、入口から左に曲がり突き当たり左側の部屋だった。この1階という位置も、ストーカーにとっては侵入しやすい場所かもしれないと考えると、彼女は一層不安を感じた。
「シャワー浴びてくる」と真紀が告げると、隆二は慎重な表情で言った。
「真紀…共同シャワー室だけは俺も入れない。何かあったらドアを思いっきり叩くんだ。いざとなったら声も出せないだろうから」
「…うん、分かった」
隆二はストーカーがどうやって真紀の個人情報を知り、彼女を付き狙うようになったのかを考えながら、寮の中でできる限りの推理を巡らせた。授業でフルネームを知る機会があったのか? アドミッション関連の人間が関わっているのか? 女子寮に出入りできるのは女性のレジデントアシスタントくらいだが、その可能性も低い。女性の協力者がいるのか? あるいは、ストーカーが女性自身なのか?
さまざまな可能性が浮かんでは消えていった。そして、ある考えが頭をよぎった。「まさか真紀の一人芝居で…俺に近づくための口実ってことはないよな」と思ったが、そう思うにはあまりにも彼女の恐怖がリアルすぎる。
そんなとき、シャワー室のドアが開き、真紀が戻ってきた。
「大丈夫だった?」
隆二が心配そうに尋ねると、真紀は小さく頷いた。
「うん、何も起きなかった」
「それは良かった。でも、真紀、大学にこのこと話さなくていいのか?」
「でも、部屋を突き止めて中まで入って写真を撮るような人だよ。大学に伝えたところで、その情報もすぐに奴に伝わる気がする」
隆二は真紀が胸に顔を埋め、肩を震わせているのに気が付いた。彼女が泣いていることは明らかだった。
「どうして私がこんな目に…」真紀は嗚咽交じりに言った。「隆二、いてよ。一人になるのが怖い」
隆二は彼女をどうすれば守れるか必死に考え、「一つだけ方法がある。俺が帰らなくても済む方法だ」とつぶやいた。
「どんな方法?」
真紀は隆二の胸に顔を埋めたまま、上目遣いで彼を見上げた。
「アパートを借りて二人で暮らそう。そうすれば行き帰りも一緒にできるし、真紀が一人になることもない」
真紀は涙を拭いながら答えた。
「うん、いいよ。私、それで大丈夫。…一緒に暮らしてくれるの?」
「もちろん。真紀を守るためには、今それが最善だと思う」
「…どうしてそんなに守ってくれるの?」
隆二は一瞬戸惑ったが、気が付くと口が勝手に動いていた。
「好きなんだ、真紀のことが。ずっと言えなかったけど」
「…早く言ってよ。もっと早く言ってほしかった」
真紀がそっと隆二の顔を見上げた瞬間、隆二は彼女の唇をそっと奪った。真紀もそれに応えるようにしっかりと彼に抱きついた。
その晩、二人は初めて愛し合った。真紀は周りの部屋に声が漏れないよう必死に抑えようとしたが、時折漏れる彼女の声が隆二の気持ちをさらに高めた。真紀は何度も果て、痙攣しながら隆二の全てを身体で受け止めた。
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