第33話 望まぬデート

 


「俊哉君えい!」


 水をかけられた。

 柚葉からだ。

 一見、何も知らない人から見るとカップルの何かだと思われがちだが、実態は違う。

 ただ、脅されているだけだ。


 何だろう。全然楽しくないや。

 夢葉となら絶対に楽しいはずなのに。


「俊哉君。どうしたの?」

「いや」


 勿論考えていることは、夢葉と一緒に遊びたい。それだけだ。

 だが、今ここで抜け出るのは難しいのだ。


 これが夢葉となら楽しいのだろうけど。


 ★★★★★


 俊哉君を一人目で来たのはいいけど、なんかそっけないなあ。

 せっかく僕と一緒にいるっていうのにさ。


 僕はこう見えても巨乳なんだよ。

 普通の男なら、この胸を見ただけで一瞬で落とせたのに。


 抱きしめても、膝枕しても無駄だっていうのかい。


 夢葉も可愛いと思うよ。でも、僕に勝てるほどじゃない。

 巨乳、僕っ子、それに勝るものはないと思うけど。


「俊哉君、えい!」


 水を何発もかぶせる。


 周りの人たちにはきっと、僕たちはカップルのように見えているだろう。

 それはかりそめの物なのだろうけれど、僕にとっては嬉しいものさ。


「ねえ、俊哉君」

「なんだ」


 だからこそ、僕は提案する。この三十分を有意義なものにするために。


「俊哉君、僕と滑り台に行かないか」


 ★★★★★


「なんでだよ」


 俺は誰にも聞こえないであろう声量でそう呟いた。

 確かに先ほど滑り台は、脅される前に提案されていたものだ。

 だからそう言う事は予測できていた。が、やはりやりたくない。


 夢葉とも、二人乗り滑り台は滑ってないのに、なんで最初がこいつなんだ。

 理由は分かっているが、それでも受け入れがたい。


 俺は今から柚葉の胸を堪能させられることになる。

 っくそ、俺は別に柚葉の胸なんて興味がないっていうのに。


 こんなことを言ったら世の男子たちに恐らく、いや、絶対に怒られるだろう。

 だが、世間一般的にオアシスな状況でも俺にはオアシスと思えないのだ。

 俺には、夢葉の胸のサイズでちょうどいいっていうのに。


 全く、ため息が止まらない。


 これから待ち受けるであろう地獄を考えれば、それもうなずける。

 ああ、いやだ。


 でもこれも、柚葉によるセクハラ的凶行から逃れるためと言えば仕方のない事である。

 その結果、柚葉に拷問的セクハラをされるとなると、結果的にどうなんだという話だけど。


「二人で」


 そう、柚葉が言った。すると、受付員の方が「カップルでですか?」という。

 別にカップル割とかそういう物はなかったはずだが。

 だが、受付の人は単純に気になったのだろう。

 何しろ、柚葉が俺の手を恋人つなぎで結んでいるのだから。



「はいそうです。僕と、俊哉君はカップルです」

「おい」


 カップルじゃねえ。

 俺は夢葉とカップルだ。


 はあ、何だってこんなことになったんだよ。

 と、この愚痴を言うのももう何回目か分からなくなってしまった。


「楽しみだね。俊哉君」

「ああ、楽しみじゃないな」

「僕とのデート楽しんでおくれよ」

「楽しくない」

「あは、照れ隠しは大概にしてよね」


 煩い。

 そして、俺たちの番が来た。

 要するに地獄の始まりっていうやつだ。俺が前で柚葉が後ろだ。


 しかしこれ、柚葉が完全に胸を当てに言ってやがるし、

 柚葉の太ももが俺に当たって少し罪悪感というか、なんというか、申し訳なさを感じるような構図だ。


 しかし、これも柚葉の戦略だ。

 載せられっぱなしでいるわけには行かない。


 どんなセクハラ攻撃にも屈しない。俺はそう決めただろ。

 なに、別に我慢すればいいだけだ。


 それも、三十分にすら満たない時間だ。


「行くよー、俊哉君」


 そう言って俺と柚葉は一気に坂を術tぅて行く。


「きゃああああああ」


 そう、柚葉が叫ぶ。

 こんなキャラじゃないはずなのに、俺の気を引くために必死な様子だ。

 それにこの滑り台自体、小学生低学年くらいでも乗れるようにそこまで激しくない。

 例えばジェットコースターレベルの激しい物であれば別だが、この程度で怖がる中三がいていいはずがない。


 明らかに怖がってるように見えて俺に接触し、胸を押し付けているとしか思えない。

 しかし、この胸の感触。

 まだ彼女持ちであるという事で、女子耐性がついているが、もし夢葉と出会う前だったらやばかったかもしれない。

 


 そして、十数秒の滑り台が終わった。


「はあ、楽しかったねえ」


 そう、柚葉が俺に言う。

 正直今も背中に胸の感触を感じている。

 それがなんとなく気持ち悪い。

 俺は必死に背中をさすって、俺の手の感触で上書きしようとする。


「ひどいなあ。棒の胸の感触をもっと楽しんでよ」

「誰が楽しむんだよ」


 正直、それで悦べるのは、柚葉の本性を知らない人間だけだ。


「なあ、柚葉は楽しいのか?」

「ん? どうしたのさ、急に」

「俺を篭絡しようとするの」

「楽しいよ。今まで僕がアタックして落ちなかった人なんて男女含めてほとんどいないからね」

「つまり難易度が高いほどいいと」

「そうだね。僕は求める相手を落とす難易度が高いほど燃えるんだよ」


 全くはた迷惑すぎる。

 相変わらずの事だが。


「正直今、俊哉君が僕に気が無いのは分かっているし、僕の行動が迷惑な事は分かっている。でも、僕は諦めないよ。いつか俊哉君とイチャイチャが出来るようにがんばるから。僕を見ててほしい」


 そう、決め顔で言う柚葉。

 この一面だけ見れば、王子様だ。

 言ってることはとてつもなく、キモイ宣言だが。


「ああ、がんばらないでくれ」

「ひどくないか。僕だって乙女なんだよ」

「どこが乙女なんだよ」


 悪魔と言った方が良いと思う。


「さて、俊哉君後時間は十分残ってるだろう」

「ああ、そうだな」


 貸出期間だ。


「だから、最後に一緒にしたいことがあるんだ」


 そして連れられた場所は屋内プール。だが、少しだけ違うところがある。

 それは。柚葉が見って来たのが、浮き輪だという事だ。

 つまり二人で浮き輪デートがしたいという事だ。

 しかも連れられたのは流れるプール。水が勝手に流れていくおかげで泳がずども、進んでいくのだ・


「ここで一周だけお願い」

「はいはい」


 これで、夢葉の元へと行ける。


 その時間になることを楽しみに待とう。


 そして今浮き輪に二人で乗っている。ちくしょう。後で夢葉と全部して感触を上乗りさせるしかない。


 そしてまた、太ももが当たっているが、もはや感情は捨てた。


「やっぱり、流れていくねぇ。楽しいかも」


 そう言う柚葉。


「ねえ、俊哉君は僕の胸どう思う?」


 正直に聞いてきやがった。

 先程から胸を押し付けているのだ。


「どうも思わないよ。ただ、うざいだけだ」

「あは、言うねえ」

「そりゃ言うよ。正直夢葉の胸の方が気持ちがいい」

「ん、俊哉君は夢葉の胸を触ったことがあるのかい」


 それを聞いた瞬間ドキッとした。

 正直言うとあるのだ。


「あはは、やっぱりか」

「気づいてたのか?」

「僕を舐めないでもらいたいな。恋愛マスターの僕を」


 ドヤ顔ムカつくな。


「流石に二人を見てたらわかるよ」

「そうか」


 俺はこれに対してどう返事したらいいんだろうか。


「まあ、だからこそ燃えるんだけどね」

「柚葉は夢葉に勝てると本当に思ってるのか?」


 ちなみに俺は全く思わない。

 勝てる理由が見当たらない。


「思ってるよ。なんせ僕は恋愛マイスターだからね」


 そう言って胸を張る柚葉。


「俺は夢葉一筋だから」

「だめ、僕が奪い去るからね」


 そう言って舌をべーと出す柚葉。

 そして、一蹴終わった。


「じゃあ、僕はまだ頑張るね。俊哉君を僕の物にするために」

「ああ、がんばれ。俺的には無駄な努力になると思うが」

「あは、言うねえ。でも僕は頑張るよ」

「ああ」



 そして柚葉と別れた。

 なんだか、後押しするようなことを言ったし、なんだか、漫画の一シーン的な会話をしたが。


「本当に地獄だった」


 結局柚葉から向けられる好意ほど気持ち悪いことは無いのだ。

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