第32話 柚葉の脅し
「さあて」
そう言った柚葉は早速俺の方に来た。
「俊哉君。あそこに二人乗りの滑り台があるよ」
そう言って柚葉は向こうを指さした。そこには確かに滑り台があった。
それはまさにウォータースライダーのような本格的な物ではなく、小さなものだ。
恐らく、小学生でも乗れるように設計されているのだろうか。
ただ、少し違うのは浮き輪に二人で乗って滑ることもできるという事だ。
「あれに一緒に乗って滑ろうよ」
「馬鹿らしい」
俺は小声で言った。
魂胆は分かっている。
どうせ、密着するためだろ。
「夢葉、穂乃果、行こうぜ」
俺は柚葉を無視して二人にそう言った。
こいつに構って、せっかくのプールの時間を台無しにするわけには行かない。
「そうなのです。柚葉ちゃんはほっといて遊ぶのです」
「私も賛成であります」
元気よく言う二人を連れ、歩いて行こうとすると。
「待った。俊哉君は僕が貰うよ」
そう元気よく言って柚葉が胸を押し付けてきた。
柚葉の巨乳が体に当たり少しだけ興奮してしまう。
何より水着だ。服という邪魔なものが無く、胸の触感がダイレクトで感じられる。
だが、興奮はしても、気持ちいいとは思わない。
「何をするんだよ」
俺は柚葉を軽く押しのけた。
「ひどいなあ。僕は、俊哉君のためにパラダイスを作ろうとしたのに。えい!」
柚葉は俺を押した。その先はプール。
「げほっ」
不慣れな体勢からプールに入ったため、少し耳と花に水が入った。
そして次の瞬間柚葉に抱き着かれる感触がした。
そう、柚葉に抱き着かれたのだ。
「ほら、プールで僕とのハグだよ」
「ああ、もう!!」
少しずつ怒りがわいてくる。
もう爆発しててもおかしくない。
「俺はお前と一緒に泳ぐつもりはねえよ」
「えー、僕は一緒に泳ぎたいなあ。それに見てよ」
沿う柚葉が指さいs多方を見ると、みんながこちらを見ている。
ここで乱暴な事を刷れば最後。俺は、DV彼氏などと思われるかもしれない。
本来なら、柚葉を水の中に押し込みたいところだが。
今見ている人たちは、ここから先の光景しか知らない。
れが、男だけの集団なら良かったんだが、この女子四人は嫌でも注目を集めてしまうのだ。
しかも、柚葉が叫びでもすれば、一気に悪者になるのはこっちだ。
こういう場合、男子は弱いのだ。
だからこそ、あまり乱暴なことはできない。
「夢木さん。これどうにかなりませんか?」
「諦めろ。俺にはどうすることもできない」
「夢木さん!!」
どうしよう。頼りにならなさそうだ。
全く。まさかここまで柚葉のセクハラが暴走することになるとは。
いや、ここに来た時から予測は十分できていたはずだ。なのに俺がたまたま防ぐことが出来なかったというだけで。
だが、その時に、俺の体と柚葉の体が引きはがされた。ふと振り向くと、その犯人は夢葉だった。
「そんな事やめるのです。……俊哉君が嫌がってるのです!」
「いいね、来ると思ってたよ。夢葉」
そうイケメンスタイルで言う柚葉。
だが、状況、そしてその実態はただのセクハラ野郎だ。
「夢葉助かった」
「もう俊哉君の嫌がることはするななのです」
これ結構夢葉怒ってるな。
「私はできれば乱暴な真似はしたくないのですけど、柚葉が引き下がってくれないならそれもやむを得ないのです」
そう言って拳をひねり出す。夢葉。
「じゃあ、条件を出そう」
「条件?」
「うん。僕はただ俊哉君を僕のものにしたいだけなんだ」
『ただ』の使い方絶対に間違っているだろ。
「だから一瞬俊哉君を貸してくれればいい。一時間。いや、三十分でいいから」
「はあ?」
明らかに交換条件としておかしい。今日一日もう俺に襲い掛からないから三十分好きにさせろ?
普通に考えれば脅しだ。
だが、ここから先こいつに色々とされるのも嫌だ。
「分かった」
俺は頷いた。
「俊哉君。頷くのですか?」
「ほんの三十分耐えればいいだけだ。そうすれば、もうこいつは手出ししてこない。だろ?」
「うん。約束するよ」
「だからごめんな」
俺は夢葉にそう言った。
「だけど、俺は夢葉の物だから。それは当然のだ」
「……分かったのです。ここは私が折れるのです」
「ありがとう。……大丈夫だ。俺は絶対に戻ってくる」
「約束なのですよ」
「ああ、約束だ」
そして俺は夢葉に手を振り、柚葉の奴隷となる。
三十分間こいつの命令には逆らえない。
まったく、面倒な事だ。
★★★★★
許可はしたのですけど、怖いのです。もし俊哉君があの巨乳の虜になってしまったら、私はどうしようもなくなるのです。
柚葉は本当に最低な奴なのです。
実質脅してるようなものなのです。
なぜあんなことがまかり通るのです。
明らかおかしいのです。
「どうしたのでありますか?」
穂乃果ちゃんが私に訊くのです。
「ちょっと、柚葉が憎くなったのです」
なぜ、俊哉君をちゃっかりと奪ってるのでありますか。
「こいつはな、柚葉に焼いてるんだよ」
「妬いてないのです」
元々あの子なんて、所詮ライバルですらないのです。
でも、俊哉くんは渡せないというのはしっかりと思っているのですけど……
でも、確かに不安な気持ちはあるのですけど。それは仕方のない事だと思っているのです。
私は俊哉君の彼女つまり、正妻は私なのです。
だから、心の余裕は持つべきだと思っているのです。
そして私は少し息を吐くのです。そして、穂乃果ちゃんに言うのです。
「一緒に遊ぶのです」
柚葉ちゃんのあの行動は少し許せないのです。
でも、それでせっかくのプールを楽しくないものにしたらいけないのですよ。
俊哉君が戻ってくれば、また楽しいものになるのですから。
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