第16.5話 夢木と和馬
今日は学校初登校の日だ。入学式の前に一旦教室に集まるらしい。俺の教室は1年六組らしい。というわけで教室に行く。この学校には和馬の知ってる人はいない。そういう意味でも和馬の人生新スタートの日だ。
学校に着いた。周りの人を見ると和馬は緊張する。今日から高校生なんだなと思って。
そうしてようやく教室に着いた。和馬は友達できなかったら嫌だなあとか思いながら教室の中に入る。
「おはよう」
挨拶は友達作りの基本だ。無視されたら怖いが、一応言っておく。
「おはよう」
数名の人が返事をしてくれた。その中で、自分の席を探す。すると、真ん中ら辺の席が空いていた。そこに座る。
「君が俺の隣か。よろしく」
和馬に話しかけてくれたのは赤髪の派手な腰まである髪の毛が特徴的な美少女だった。いやその前に俺っこ?
「あ、ああよろしく」
戸惑いながらも返事をする。僕っ子俺っ子って漫画の中だけじゃないのか?と、純粋な疑問が和馬の脳内をめぐる。
「俺は水谷夢木。気軽に夢木って呼んでくれたらいいさ」
声は確かに女の声だ。だが、喋り方が完全に男だ。これは触れていい事なのか?
「俺は道谷和馬だ。よろしく」
と、言ったら夢木が手を差し伸べた。俺はその手を取りしっかりと握手をする。女の手の感触だ。俺は恥ずかしながらそこまで女性と関わったことがない。この感触は……そう、新鮮だ。
「さてと次は入学式だな。心境はどうだ? 和馬」
「怖くはないよ。ただ学長? 校長? の話を聞けばいいだけだから」
「そうだな。だけど、俺は少し怖い」
「なぜ?」
「俺はな、こういう喋り方だから、何か言われるんじゃないかと思ってるんだ。女なのに変だろ」
それ、つっこんでも良かったのか。気にもしている……
「一人称が俺って。俺だってそう思う。だけど、俺は自分を偽るのが嫌なんだ。女と遊ぶのも嫌だし、女の遊びをするのも嫌なんだ。俺は昔から男と遊んだほうが楽しいしな」
「そうか、まあ俺はそれでいいと思うけどな。それはお前の自由だろ。自分が何を選んでも、な」
「ありがとう。すこしだけ惚れたよ」
「そこは女なのかよ」
「当たり前だろ。俺は別にそう言う性的思考ではないんだ。まあでも、お前を俺の友達第一号と認定してやる」
「やけに上から目線だな、まあいいけど」
「よろしくな。やっぱり友達は男に限るぜ」
「おう、まあ、俺でよかったらよろしくな」
「うん!」
「おーいそろそろ、入学式だから、一旦話を聞いてくれ」
と、言われた。
「俺は今年君たちの担任となる小野隆だ。よろしく。さっそくだが、これから一組から順にホールへと向かう。つまり俺たちは六番目だな。順番が来るまで待機となるが、これが高校生活の始まりなんだ。友達はしっかりと作っておけよ」
「はーい!」
と、どうやら今は待機時間らしい。さて、どう時間を時間を潰すか……
「俺たちで何か話をしよう!」
と、夢木が話しかけてした。そうか俺にはもう友達がいたんだと、和馬はしみじみと感じた。
「話っていっても何がある?」
「うーん。互いの趣味も知らんしなあ。とりあえず、スポーツとかは見る?」
「まあ結構詳しいと思うが」
「本当?」
そう、夢木が和馬に向かって顔を覗けてきた。しかし、見れば見るほど美人だ。この顔で俺っ子か、破壊力強すぎて俺和馬以外だったら余裕で耐えられないところだ。
「じゃあ野球どこファン?」
「ミハイル」
「同じだ。地元だもんな」
「じゃあその話するか」
「おう!」
夢木はニカっと笑った。
うん、やばいな。女として見てしまうかも。たぶん夢木は彼氏とか欲しいとかじゃなくて男友達が欲しいのだ。だから和馬は男として見た方がいいのだが……
「昨日四番の畑村仕事したよな。見事にチャンスでヒットを打って」
「ああ、あそこで打てなかったらズルズルいってやばかったからな。あそこで勝ち越し点を決めれたのは偉い」
「あとは、もう宇月が三本塁打打ってるのも凄いよな」
「他の選手は一本しか打ってないしな」
「シーズン一四三本塁打本塁打ペースだぞ。やばすぎないか?」
「確かにな、去年に続きホームラン王もあり得るかもな」
卯月とは去年二十三歳の若さで四九本塁打を打ったバケモンだ。最近打低傾向にある野球界で凄いことだ。
「おーい、そろそろ移動するぞー!」
「あ、そろそろだってよ。行くか」
「ああ」
と、席を立つ。いよいよ入学式か、ああはいったが流石に少し緊張する。
「手、繋ごうぜ」
「はあ!」
手を繋ぐ? 無理だ。恋人みたいじゃん。流石にそれは少し気が引ける。
「あ、もしかして俺のこと異性として見てるのか? なるほど、なるほど」
「ちょ、ニヤニヤすんなよ。分かったよ手を繋いでやるよ」
「なんだよ、繋いでやるよって、俺たち友達だろ」
「まあそうなんだけどよ」
と、そのまま歩き始める。周りの人から若干視線を感じる。そりゃあそうだ、初日に手を繋いでる男女がいるんだからな。ちなみに移動は二クラスごとらしく、こいつの一人称が俺だと知らない人もいる。流石に、恥ずかしい。
「なんか喋れよ」
「はあ?」
「さっきから無言じゃん。また野球の話しようぜ!」
「まあそうだけどよ、なんか緊張するじゃん。男女だし」
「俺たちは友達だろ! てか、俺は女だけど、中身は半分男子だから」
「はあ、お前にとってはそうかもしれないけど、自分が可愛いってことを自覚しろ」
「ああ、分かってるさ。俺は可愛いって。というかそろそろ会場に着くぞ」
そう、夢委が言うと、和馬はあたりを見渡す。すると近くにホールのような建物が見えた。
「ああ、確かに。じゃあ入ろうか」
そう、和馬が言って、ホールの中に入っていく。ホールでは流石に隣じゃなかったので、夢木は名残惜しそうに別の席に座った。
「えー、皆様ご入学おめでとうございます。君たちはもう高校生です。これからこの学校で勉学に励む事を……」
物凄い長いご挨拶が始まった。この退屈も夢木が隣なら何か変わっていたのだろうか。寂しく思うのも無理はない。和馬には中学までは夢木ほど気が合う奴は居なかったのだから。まあ、まだ一時間しか一緒にいないのだが。
「お疲れー!」
夢木が和馬に抱きついてきた。
「お前なあ、見た目は完全に女なんだぞ、迂闊な真似をするなよ」
「良いじゃねえか。俺は俺が生きたいように生きるだけだから」
「そういう問題か?」
と、教室にしゃべりながら戻っていく。主に野球の話をしながら。
「ではこれから最初のホームルームを行う。まずは自己紹介だ、出席番号順に自己紹介してくれ」
と、その言葉に大勢の生徒が「はーい」と返事した。
「相原恵です。南川中学校から来ました、趣味はバイオリンを弾いたり、アニメを観る事です。よろしくお願いします」
と、一人目の生徒が自己紹介をした。バイオリンが好きなんだな。いや、緊張するな。まあすでに友達はいるから自己紹介で失敗してもあまり痛くはないかもしれんが、それでも失敗が怖い。
「井山雅俊です……」
「上田秋です」
どんどんと順番が進んでいく。あー、怖い。
「そう言えばお前なんていうつもりなんだ?」
和馬は小声で夢木に聞く。
「普通だよ。別に特質したことは言わねえよ」
「ふーん。派手なこと言いそうなのにな」
いよいよVの番だ。
「俺は道谷和馬だ。趣味はアニメを見ることや、ゲームすることです。よろしくお願いします」
シンプルイズベストだ。別にそこまで難しい話をしなくてもいいんだ。てか、皆あまり長い自己紹介はしていないみたいだし。
まあとりあえず、自己紹介が終わってほっとした。
そして再び数名の生徒が自己紹介していき、葵の番が来た。どのような自己紹介をするのか非常に気になる。何しろあいつは俺っ子と言う特性を持っている。その自己紹介となれば気になるのも当然のことだと思う。
「俺の名前は水谷夢木で、趣味はスポーツ観戦と、運動をすること。ちなみに性格は半分男子だ。よろしく」
と、夢木の自己紹介が終わった。思ってたより、普通の自己紹介だったな、とはいえ、これで葵が俺っ子と言う事実がクラス中で周知の事実となった。それにより、何人もの生徒が、葵の方を見ている。たぶん思っていることとしては、なんで俺なんだ? だとか、しゃべり方完全に男子なんぎゃないかと思ってるだろう。そして葵の方を向く。つきものが晴れた顔をしている。
そして自己紹介が終わり、皆で簡単なゲームをすることとなった。クラスのみんなが仲良くなれるように先生が提案したものだ。まずは、人狼自己紹介と言う名のゲームだ。自分の紹介を紙に書くのだが、その中に一つ嘘をまぎれさせるというものだ。なるほど、これは仲良くなるのに適したゲームだ。
そして、クジの結果、葵と同じチームになれた。和馬、夢木、鈴原美穂、牧幸助、三浦大翔の5人だ。先生が言うにはできるだけ男女比が均等になるように分けたと言っていたが、青いは女に加えていいのか?
まあそれはおいておき、早速自己紹介を書き始める。
3つは本当のことで一つは嘘をかけと言われた。
嘘……いい嘘が思いつかない。ただ、まあばれないようにはしたい。という訳で、質問責めされたらばれるような嘘はNGだ。という訳で、質問責めに会いにくい嘘にしなければならない。あれ、難しくねえか? でも時間かけすぎるのも、怪しいよなあ。よし決めた!
「じゃあ発表しようか!」
と、夢木がいい、そのまま発表へと移った。まずは鈴原さんからだ。
「私はここ以外の県から来ていて、バイオリンが弾けます。次に、中学校では学校から真面目だからと言う理由で賞を受けたことがあります。後最後にイギリスに行ったことがあります」
という、自己紹介を受けた。
そんな感じで進んでいった。ちなみに嘘はバイオリンが弾けるという事だった。
そんなこんなで和馬の番が来た。
「俺は、スポーツ観戦が趣味で、好きな球団はラシスンメーターズだ。好きな食べ物はエスカルゴで、俺の嫌いな教科は国語です」
と、伝えた。当然嘘は二つ目だ。この球団は東京の球団である。別にミハイルのライバル球団という訳では無いが、地元球団以外の球団のファンになると言うことは村八分を覚悟しなければならないのだ。あ、そうだ。
「夢木、お前はどれか俺の嘘か知ってると思うから、黙っとけよ」
「分かった。まあ俺も楽しめるやつにしてくれたら良いのなに」
「それは悪かったよ」
「まあ許すけど!」
と、夢木が愚痴をこぼす。そして質問タイムが始まっていく。
「年何回くらい行くんだ?」
「なんでお前が聞くんだよ」
「良いじゃん。ほら時間ないぜ」
「あーもう。去年は一回だけだ」
「なるほどねえ。ありそうだな」
とは言え、今気づいたのだが、どっかの野球ファンな時点で、スポーツ観戦が趣味は確定なのでは。しまったな。まあ葵は気づいてはなさそうだけどな。
「じゃあ次の質問」
「お前質問しすぎだよ。別のやつに回せ」
「分かった」
「じゃあ俺が行くわ」
と、そのまま三浦君が言って。
「エスカルゴのどんなところが好きなんですか?」
と、質問する。なるほど。そう来たか。まあ俺はエスカルゴの事最高の食べ物だとは思ってるが、ゲームと言う点で言えば、控えめに言ったほうがいいのかもしれな五。とりあえず、思い付きで話している感を出さなければ。
「…………俺は……エスカルゴの……味がしみてるところが好きだ」
と、おどおどした感じで答える。嘘だと思われるほうがいいのだ。
「わかったじゃあ次俺が」
と、牧君が質問する。
「えっと、なんでその球団のファンになったんですか?」
おう、いい質問が来たな。
「えっと、四番の山谷選手チャンスでとことん打つから好きになって、そこからチームも好きになりました」
得点圏打率は実際3割台後半と高い。だが、好きではない。むしろ嫌いだ。打ちすぎてるのだ。あいつには本当打たれた記憶しかない。
少し葵の方を見る。すると、机に肘を置き、手で顔を支えながら、ニヤニヤとしている。おい、こいつのせいでバレるんじゃないか?
「じゃあ結果発表かな?」
と、結果発表だ。皆が怪しいと思ったやつを言う物だ。結果、俺のはったりが通用したのか、俺のやつは外れさせることが出来た。そして次は夢木の番だ。
「俺の趣味は、ミハイムを見ることで、語尾なのですの妹がいるぜ、そして少女漫画が好きで、夢は小説家だ」
「嘘分かったぞ」
そう、和馬が言った。
「なんだよ」
「俺もわかった」
「私もわかりました」
「おいおい、俺そんなに分かりやすかったか?」
その、夢木の言葉に、そこにいた全員が首を縦に振った。
そしてあっという間に投票が始まり、和馬含めた全員が妹を嘘だと思い、全員一致で、妹の件だと思ったが。
「俺の夢は小説家という事が嘘だ」
そう、夢木が言ったことで、どよめぎが起こった。
「俺っ子の妹は、なのですかよ」
そう、和馬はため息をついた。
そして、実際に放課後に夢木の家に向かうと、
「お姉ちゃんの彼氏なのです?」
実際に天使のようにかわいい、語尾なのですがいたのだから驚きだ。
「実際にいたのかよ」
そう和馬は今日何度目かも分からないため息をついたのであった。
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