第17話 添い寝

 今日はいつものように勉強会のために夢葉の家に行く。

 だが、今日は見知らぬ男性がいた。


「おう、夢葉おかえり」

「ただいまなのです」

「こちらの男性は誰ですか?」


 始めてみる。まさか、こちらもいとこで、しかも変な人とかないよな?


「こいつは俺の友だちだ」

「友だち……」


 そういえばこの前に言ってたな。


「和真だ。よろしく」


 そう言って俺の方に手を伸ばしてきた。

 俺はその手を握る。


「こいつとはな入学式のときに出会ったんだ。こいつは俺と同じミハイムランドリーズを応援してるんだ」

「お姉ちゃんは酷いのですよ。私と好きな球団が違うのです」

「別リーグだからいいだろ」


 セ・リーグのチームで。主砲の卯月は27歳ながら本塁打王を4度だっけ?獲得したことのある凄い選手がいるチームだ。


「それでな、俺とこいつはな、こう見えてもう三年の付き合いだ。おっと、それはさっき言ったか。まあいいや、それで、俺とこいつは仲がいいわけなんだが、こいつはなこう見えて結構うぶでさ」

「まさか夢木、あれを言う気じゃなかろうな」

「いいだろうか、別に聞かれても困る話じゃないだろ?」

「それは俺が困るんだよ」

「いいや、止めても俺は言うさ、いや、言わなきゃなんねえ」


 お、なんだなんだ。

 彼、一馬さんにとって聞かれては困る話か。

 気になるな、


「実はこいつな、俺と一緒にお泊りしたことがあるんだよ。その時に俺が下着姿で過ごしてたら、JKが何をしているんだ、と本気でお起こって来た時があるんだよ。それがそれが面白くてたまらんのよ」


 あ、それは誰でも思うだろ。


「そりゃそうだろ。てか、この微妙な反応。……まさか彼にも見せてないだろうな?」

「おー、見せてるに決まってるだろ。今も脱ぎたくて仕方がないんだからな」

「あーもう、あんたっていう人はさ。……もう三年間一緒にいるから慣れたけど、本当に痴女過ぎる」

「痴女とか言うな、俺はあんなことやそんなことはお前としかやってねえよ」

「そう言って誤解を招くような言い方するな!!」


 あー、なんていうか。……彼も大変なんだな。


「それじゃ、俺は彼と一緒にエッチなことするから夢葉も頑張れよ」


 エッチな事をするとは。どこまでのラインなのか。

 キスまでくらいだったらいいんだが。


 すると向こうで、「俺たちは恋人じゃないんだぞ」という声が響いていた。あの人も大変なんだな。


「ん、私たちもするのです?」

「するわけねえだろ。俺たちは勉強だ」

「流石なのです。覚悟はできているようで安心したのです」


 そう言った夢葉に部屋に連れられた。

 ああ入ったものの、これからまた勉強家と、少し憂鬱だ。


「今日はエッチな事ではないのですけど、一つご褒美を考えているので、がんばってほしいのです」

「なんだそれは。気になるなあ」

「それは後のお楽しみなのです。少なくとも今は教えられないのですよ」

「そうか」


 なら頑張るしかない。


 しかし、夢木さんの友達か。こういったらなんだが、良く友達になったな。

 あの人とじゃあ、いろいろ大変だろ。

 苦労も会えなさそうだ。

 あの人、平気で下ネタとか言いそうだし、言ってるし。


「集中するのです。このままじゃあ、ご褒美は無しなのですよ」


 怒られた。


「そりゃ、気になっちゃうだろ。あの人たちの事」


 勿論夢木さんと、和真さんだ。


「ふーん、なのです」

「フーンってなんだよ」

「そりゃ、勉強中にほかのこと考えてるのかという反応なのですよ」

「そりゃ、気になるだろ」

「考えことをするなら、私のことにしてほしいのですっ!!!」


 そう、ビックリマークが三つくらいついてそうなテンションで夢葉は言い切った。


「まさか、前の柚葉ちゃん事件で、少し妬いてるのか?」


 それ加え、今回恋人一歩手前の和真さんと、夢木さんだ。


「……当てないで欲しいのです。私は俊哉君だけの物なのですから」


 そう言われたら照れる。俺はそれに何も返さず勉強に集中することにした。

 この感じだったらご褒美にも期待できそうだ。


「はあはあ、これでどうだ」


 世界史のプリントの穴埋め。すべてを埋めた。

 恐らく六割程度はできたと思う。


「うん、採点するのです!!」


 そう言って夢葉は自分のポケットからペンを取り出し、採点を始める。


「俊哉君、採点しながら独り言を言うのです」


 採点開始から1分が経過した時に、夢葉がぼそりそう口にした。

 この時点で独り言じゃない気がするけど。


「私は、あの二人とは違うのです。あの二人ほどは大胆にはできないのです」


 大胆にはできない……。


「私は、胸が大きくないのです。だからこそ、女性的魅力に乏しいのです」


 そっちの話か。確かにあの二人に比べて、夢葉の胸は小さい。所謂貧乳と言われる大きさの胸のサイズだ。


「だから、不安なのです。俊哉君が向こうに行かないとは思い打つも、あの二人の巨乳に飛びついてくるって」

「そんなわけ――」

「この前は嫌いになったと聞いて少しほっとしたのです。でも、もしあの子の色仕掛けが成功してしまったら、どうしようもなくなる。それが不安なのです。だからこうして、勉強会という形とはいえ、俊哉君と一緒に居られるのは幸せな事なのです」

「夢葉……」


 確かに夢葉の気持ちもわかる。

 俺は男だから、胸の大きさとか分からないが、あんな自分の武器を盛大に振り回している女二人がいたら、そりゃ不安になる。仕方のない事だ。


「だから私は決めたのです。俊哉君を決して、手放さないと。だからこれからもっと俊哉君と一緒にいるのです」


 そう、夢葉は俺の方にその可愛い顔を向け言い放った。

 ちくしょう、可愛い。

 お前には胸は無くても、その可愛い顔があるからいいじゃないか、と言ってやりたい、だが、今言うべきはそんな言葉じゃない。


「夢葉」


 俺は夢葉に抱き着く。


「心配しなくても、俺は夢葉一筋だ」


 そう、夢葉に心配させるようなことにはさせたくない。


「それに、夢葉の武器は胸とかじゃなくて、その愛嬌だろ。SNSでフォロワー数が多いのもそのおかげだ」


 SNS上の夢葉は皆から愛されている感じがする。


「むしろ俺が妬いてる部分もあるよ。だって、フォロワー多いから」

「じゃあ、SNSを消すのです」

「いや、それは待て。話が違う」


 別に消してほしくて言ってるんじゃない。


「あくまで、SNS上のお前を、夢葉という人物を知っている人が俺だけじゃないという事に焼いてるだけさ」

「そう、なのですか。……今日の予定を変えていいですか?」

「? いいぞ」


 何に帰るつもりなのだろうか。


 次の瞬間、俺は夢葉と一緒に寝ている。


「今日は、添い寝をしてほしいのです。本来のご褒美ではないのですが、そこは頑張った俊哉君へのご褒美という事で、お願いしたいのです」


 正直、夢葉がしたいだけだろという言葉がのどまで来ていたが、言わないでおこう。


 夢葉が楽しいならそれでいい。


「私、昨日告白されたのです」


 俺を抱きながら夢葉がぼそりと言った。


「七島健斗君に告白されたのです」


 衝撃的な言葉だ。急にぶっこんで来るから驚いた。


「私のところには結構告白が来るのです」


 告白が来る。まあそれは周知の事実だ。元からモテるという情報があったのだから。


「でも、本当に私には俊哉君しかいらないのです」


 俺しかいらない……。


「やっぱり私は俊哉君が好きなのです。だから」


 そう言って夢葉はさらに強い力で俺を抱きしめる。


「私の我儘を聞いてほしいのです」


 そう言って、夢葉は俺の背中に頭をこすりつける。


「もう少しこのまま俊哉君成分を吸収したいのです」


 その間俺は、ドキドキに耐えるのであった。

 だって、俺だって、夢葉みたいな美少女に今こんな健気な姿で、抱き着かれてたらそりゃ、ドキドキするよ。何ならドキドキしないわけがない。

 もしこれが、抱き着いているのが夢木さんや柚葉だったら、胸が当たってエロい気持ちになるかもしれない。だが、それは違う。

 夢葉に抱き着かれているからこそ、得られる成分だってあるんだ。


 夢葉は本当に純粋で、これが夢葉に出来る最大限のイチャイチャなのだろう。だが、今はこれでいい。これでいいんだ。



 それから十分後。


 夢葉は寝てしまったようで、すぅすぅと、可愛いいびきをかいている。

 俺はそんな夢葉が愛しくて、夢葉を抱きしめながら、俺も目を閉じた。


 勉強のために、この家にいたのに、今は二人で添い寝をしている。中々に奇妙なz神田が、これはこれで楽しいのだ。






「おーい! 二人とも起きろ!!」


 俺たちはその声で目を覚ました。


「二人ともいつまで寝てるんだよ。和真なんてもう帰ったぜ」


 その目の前には、下着一枚の、夢木さんが立っていた。エロい。


「お姉ちゃん……?」

「おう、お姉ちゃんだ。てか、もう十時だぞ」

「へ、十時?」


 そんなに寝てしまっていたのか?


「もう帰れ、俺もうろはいるところだしよ。あ、もしかして二人で風呂にでも入ろうとしてたのか?」

「お姉ちゃんは黙っててほしいのです」


 夢葉が気怠そうに言った。


「お姉ちゃんは好きですけど、そう言うところは嫌いなのです」

「おい、なんだよ」

「自分の胸で考えてほしいのです。行くのです俊哉君」

「お、おう」


 急に夢木さんへのあたりが強い、

 とはいえ、それも当たり前か。


「俺は、別に風呂入ってもいいんだぞ」

「そう言う話じゃないのです。……私と一緒にお風呂に入ったって、私の貧乳がばれるだけなのです」

「まだ、胸気にしてんのかよ。それはお前の価値じゃないだろ。それに俺は夢木さんみたいな人並外れたサイズの胸じゃなくて、お前のその……」


 なんていえばいいんだ。


「人並みの胸の方が好きだ」

「そう……なのですか。でも、結構見てたのです」


 確かに寝起きだからがっしり見てしまった。


「もう、お姉ちゃんの胸を見ないで欲しいのです。私の胸元だけ見てほしいのです」


 そう言って夢葉はまな板となっている自分のシャツを指さす。


「分かった」

「それでいいのです」


 なぜか自慢げな夢葉。

 こういう会話、楽しいわ。


「でも、お風呂はまだ早いのです」


 家を出る瞬間に夢葉にそう言われた。


「それは俺も思う」


 でも、まだ早いってことは、将来的に一緒に入るかもという事か。

 そう言えば俺と夢葉は恋人だもんな。



 ★★★★★


「あ、」


 家に帰った後、とあることに気が付いてしまった。


「世界史の穴埋め、何点かわからねえ」


 採点は終わってたはずだが、その肝心のプリントを返してもらってなかった。


「はあ、気になる」


 そう、俺はため息をこぼした。

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