第16話 勉強会
いよいよテストシーズンが始まった。
期末テストだ。
その前にあった模試の結果が返ってきたが、ぼろぼろだった。偏差値は45ほどだ。
対して夢葉は全体的に高得点で、偏差値が70超えてる。
なぜ、この高校に行ったかと聞くと、単に家に近いかららしい。
一番イキれる理由じゃねえか。
まあ、そんなことはどうでもいい。今俺が考えるべきことは。
「夢葉さん。俺に勉強を教えてください」
土下座だ。
このままでは赤点ギリギリで胃の痛いテスト、そしてテスト返しを体験しなければならない。
これではだめだ。
夢葉に教えてもらわないと。
「勿論いいのです。むしろ私が教えたいくらいなのです」
「そうか、なら頼む」
「これで、役に立てると思えば嬉しい事なのです!!」
そうはしゃぐ夢葉。
「早速私の家で勉強会なのです」
そして放課後。夢葉の家に行く。
「私はスパルタだなので覚悟してほしいのです。今日は夜9時まで返さないのです」
「ええ!? ご飯も今日も夢葉お家で?」
「そうなのです。まあ、マ○ドナルドで勉強会してもいいのですけど」
「まあ、とりあえずは夢葉の家で」
「分かったのです。まず、俊哉君の模試の結果から踏まえると、数学が苦手そうなのです。となれば、勉強すべきは数学からなのです。さあ、とりあえず、今回の範囲の復習をするのです」
そう言って教科書問題を夢葉は俺に出した。
そして分からないと言えば、ヒントを出してくれる。
優しいな。そんな夢葉の優しさを無下にしたくない。
俺はそのヒントを頼りにしながら解く。
「おお! 正解なのです。俊哉君はすごいのです」
そう言って夢葉は俺の髪の毛を撫でてくれた。
なんだかうれしくなる。
それにだ、夢葉のヒントの出し方も本当に上手い。
考えるヒントをくれる。答えがあっさりと分かって勉強にならないなんてこともないし、答えが全然分からないなんてこともない。
しかも、夢葉が一々可愛い。
自分一人でやるより断然やる気が違う。
本来なら気怠いだけのテスト勉強も心なしか楽しいものになっていく。
「この調子で行くぜ」
「その意気なのです」
このやる気が落ちる前にどんどんと説いていく。
それが最善だ。
「おし!」
どんどんと数学の問題を解いていく。
だが、やる気はいつまでも続いていくわけがなかった。
「疲れた」
がらにもなくやる気を出し過ぎたのか、体力が切れかけている。
「お疲れ様なのです」
す、夢葉は俺の背中を優しくなでてくれるが、
しかしまだ勉強開始から1時間半しか経っていない。
俺自身の体力のなさを恨めしく思ってしまう。
「少し休憩して野球でも見るのです」
「ああ、悪い」
「でも、二イニングだけなのですよ。それが終わったらまた勉強に戻るのです」
「そうか」
本当にスパルタティーチャーだな。
そして野球の二イニングはあっさりと終わってしまう。
というのも投手戦だったからだ。
二イニングが20分で終わるなんて聞いていないぞ。
三十分はかかると思っていたのに。
「じゃあ、俊哉君。やるのです」
「いや、少しだけ待ってくれ。まだ、体力が回復しきってねえ」
「いや、休憩はもう十分なのです。野球はスポーツアプリで見るだけにするのです」
そのまま、俺は夢葉に国語の勉強をさせられる。
「国語はとにかく漢字と、文章を読む事なのです。さあ、今から参集するのです。それも先生から渡された解説集を読みながらなのです」
そう言って俺に国語の文章を渡してきた。
「この文章は良いのですよ。人間関係の難しさがよく表現されていて素晴らしいのです。小説を読むならまずこれと言ってもいいと思うのですよ」
なるほど。確かに文章は素晴らしかった。
胸木陶磁さんの作品と違って、表現性を重視した作品と言えよう。
作品の面白さよりも、美しさを求めたような雰囲気がある。
……詳しく語れるほど小説を知っているわけでは無いけど。
「さあ、これを後三回読むのです」
「ええ」
「勿論、先生はどんな問題が出るかを言ってないのです。どんな問題が出ても応えられるようにするのは、当たり前なのです。ほら、さっさと読むのです」
「スパルタすぎないか?」
「これくらいが普通なのです。さあ、読むのです」
一周だったらいいが、三種周読むとなると、段々作業のように思えてしまう。
文章の内容をすべて完璧に暗記するのが目的なのだろうか。
はあ、しんどい。
そうして3周終わると、「次は感じなのです」と言った夢葉に漢字の書き取りをされた。
漢字をとにかく書き写していく。そして、三十分経った後、
「テストなのです」
そう言われ、暗記で書かせられた。同時に熟語の意味なども。
その後は古文。単語の意味と、現代文、そして活用の仕方などなど。
「はあ、しんどい」
最初のやる気はどこへやら。もう倒れそうなくらいしんどい。
「お疲れ様なのです。それじゃ、そろそろご飯を食べに行くのです」
良かった。大きな休憩時間が来た。
というのも、今はもう7時半。だいぶお腹も減ってきていた。
「今日は何なんだ?」
全快は野菜炒めだったはずだ。
「ハンバーグなのです」
「ハンバーグか」
正直嬉しい。
ハンバーグか。肉が食べたかったからありがたいことだ。
「力が湧いてきそうだ」
「なら、食べた後、力が湧きそうなのです」
「へ?」
「食後の勉強が楽しみなのです」
うぅ、スパルタ。
そして楽しいご飯休憩もつかの間、すぐさま対の勉強が始まった。
世界史だ。
世界史は覚えるだけなのです。とにかく音読なのですという夢葉の言葉に応じて俺はと交互していく。
とにかく年号だ。年号を言うしかない。正直面倒くさい。
とにかくギリシャの歴史は面倒な覚えることが多い。哲学とかどうでもいいだろう。
「はあ、こんなの将来のためになるのかよ」
思わずそう悪態をついてしまう。
こんなもの将来の役に立つか分からない。
そもそも、俺は勉強なんて好きじゃないし、大学に行く未来なんて見えない。
夢葉によるバフももはや期待なんてできないのだ。
それからも英語もリスニングを沢山聞かされたし、参考書をとにかくやらされ、単語も覚えさせられた。
理科もとにかく付きっきりで教えられ、俺の体力は尽きかけていた。
唯一俺の力の糧となったのは、野球だ。
野球、今3対1で勝っている。しかももう八回だ。
最近負け試合しか見てないから嬉しい。
そして、9回に抑えの投手が野手を3人で抑えた瞬間、
「うおおおおお!!!」
俺は叫んだ。
「やりましたのです。じゃあ勉強に戻るのです」
「いや、もう9時回ったしもう終了でも良いんじゃ……」
流石に体力が切れた。野球パワーももう見込めない。
「それに今日はまだテストシーズンじゃないし。このままやっててテストシーズン迎えたらたぶん俺は死にますよ」
夢葉先生に敬語で頼み込む。
「分かったのです。なら今日はこれで終わりなのです」
良かった。
さすがのスパルタティーチャーも許してくれた。
「じゃあ最後に」
夢葉は俺の髪の毛を優しく触り、よしよしした。
「お疲れ様なのです」
そのよしよしは、今までのよしよしよりもいいよしよしだった。
そして、それから夢葉は俺に抱きついた。
「ありがとう」
疲れが癒されていく気がする。
「どういたしましてなのです」
そう言って夢葉は笑った。
そして、終わったあと、俺は家を出るために玄関に向かう。
そこには既に夢木さんがいた。
「本当にお疲れ様だ、よく夢葉のスパルタに耐えたな」
そう一言言った。
「ええ、疲れました」
「だろうな。よく頑張ったよ。俺なんてあいつに勉強教えてもらうなんてもう無理だ。姉妹だからとか関係なしにな」
「そう……ですか」
それを一日やりきったのか。
「凄いな。お前根性あるぜ」
そう言って夢木さんは俺の髪の毛を撫でる。いつものような、下着姿の夢木さんが俺の髪の毛を撫でてくれた。
今日俺は撫でられすぎた。でも、それが嬉しいな。
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