第28話 ムード


「なんだよこれは」


 俺はふとSNSを見る。そこには、夢葉による巨乳憎しの文が書いてあった。


「夢葉……」


 やっぱり、穂乃果の巨乳に当てられてしまったのか。


 ……しかし、夢葉はやっぱり巨乳への憧れを捨てきれずにいるのか。

 俺はそのままの夢葉が好きだっていうのに。

 そして、何より巨乳になった夢葉をイメージしてもピンとこない。

 俺は別に総じて貧乳派という訳ではない。

 アニメとかゲームなら巨乳の方が好きだ。



 とりあえず返信で、『俺は貧乳のお前が好きだ。巨乳のお前なんて想像ができないんだ。自信を持ってくれ! ドリームグレイス』


 そう、返信しといた。

 そして、返信をしてから数分後に、夢葉が戻って来た。

 パジャマ姿で。


 そのパジャマは青色のシンプルなものだったが、いつもとまた違うラフな感じでいい。

 ……てか、ついさっきまで貧乳巨乳の話をしてたから、夢葉の胸の方をつい見てしまう。

 いや、分かっている。これは変態的な行為だ。


「俊哉君、あまりじろじろ見ないで欲しいのです」



 見てたのがばれてしまった。

 怒られた。


「でも、許すのです。俊哉君なのですから」

「そうか」


 夢葉の彼氏で良かった。


「それで……俊哉君、私のパジャマどう思うのです?」

「……最高だ」

「本当になのです?」

「ああ、本当だ」

「なら、喜んでおくのです!!」


 そう言って夢葉は、はにかんだ。

 可愛い。


 そして、夢葉は考えるそぶりを見せる。

 そして一言。


「ねえ、俊哉君」



 なんだかその声にはいつもの夢葉とは違う色気を感じた。


「大好きなのです」


 そう言った夢葉は俺の口に自身の口を近づけた。ついにキスをする覚悟でもできたというのか。

 俺はその口づけに、黙って応えようとする。


 キスしようとする夢葉の顔がかわいい。このまま抱きしめでもしたくなるような顔だ。


 そして夢葉の唇が俺の物に触れた瞬間、夢葉が逃げた。

 その顔は赤くなっている。


「ムードを作ろうと思ったのですけど、失敗したのです」

「でも、口づけは出来てたな」

「そうなのですけど」


 泣きそうな顔で、こちらを見る。


「やっぱり、無理だったのです。逃げてしまったのです。恥ずかしすぎて……」


 ★★★★★


 俊哉君がこちらをまっすぐな目で見ているのです。

 なんだか恥ずかしいのです。


 だって、私は、キスもできないような女なのです。

 お風呂で、俊哉君への愛があふれ出して、たまらなくて、だからキスを今度こそ実行しようとしたのに、失敗したのです。


 それに、俊哉君は私の愚痴投稿に、優しくリプを返してくれたのです。


 他にも、ドリームグレイスはそんなことないよとか言うリプはたくさん届いていたのですけど。でも、でも、俊哉君のリプが当たり前なのですけど、一番うれしかったのです。


「でも、夢葉は勇気出したじゃないか。それはすごい事だと思うぞ」

「……私は俊哉君とキスがしたいのです。勢いで行けば行けると思ったのですけど、でもだめだったのです」


 俊哉君とキスしたかった。


 あの、俊哉君の唇に唇を合わせたかったのです。

 別に濃厚なキスじゃなくてもいいのです。普通のキスでいいのです。

 普通の口づけだけでいいのです。


「なら、俺がキスしに行ったらどうだ?」

「え?」


 まさかの提案なのです。


「夢葉が嫌ならしないけど」

「いえ、してほしいのです、してほしいのです!!!」


 そんなチャンスは逃すわけには行かないのです。


「じゃあ、行くぞ」


 そう言って俊哉君は口をすぼめてきたのです。

 覚悟はできてるつもりだったのです。でも、緊張するのです。

 逃げたくなる。でも、逃げたらいけないと、心の中で理解はしているのです。


「俊哉君、いつでも来てほしいのです」


 私は覚悟を決め、そう言うのです。

 もう、それこそ、ここで決められなかったら、逃げられないように高速させてもらうしかなくなるのですから。

 私は手をギュッと握るのです。

 覚悟はもう決めたのです。いつでも来いなのです。


 そして次の瞬間、私の口に俊哉君の唇が振れられたのです。その瞬間、何とも言えない気持ちになったのです。だがかキスなのです。唇が触れ合っただけなのです。

 なのに、なんで、こんな幸せなのですか?


「ファーストキス、いただいたのです」


 私は思わずそう言ったのです。キスしたという事実を胸の中に入れるために。


 ★★★★★


「ファーストキスいただいたのです」


 その夢葉の言葉で、俺は俺が今夢葉とキスしたことを理解した。

 夢葉の唇を奪ったんだなと、気づいた。

 まあ、ファーストキスという意味では、柚葉に強引に奪われていたが、あれはノーカンでいいだろ。

 合意してないし。


 夢葉の顔を見る。その顔は完全に女の顔をしていた。

 くそ、こんな顔をされたら、俺は夢葉を……


「夢葉」

「え?」


 俺は気づけば夢葉をベッドに押し倒していた。


 ★★★★★


「え?」


 押し倒されたのです?


 え?

 全く状況が分からないのです。

 だって、俊哉君は、そう言う強引な男じゃないはずなのです。


「すまん。急に」

「謝らなくてもいいのですよ」


 ああ、その俊哉君の顔は真っ赤で、緊張している感じがするのです。

 ああ、分かったのです。先ほどのキスで、変に私に欲情したのですね。


 ……私はそんな俊哉君に対して何をしてあげるべきなのでしょうか。

 いえ、分かってるはずなのです。

 イチャイチャするために家に来た。

 だから、俊哉君に何をされてもいいのです。


「私を好きにしてほしいのです」


 私はそう勢いで言うのです。

 きっと、これは変な言葉なのです。

 こんなの私じゃないのです、

 なんだか、私が私じゃないものに、つくりかえられて行ってるみたいなのです。


「ああ、不思議なのです」


 そう私は言うのです。


 だって、私はこんな性格じゃないのです。


「俺はここからどうしたらいいんだ」


 そう俊哉君が言うのです。

 私はそれに対して、「俊哉君の好きにしたらいいのですよ」と、そう答えた。


 私は怖いのです。だけど、なぜかこの先の展開を楽しみにしている自分がいるのです。


「だめだ。俺はどうかしている」


 そう言って俊哉君は、私から手を離したのです。


「どういうことなのです?」

「すまん」


 そう言って俊哉君は、その場を離れたのです。まったく意味が分からないのです。

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