第27話 お風呂
「穂乃果ちゃん、一緒に入っていいですか?」
夢葉が笑顔で言う。
「親睦を深めたいと思っているのです」
「勿論いいでありますよ。歓迎であります!」
「やったのです」
そして二人はお風呂へと入っていく。
そして穂乃果が服を脱ぐと、その胸があらわになった。それを見て、夢葉は(巨乳なのです……)そう、じっと見て、すぐに首を振った。
自分の従妹と、姉に続いて三人目の巨乳。すぐに自身の胸を見ると、そのちっぼけさに軽く絶望する。
所詮人間の価値は、胸ではないと知っているが、それでも羨ましいのはうらやましい。
一応俊哉が、柚葉の胸よりも、夢葉の胸の方がすきだという名言?を残している。
だが、そんな俊哉のやさしさに、甘えてばかりじゃいられない。
だが、今はそんなことを考えても意味がない。
巨乳は確かに憎いが、それ=憎しみに成ったらよくないのだ。
「穂乃果ちゃんはお兄さん、俊哉君のことが好きなのですか?」
「はい、勿論好きでありあます。自慢の兄でありますよ」
「どんなところが? なのです」
「そりゃ、勿論、兄様は優しいし、かっこいいしとにかく好きであります。でも、特に、どんなにウザがらみしても嫌わないところが最高であります」
「どういうところが好きなのですか……でも、確かに器は広いと思うのです」
「だよね、そう言えば夢葉さんは、お兄ちゃんの彼女だよね。私がいない間の兄様はどんな感じでありました?」
「そうですね、俊哉君と再会したのは今年からだから何とも言えないのですけど、俊哉君はとにかく優しいのです。私が変な人に絡まれたときも、一目散に助けてくれたのです。私のヒーローなのです」
そこまで行った時に、少しテンションが高すぎたかなと、夢葉は自制した。
「お兄ちゃん、そういうところあるでありますからね。私が変な人に絡まれたときも助けてくれたでありますし」
「そうなのです、そうなのです」
「あ、でも、私は兄さまの過去が知りたいであります」
「あ、そうだったのです」
テンションに負けて、また変に自分の世界に行ってしまっていた。
今の質問は、俊哉の良いところではなく、穂乃果の知らない俊哉の一面を聞かれてるのだった。
「えっと、」
息を整える。
何を言えばいいのか。
少考ののち、夢葉は息を軽く吐き、言葉を発す。
「やっぱり、出会ってまだそこまでは立っていないので、あまり深くは言えないのですけど」
そう、前置きしたうえで。
「俊哉君は、立派なのです。中学生の時のことはよくわからないのですけど、今の俊哉君は穂乃果ちゃんの自慢の兄としてふさわしい男なのです」
そう言って夢葉は自身の胸をトンと叩く。
その、まな板の様な胸を。
それに、笑顔で、「ありがとうであります」と、穂乃果が返した。
ここで、夢葉は胸に潜めてた言葉を発しようとする。それはプライドの関係で、夢木や柚葉に訊けなかった言葉だ。
夢木はともかく柚葉に訊こうものなら、絶望や憤怒でどうにかしてしまいそうなのだ。
「胸が大きくなる方法って知ってるのです?」
夢葉はついに言い切った。
胸が大きくなる方法、それが今夢葉にとって気になる一番の情報だ。
何しろ、男は巨乳が好きだ。なのに、夢葉は貧乳だ。
何度でもいうが、男は一般的に、巨乳が好きだ。
今は俊哉が夢葉のことを好きでいてくれるからこそ、夢葉の貧乳を見ないふりしてくれているが、少しでもこの恋愛関係がマンネリ化してきたら、その時は、巨乳である柚葉のところに行ってしまう可能性がある。
「夢葉ちゃん、顔が近いのであります」
そう言われ、無意識に、穂乃果の胸をじっと見てたのに気づかされる。
「私の胸が大きいなんて、自覚したことが無いのであります」
「……もしかして」
無自覚巨乳。
瞬時に貧乳の敵だと判断してしまった。
だめだ、生まれ持った才の差に打ち歯牙れてしまう。
夢葉だって、牛乳を結構飲んでいるのだが。
「もしかして、生まれつきなのです?」
「まあ、昔から胸は大きかったって言われてるであります」
やっぱりなのです。
夢葉は一瞬殺意を抱いたが、穂乃果自身に罪があるわけでは無い。今はこの殺意の刃を懐にしまい込まなければ。
そして、今はこの話から遠ざけなければ。
元々この話は夢葉から仕掛けたものではあるが。
「えっと、俊哉君の昔の話をしていただけないのですか?」
そう、夢葉は訊いた。
「知ってる期間は同じだと思うでありますよ?」
確かに、一緒にいた期間は同じだ。だけど穂乃果は夢葉とは違う、家族としての俊哉との思い出を持っている。家族としての俊哉のことを穂乃果は詳しく知っている。
それに、夢葉は学校での俊哉しか知らない。
だからこそ気になるのだ
学校外の俊哉のことを。
「お願いするのであります」
そう、夢葉はお願いする。
「聞かせてほしいのです。家族として俊哉君の過去を」
その夢葉の言葉を聞き、穂乃果は、「分かったであります」と、頷きを見せた。
「私から見る兄さまは本当にかっこいい男であります。自慢の兄であります」
それは知ってる。穂乃果から何度も聞いたし、実際にかっこいい男で、自慢の彼氏だ。
「私は、昔から間抜けで、気の弱い子供だったと思うであります。でも、兄さまはそんな私を助けてくれたであります」
同じだ。夢葉と同じだ。
「だから、兄さまが好きであります」
「私と同じ理由なのです」
「本当でありますか? だったら嬉しいであります」
そして、二人の美少女はハイタッチをした。
「じゃあ、兄さまの情けない話を聞くであります?」
「え? そんなのあるのです? 気になるのです」
「じゃあ、話すであります」
そう言って風呂の中から手を出し、膝の上に置く穂乃果。
夢葉は、俊哉の情けない話を聞けると思うと楽しみで仕方がない。
「兄さまは昔、八歳くらいの時お漏らしをしたことがあるのです。それもお出かけ中に」
「お出かけ中なのです?」
「そうであります。兄さまはまさかの、ハイキング中にお漏らしをしたのであります」
それを聞き、夢葉は苦い顔になる。ハイキング中。という事はお着換えも持っていない可能性が高い。
そんな中漏らしたとなれば、大変な事になったというのは予想にたやすい。
「それでどうなったのですか?」
「大変な事になったであります。その際に、ズボンの替えがないでありますし、ズボンを脱ぐわけにもいかないし、仕方なく兄さまはズボンが濡れたままのハイキングを余儀なくされることになったであります」
「それは……」
予測で来てた自体とはいえ、実際に想像したら地獄すぎる。
それに、きっと俊哉君に取っては黒歴史になっている。
きっと、この話を聞いたことは、俊哉には言わない方が良いだろう。
「それで、もう一つあるでありますが、効きますか?」
「もう一つあるのです? 聞きたいのです」
「分かったであります」
俊哉の過去を暴くようなことをするのは、あまりよくないのかもしれないが、気になってしまう。
「兄さまは、昔結構なやんちゃものだったであります。そうは言っても、小学生低学年の時限定でありますが。その時の兄さまは、反抗期だったのであります」
「反抗期……」
反抗期の俊哉。考えただけで可愛いものだ。
「その時、ご飯が好きな物じゃないと認めないと兄さまは言ったであります」
「好きな物じゃないとなのですか?」
「そうであります。例えば炒飯、焼きそばなどじゃないと、許さないとよく言っているのであります」
「なんだか、その俊哉君、可愛いのです」
イメージするだけで、可愛らしい。実際小学校低学年の時の俊哉は知らないが、高学年の時の俊哉のことは知っている。
その姿から、低学年時の俊哉を創造することはたやすい。
可愛くないわけがない。
「なんだか、俊哉君の新しい一面が知れて嬉しい気持ちでいっぱいなのです」
「そうでありますか? なら夢葉ちゃんも、私の知らない兄さまのことを教えてほしいであります。実は兄さま、中々教えてくれないでありますよ」
「じゃあ、まさかこちょこちょしてたのって」
さきほど、いちゃついてるのを見て、俊哉が取られた気がして嫌だった。あれはもしや、
「私が兄さまの情報を知りたくて、くすぐっていたであります」
そう言う事だったのか。
夢葉の胸にスンと何かが落ちた感覚がした。
「なるほど。……じゃあ、話すのです」
今度は夢葉のターンだ。そこで、俊哉との思い出を沢山夢葉は話した。
それに対して、穂乃果が、「いっぱいあるでありますね」と、言った。
まだ三ヶ月も経っていないような二人だが、既に一年は一緒にいたと言えるくらい濃密なデートをしているのだ。
そして、完全に話し終えた後、穂乃果が、「もう、のぼせそうであります」と言った。
それを聞いて、夢葉はしゃべり過ぎたのに気づいた。
思えば、先程からずっと俊哉のことについて話ていた気がする。
「確かにそうなのです」
そう言って二人は上がることに決めた。
そして、お風呂を上がり、即座に夢葉はスマホを手に取った。
「何をしてるでありますか?」
「内緒なのです!!」
穂乃果の質問に対し、即座に言い返した夢葉。
言えるわけがない。今しているのは、穂乃果にばれてはいけない事なのだ。
何しろ、巨乳に対する憎しみをSNSで発散しようとしているのだから。
『巨乳とお風呂入ったのです。巨乳羨ましいのです。私も貧乳じゃなくて、巨乳になりたいのです。しかも、生まれつきという話なのですよ。なら、私は最初から巨乳の才が無かったという事なのですか? しかも、私は毎日牛乳を飲んでいるといるのに。ちょっと巨乳への憎しみの念が出てきそうなのです。巨乳とは仲良くなれそうなのですけど、少し、巨乳に対する憎しみがあるのです』そう、投稿した。
その後、ふうと、息を吐き、スマホを棚の上に置き、用意していたパジャマを取る。
「何をしてたでありますか?」
「内緒」
夢葉にはそう答えるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます