第23話 あります系妹
「それで、今日の夜。俊哉君の家に泊めてもらえないのです?」
ファミレスから出る時に突如、夢葉がそう言った。
「どういうことだ?」
「だって、今まで互いに泊まったことは無いじゃないですか。だから今日は俊哉君の家で二人きりの夜を楽しみたいのです」
「そうか、夢葉の家じゃダメなのか?」
「そうだよ。僕と濃密な一夜を過ごそうよ」
セクハラ従妹が割り込んでくる。君は呼んでいない。
「だめなのです。だって邪魔が来るのですから」
「あ、それ僕の事? 僕の事?」
「貴方は俊哉君が泊まったら、きっと泊まりに来るのです」
「全部読んでいるよね。まるで僕専門家だね」
「だから俊哉君の家にお邪魔していいですか?」
「ああ、問題ない」
むしろ来てほしいくらいだ。一人の家は寂しいだけだからな。
「嬉しいのです。じゃあ、お邪魔するのです」
「ああ、どうぞ」
そこで柚葉、夢木さん両名と分かれ、家に帰る。いつもは一人だが、今日は夢葉も一緒だ。
「そう言えば、夢葉って俺の家の場所知ってるんだよな」
毎日迎えに来るし。
「勿論なのです」
「そう言えば家の場所教えてなかったのに、どうして知ってたんだ?」
「そりゃ、当たり前なのです。実は小学生の時にストーカーしてたのです」
「そう言う事だったのか」
いや、そう言う事だったのかって納得していい話ではないと思うが。
「じゃあ、家の中は?」
「あまり知らないのです」
確かにリビングしか通してない。
基本一緒に遊ぶときは、夢葉の家に行ってるしな。
そしてあっという間に家の前だ。
「お邪魔するのです」
そう言って夢葉が家の中に入る。だが、すぐに夢葉が叫んだ。
「きゃー!!! 誰なのです!?????」
夢葉が叫ぶ。中に誰か入って来たのか?
泥棒とかと賣間とかだったらまずい。
「おい!」
俺は、中に突入する。もし変な輩がいたら即座に警察に通報及び逃走。いや、順序は逆か。
とりあえず夢葉は絶対に守らなければならない。
「あれ、父さん?」
そこにいたのは俺の父、谷口純也だった。
「なんで父さんがいるんだよ」
「そりゃ帰ってきたからだ」
「なら言えよ」
「サプライズさ」
「サプライズかよ」
何のサプライズなんだよ。しかもよりによって今日かよ。
そして、父さんの影から一人飛び出してきた。
その影はいきなり俺に抱き着いてくる。
「兄さんお帰りなさいであります!!」
そう言ってきたのは、俺の妹の谷口穂乃果だ。
三年前の父さんのイギリス出張の際に、一緒について言って以来三年間会えていなかった妹だ。
「お前も帰ってきてたのかよ」
「当然であります。もう、兄さま会いたかったのであります!!」
「ああ、俺も会いたかったよ。穂乃果」
俺はそう言ってその背中を優しくさすった。
三年ぶりの妹だ。
……その時、俺の背中に視線を感じた。
振り向くとその視線の持ち主は夢葉だった。そりゃ、この状況、夢葉にとっては気分からないことだらけだもんな。
「この人たちは誰なのです?」
「俺の家族だ」
「イギリスに行ってるっていうあの?」
「そうだ」
「君が俊哉の彼女だね」
そう言って父さんは夢葉のもとに歩いていく。
「はい、俊哉君の彼女をやらせてもらってる、夢葉なのです」
そう言って夢葉はお辞儀をした。
「実のところ、兄さまに会うのは三年ぶりであります」
穂乃果がそう俺の腕をぎゅっと掴みながら言う。
「イギリスから帰ってくるのにも、お金がかかるからね。やっぱりそう簡単に帰ってこられないわけだよ。だけど、仕事が一通り終わったから、俊哉の夏休み中は少なくとも一緒に居られるよ」
「私は夏明けから日本の学校に転校するであります」
「え?」
日本の中学に?
「一体どういうことだ? 夏休み中はともかく、いつかはイギリスに戻るんじゃねえの?」
「それがだな、冬あたりには本格的に日本に戻ってこれるから、穂乃果を先に日本に戻らせるという事になったんだ」
「……なんでこんなに俺の知らない間に事が進んでいるんだよ」
そんな話聞いたことがない。
「悪かったであります。驚かせたいのでありましたから」
「それで、どこの中学に行くのです?」
「それはT中学であります」
それを聞いた途端夢葉が一瞬固まる。
「それは、柚葉と同じ中学なのです」
セクハラ魔と同じ中学か。
「そりゃ、大変だな」
「そうなのです」
夢葉が同意してくれた。
「え? どうしたでありますか?」
「いいか、穂乃果。絶対に柚葉というやつと会うんじゃねえ」
中学校には、夢葉も夢木さんも当然ながらいない。
つまり、柚葉の暴挙を止める人がいない。
それに、柚葉は、俺を好きになったっていうのも半分一目ぼれみたいなものだと思っている。
だったら、俺の妹である穂乃果を好きにならないわけがない。
ターゲットが穂乃果に切り替わったら俺は穂乃果を守り切れる自信がない。
「分かったか」
俺は念を押すように言う。
「おいいちゃん何をそんなに慌ててるのであります?」
「いいから。奴は、絶対に関わったらいけない人間だ」
「俊哉君、人のいとこに対して酷いのです。……気持ちはわかるのですけど」
「よくわからないけど、分かったであります!!」
何とか飲み込んでくれたようだ。
「てかさ」
俺はずっと思ってた疑問を口に出す。
聞いていいのか先程まで分からなかった。
聞いたらだめなものである可能性もある。だが、聞かずにはおれない。
「でありますって何?」
俺の疑問はそれだ。穂乃果は渡航前はそんな口調じゃなかったはずだ。
なのに、夢葉みたいな口調になっている。
なのですじゃなく、ありますだけど。
「それは、アニメキャラに憧れたからであります。それに……兄さんが……」
「なるほど。そう言う系か」
もう驚きはしない。なのです僕っ子俺っ子もう慣れっこだ。
まさか、夢葉の一族ではなく、俺の一族に来るとは思っていなかったが。
しかし、こうなったら俺も何か特徴をつけなきゃいけない気がする。
そうだな、特徴。……女装くらいしかなくね?
夢葉とかが言うんだったらまだしも、俺が語尾に何かつける系はきついぞ。
残っている物は、あと何々ですぅタイプだが、男の俺がこれ言ったらきもい以外の言葉が見つからない。
てか、これもですぅ系少女が出て来る伏線とかなのか?
誰か俺のこの考えを否定してくれ。
誰でもいいからさ。
「そうだ、僕に夢葉さんと話させてくれないか?」
そう、父さんが言った。
そっか、父さんにとって夢葉は息子の彼女だ。
放したい気持ちもそりゃ当然あるだろう。
「いいか? 夢葉」
「勿論なのです。私も話したかったのですから」
「おっけー、分かった。僕たちはこっちに」
そう言って父さんが、夢葉を向こうの部屋――父さんの部屋――に連れて行った。
「これで兄さまを独占できるであります」
夢葉と父さんを見送った俺に抱き着いてきたのは、穂乃果だ。
「独占って」
「そりゃ、そうでありますよ。だって、お兄さまはずっとあの夢葉という女の物だったんでしょ。じゃあ、私もお兄さんを独占したいでありますよ」
「別に、俺は誰のものでもないぞ」
「そう言う話じゃないのであります。私は、久しぶりに兄さまと会えたのであります。なら、独占したいと思って当然であります」
その穂乃果の理屈はよくわからないが、
「でも、俺も久しぶりにお前と語り合いたいのは同じだ」
「兄さま、ラブであります」
「そう言えば、お前は本当に変わったよな」
前まではそんな感じじゃ無かった。
俺についてくる感じの可愛い子だったはずだ。
少なくとも語尾は変な物じゃなかったし、電話の時も変な語尾は使ってなかったはずだ。
「私はこう見えても兄さまの求める私になったつもりでありますよ」
「そうなのか?」
「そうであります。兄さまは日本を経つ私に行ったのであります。俺はアニメっぽいが好きだなと」
「こっちも俺のせいかよ」
「何かあったでありますか?」
「いや、なんでもない。じゃあ、なんで電話では普通のしゃべり方だったんだ?」
「サプライズであります。兄さまをびっくりさせたかったのでありますよ」
「いや、だからなんで、電話口では普通にしゃべってたんだ?」
「それは、日本来てからこの喋り方にした方が嬉しいかなと思ったのであります。これでも電話では普通のしゃべり方に苦戦したありますよ」
「そうか」
なんかもう、そう言うもんだと思った方が良い気がした。
その方が疲れない。
理由も、夢木さんの俺とかはまだしも、柚葉の僕とかはよく分からないし、そこまでの説明もされていない。
でも、もういいかなって。
納得はできなくても理解だけでいいんだって思えてきた。
「それよりも、兄さまの話を聞きたいのであります」
「俺の話?」
「そうであります。兄さまが私がいない間何をしていたのか気になるであります」
「そこまで大したことは無いんだけどな」
別に俺はそこまで大した中学時代を過ごしていない。友達もそこまでいなかったし。
「でも、兄さまはずっと陽気ないい兄さまであります。だから、その中学時代が気になったであります」
「だから、別にそこまで深い中学時代を過ごしてないって」
「そうでありますか。むむ、本当のことを話さないのでありますか」
「おいおい、本当のことを言ってるんだけど」
「なら、こうするのであります」
そう言って穂乃果は俺の脇をくすぐり始めた。
「何をするんだよ」
「当然であります。拷問で聞きだすのであります」
「おい、何をするんだよー!!」
しかも、穂乃果の胸が当たる。
穂乃果も中々胸が育ってきている。
こいつも巨乳なのかよ。
早く夢葉戻ってきてくれ。
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