第22話 みんなの過去
ファミレスはかなり混んでいたため、二組待ちだった。
平日の午後ではある物の、俺達みたいに、テスト返しを終え、終業式を終え、夏休みに突入した人が多いのだろう。
とはいえ、たったの二組だ。即座に順番が来た。
「注文は何にするかい?」
柚葉が俺に訊く。
「俺は普通にハンバーグだな」
「おー、流石は男子だな」
そう言って夢木さんがガハハと笑った。
「そう言う夢木さんは何なんですか?」
「ああ、俺か、俺はそうだなあエスカルゴと、ソーセージと、パスタと、ガーリックブレッドだ」
「いやいや、夢木さんの方が男じゃないですか」
「いやいや、俺はこう見えて純粋な乙女だぜ。流石に外では下着姿にならないしよ」
これ、ツッコむのも億劫になって来たな。
「それで、夢葉は?」
「私はパスタだけにしておくのです。あまり食べたら、夜ご飯に響くのです」
「そうか」
確かに今は3時。まだ昼ご飯を食べていないとは言っても、流石に夜ご飯に響かないわけがない。
とはいえ、流石にハンバーグ一個じゃあ夜には響かないだろう。
値段もご飯込みで、五百円程度だ。
パスタの方が軽いが、値段自体はそこまで変わるわけでは無い。
「いいのか、食べないと、巨乳に慣れないぞ」
「……うるさいのです」
夢葉はため息をついた。
「それに、俊哉君は、胸が小さい方が良いと言ってくれているのですから」
「そうだな、俺は夢葉くらいのがちょうどいいな」
俺、今更だけど、どういう領分で話をしているのだろうか。
普通に聞けば、変態発言になるんだよな。
そして、柚葉は、パスタ二種にした。
そして、料理が来るまで少し話すことになった。
その内容は……
「私の過去のことを教えてあげるのです」
という事で、夢葉による、過去暴露タイムだ。
「まず、俺は夢葉の小学生時代のことをあまり覚えていないんだが、どんな感じだったんだ?」
「私は所謂地味系だったのです。自分で言うのも何なのですけど、根暗な感じだったのです」
「根暗か……」
「俊哉君はその一方友達が結構いたように思えたのですけど」
「ああ、そうだな。俺は当時は結構男子たちの中心の輪にいたからな」
今とは真逆だ。とはいっても、その時のことはほとんど覚えてない。
「前も私を助けてくれたって言いましたよね」
「ああ」
「私はそのことに本当に感謝しているのです。どんくさくて、何もできない私を助けてくれたのですから」
そんな記憶があるような内容な感じだな。
そもそも小学生時代の記憶なんてほとんど残ってはいない。
全部うろ覚えだ。
そんな中、夢葉との記憶を覚えてるかと言えば稲田。
本当にそんな子がいたなあと思うくらいなのだ。
「正直俺はそれをどう受け取ったらいいのか分からねえ」
だからこそ、ありがとうと言われても出てくるのは戸惑いの気持ちだけなのだ。
「本当にすまんな。お前との小学生時代の思い出を覚えてなくて」
「……いいのですよ、仕方のない事ですから」
その少しだけ悲しそうな夢葉の顔を見て、少しだけやってしまったという気持ちになった。
「俊哉、お前は知らないだろうが、夢葉は小学生の時ずっとお前の話をしてたんだぜ。可愛かったな、あのころの夢葉は」
「すみません」
覚えてなくて。
「いあ、俺は責めてないぜ。……よし! 今からみんなの過去の話をし合おう回にしようじゃないか」
「どういう会なんですか。というか、今も夢葉の過去を話してませんでした?」
「こまけえことはいいじゃないか。ついでに俺たちの話もしようという事だ」
そう言って夢木さんは、柚葉と肩を組んだ。
「ええ、僕もー?」
「親睦会みたいなもんだ。思えば全員揃うのは、あの日以来だしな」
あの日。つまり俺が柚葉の暴挙に耐えかねて部屋を飛び出したあの日以来という事か。
「じゃあ、話をしていくか」
そして夢木さんは話をし始めた。
「昔々、夢葉がなのです口調を始める前の話だ。あいつは常におどおどとしてた、そう、俺が心配になるくらいの根暗だったんだ」
「事実なのです。だって、その時私は全部が信じられなくなっていたのですから」
「なんでなんだ?」
「簡単に言うと、私が弱かったからなのです。だって、周りの人たちはみんな私なんて捻り潰せると思ってたのです。その時の私は、皆小説に出て来るキャラと同じだと思ってたのですから」
同じ?
「私の中の価値観として、小説のキャラは現実の私以外の人たち思い込んでいたのです。所詮小説の中の世界はフィクション。所詮、現実よりも理想的にえがかれたキャラと知らないで。そのせいで、小説とは違う私が嫌となって、それで卑屈になったのです。そんな時に、私を助けてくれたのが、俊哉君だったのです。私が私を嫌いになる前に、色々と手を差し伸べてくれたのです」
「どういう風に?」
「例えばなのですけど、答えられなかったときに、私をこっそりと助けてくれたりとか、グループ授業の中でひっそりとグループに入れてくれたことがあったのです」
全く覚えがない。
本当に俺はそんなことをしたのだろうか。
「なら、それは過去の俺に感謝だな。夢葉を助けてくれたんだから」
「そうなのです。感謝なのですよ」
「それで、そこから夢葉は中学時代からどんどんと自分を磨いていったんだ。小説のキャラへと近づくために」
「え? 俺現実世界とフィクション世界は違うと言ったんじゃなかったのか?」
「それは言って無いのです。それに俊哉君に責任の一端があるのですから」
「ええ??」
「だって、俊哉君、語尾なのですっていいよなって、友達たちと話していたのですから」
くそ、それも全く覚えていない。
そんなこと本当にあったのか?
俺の記憶が失われて行っているのか?
「覚えてねえわ。まったく、本当に男子の記憶力って頼りに成んねえなって、思ったよ」
本当にな。何しろ、小学生時代のことを作為的に奪われた丘っていうほど、覚えてないからな。
「俺は、本当に、何も覚えてねえ。本当に夢葉には申し訳ないと思っている」
「仕方のない事なのですよ。所詮人間の記憶力は大したことない物なのですから」
「そう言ってもらえてうれしいのです。じゃあ、次は夢木お姉ちゃんの話なのです」
「分かった俺も話してやる。そうだ、その代わりと言ったらなんだが、俊哉、おめえの過去も後で教えろよ」
「分かってますよ」
とは言っても、俺の過去はそこまで大したことは無いと思うがな。
「まず、俺の一人称が俺な理由だが、それは夢葉とは違ってほとんど無意識的に芽生えた物だ。知っての通り、昔の俺は、男勝りだった。友達も全員男で、それで男衆と一緒に山登りしているような女だった。だからこそ、俺は一人称が俺になったんだ。友達が俺って言ってんのに、一人だけわたしはおかしいだろ」
「そういう物なのですか?」
「そうだよ。俺は、自分が女だと思っているが、根は男に近いと思っている。要するに女であり男でもあり、女でもあるという感じだ。ほれ、次はお前だ、柚葉」
「ええ、僕も!?」
「当たり前だろ。俺達だけが喋って、お前だけ何もなしとか許さないから」
「黙ってたら番が回ってこないと思ったのに。……分かったよ。よほど僕の話聞きたいんだね」
そう、ナルシスト風に言う柚葉。なんだかかなりムカつく。
「いいよ。とはいっても、俊哉君には刺激が強いかもしれないけど」
「じゃあいいか」
「そんなこと言わないで、僕の話も聞いて」
なんだこいつは。まあ、そんなことはどうでもいいか。
「僕はね、大体夢葉お姉ちゃんと同じさ。王子様キャラに憧れていたんだよ。だからこういうキャラになった。そしたら男子女子共にモテた。それだけの話だよ」
「なんか短いな」
「仕方がないだろ。僕はそこまでエピソードがないんだ。あ、でも僕は常にモテてるからね、リア充自慢はできるよ。じゃあ今度僕の彼女を連れてきてあげるよ」
「見たくないからいいわ」
「俊哉君は相変わらず僕に厳しいなあ。まあいいや、いつか落としてあげるから」
「お断りだよ」
セクハラ野郎なんかに落とされてたまるか。
「じゃあ、次は俊哉君の番なのです」
「そうだな。俺も話すか」
とは言っても、何があるか。
「じゃあ、俺の中学時代以降の話だな。俺の家族は中学の時に英国に渡ったんだ」
「英国ってイギリスなのですか?」
「ああ。俺はその時ついていかなかったんだ。海外に行くことに懸念があったからな。だからそこから俺は一人暮らしになったという訳だ。勿論仕送りもあるし、何不自由なく暮らせてるから幸せなはずだが、やはりさみしいのはさみしいな」
「そりゃそうなのですよ。家族と会えない環境は辛いのです」
「だからこそ、少し性格が変わったんだろうな」
「なるほどなのです」
そしてご飯が来た。
そしたらおしゃべりタイムは終了だ。ご飯を食べ始める。
「うん。中々うまいな」
ハンバーグを食べて俺はそう唸る。
「パスタもおいしいのです」
「ああ、僕もそう思うよ」
「夢葉、一口交換しないか?」
「いいアイデアなのです」
「あ、僕としてよ」
「俺は夢葉都の方が良い。それに、もっといい人いるだろ」
俺はそう言って、向こうでハンバーグを食べている夢木さんを指さした。
「俺か、良いぞ柚葉」
「えー、僕は俊哉君とがいいんだけど」
「わがまま言うな」
そして、俺と夢葉、夢木さんと柚葉の一口交換となった。
そうしてファミレスでの時間はあっという間に過ぎていった。
今まで何度か一緒に水口家とご飯を食べたことはあるが、今日が一番楽しいなと思う。
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