第19話 答案見せ合い――僕っ娘従姉妹がうざい


 夢葉の家に来た。

 最近毎日のように来ている気がする。

 そろそろ睡眠時間を除けば、夢葉の家にいる時間の方が、俺の家にいる時間よりも長くなってきているのではないだろうか。最近ご飯もいつも夢葉の家で食べさせてもらってるし。


 リビングへと靴を脱いで上がる。


「げ」


 そこには、柚葉もいた。俺にセクハラチックな事をしてきたあいつ。

 正直嫌な気分だ。なんであの子がいるんだよ。


「あ、俊哉君おはよう」


 とか平然と言ってくるし。前、俺にひどいことをしたことをもはや忘れているような感じがしてるし。

 なんだか、嫌な感じがする。絶対今日ろくなことが起きない。

 もう、そう断言できる。


「ねえ、俊哉君は僕の隣に座りなよ」

「……俺は嫌だ。夢葉の隣がいい」


 もう俺の意思――隣に座りたい、座りたくない――は置いといて、この人の隣はシンプルに怖い。

 普通にキスされるかもしれないし、急に胸を触らされるかもしれない。

 この子のセクハラはもう受けたくない。


「柚葉の真逆に座ろう」


 そう、俺は夢葉に言った。とはいえ、逆とは言っても、テーブル自体は四人掛けの物なのだから、そこまで遠くには座れないのだが。


「しかし、従妹である柚葉も来るんだな」

「あ、僕のこと呼び捨て?」

「柚葉さんも来るんだな」

「さん付けはやめてくれないかな。せめてちゃんつけにしてほしいものだよ」


 全く面倒くさいな。


「とりあえず俺は、今日は夢葉と一緒に点数を見せ合いっこするために来たんだから」

「いいねえ、ライバルは強い方が僕は燃えるよ」


 こいつ。……何かを言うたびにこんな事を言うのかと思ったら、嫌な感じがする。

 

 とりあえず、基本無視という感じにするか。


「俺もそろそろ仲間に入れてくれよ」


 そう、夢木さんが言う。今日も相変わらず下着姿だ。もはやツッコむのも疲れた。


「えー、夢木姉ちゃんは服着ろよ」


 あ、柚葉が正論言った。

 でも確かにこういう場で下着はやめてほしいものだ。ツッコむのに疲れた=許すわけでは無い。


 もう流石にこの人に興奮なんて一切しない。……流石に嘘、少しはする。

 だが、俺の一番は夢葉だ。

 俺が可愛いと思うのは夢葉だけだ。


 そしてついに見せ合いっこだ。

 まずは数学から提示する。とはいえ、みんな学年が違う。(俺と夢葉は同じだが)

 という訳で、数学、英語とかでまとめて提示する。

 数学1と、A。コミュニケーション英語と、英語演みたいな形だ

 そして早速数学の結果が提示される。


 俺は数学一が五十七点と、数学Aが四十八点だった。もう少し点が取れていると思っていたが、これは元々の俺からしたら上出来だ。

 中間試験は45点と、38点だったのだから。

 ちなみに、課題提出点などのおかげで、総合点数は、赤点では無かった。


 だが、周りの答案たちは、みんな高得点だった。みんな八十点以上だ。

 それに比べたら、俺の点数なんて恥ずかしく感じてしまう。



「これ、俺場違いじゃね」


 そう、思わず言った。

 赤点回避だああ!! と喜んでいた俺の喜びを返して欲しい。今思ったら惨めじゃねえか。

 この猛者たちの間に俺はは本当にいていい物かと、不安に思ってしまう。いな、いていいはずがない。


「俺、自信なくなってきた」


 夢葉が出来るのは知っていたが、まさか全員八十点台とは思っていなかった。しかも夢葉なんて、96点と97点だ。もはや人智を超えている。もう、飛び級で、大学に行った方が良んじゃないかと思う。

 まあ、数学Ⅱとかやってないから無理だとは思うけど。


「なら、僕の胸に飛び込んだらいい。僕が愛するよ」

「お断りだ」


 二秒でそう言った。

 ふざけるのも、大概にしてほしい。


「僕の胸元は、夢葉お姉ちゃんよりも気持ちいいよ」

「あいにく俺は飛び込むなら夢葉の胸がいい」

「……分かったのです。よしよしなのです」


 そう夢葉は俺の頭をなでなでする。


「夢葉、ありがとう」


 俺はそんな夢葉にお礼を言った。



 そこからの答案見せ合いでも、どんどんと、俺の心は折れていく。

 勿論、俺個人としては成績は上がってはいるのだが。結局回りが凄かった。

 本当に水口家すごすぎるぜ。流石宗樹陶磁の娘(姪)達よ。


「はあ、俺も頑張ったと思ったのにな」

「完敗だ。そうは言いますけど、本当にすごいと思うのですよ」

「夢葉は本当に優しいなあ」

「おいおい、仏の顔になってやがる」

「僕も慰めてあげますよ」


 なんだかもう疲れた。



 ★★★★★


「ん」


 俺は寝ていたのか?

 目が覚めた。

 なんか、優しい感触を感じる。ここは、夢葉の膝の上か。

 膝枕気持ちいいな。


 あれ、夢葉の足が向こうに見える。おかしいな。

 頭を上に向ける。

 そこには巨乳が見えた。


「俊哉君、目を覚ました!!」


 そこには柚葉がいた。


「いやああああああ」


 俺は即座に逃げ出す。


「なんで夢葉じゃなくてお前なんだよ」


 信じられない。ふざけんな。


「いいじゃないか。僕の膝の上気持ちよかっただろ?」


 確かに気持ちよかった、気持ちよかったさ。だけど、


「信じられねえ」


 こんなの許せねえ。


「夢葉。止めてほしかったよ」

「だって俊哉君が柚葉ちゃんの膝の上に転がっていったのですから」


 俺のせいかよ。ん、でも、倒れるなら夢葉の膝の上になるはずだ。なぜ、夢葉の膝元じゃないんだ?


「ごろごろ柚葉の膝の上に向かって転がって行ってたぜ」


 俺、そんなことしてたのか?


「俺をコロシテくれ」

「でも、望むのであれば、私の膝の上で、口直しならぬ膝直しをしてあげるのです」


 そう、夢葉は膝をぱんぱんと叩きながら言う。


「おう、それは助かる。生命力が回復する」


 そう言って俺は夢葉の膝の上に寝転がる。


「うーん。僕の膝の上の方が気持ちいいと思うけどなあ」

「お前はうるさい」


 柚葉とか言う性悪僕っ子の膝の上より、この聖母の膝の上に寝転がる方が断然いい。


「俺も仲間に入れてくれ。俺の膝の上にも寝てみないか?」

「絶対に嫌だ」

「なんでだよ」

「当たり前だろ」


 しかもこのブラ一枚の女は、絶対目のやり場に困るし。

 漫画みたいな感じになるはずだ。


「それに俺にとっての一番は夢葉の膝の上しかありえないから」

「くそー、妬けるねえ。俺も和真連れてきたらよかったぜ」

「和真さんは勉強できるんですか?」

「うーん、まあまあだな。あいつは俺が必死で教えてやっても勉強がいつまでたっても状tらツしねえ。今年受験生なのに困ったもんだよ」


 そう言ってガハハと笑う夢木さん。


「そうですか」


 なるほど。


「まあ、受験生として荒廃に言うならば、勉強はちゃんとしといた方が良いぞ」

「そうですか」


 確かに勉強した方が良いというのは頷けるな。知らないことをたくさん知ることが出来たし。


「そういやあ、受験と言えば、柚葉、お前は勉強大丈夫なのか?」

「僕は全然大丈夫だよ。A判定だし。……来年アタックするのが楽しみだよ」

「まさか、俺と同じ高校に?」

「勿論」


 元気に言ってこられた。はあ、俺の高校生活が貶されることになる。


「頼むから落ちてくれ」

「人の不幸を祈るなんてひどいなあ」


 そりゃ、こいつの不幸なんて根がtぅて同然だろ。


「まあでも、僕が落ちることなんてありえないから」

「そりゃ、そうだが」


 今の時点で俺よりも勉強できそうだし。


「そう言えば俊哉君。両親には見せたのです?」

「あ、そうだな。テストの点数送らないと」


 イギリスに行っている両親に向けてだ。


「きっと喜んでくれるのですよ。だって、点数は確実にあがっているのですから」

「そうだな。ありがとう」


 周りがおかしいだけで、別に俺の点数は低い訳じゃないしな。


「そうだ、私のテストの点数もSNSと上げないといけないのです」

「ん? いつも挙げてるのか?」

「勿論なのです。そしたらたくさんの人から褒められるのです」

「なるほど。じゃあ、俺も褒めてやらないとな」


 そう言って俺はSNSを起動する。


「なら早く投稿しないといけないのです」


 そう言って夢葉はスマホのキーボードを鬼の速さで打つ。


 さっさと投稿するために頑張っているのだろう。

 そして、二分後即座に投稿された。

 その投稿を見て俺は、


『すげえわ。俺は平均六十点くらいなのに、九十点以上取るとは。流石俺のグレイスだ!!』


 と、リプを送っといた。


『彼氏君の勉強を見たからなのですよ。だからあなたのおかげなのです』

『そう言われても、絶対ドリームグレイスのおかげだろ」

『ふふ、そうかもしれないのです。でも、彼氏君もすごいのですよ。だって、平均点十点くらい挙げてるのですから』

『それはまあな。お前の教え方が上手いからだ』

『褒めてくれて嬉しいのです♪』


「お前らネット上でイチャイチャするんじゃねえよ」


 そう、向こうで夢木さんが言った。あの人もアカウント知っているのか。


「畜生め、俺も和真呼んで来たら良かったな」

「僕も彼女連れてきたらよかった」


 そう言えば柚葉には同性の彼女がいるんだっけか。


「百合か……」

「僕は百合なんてものじゃなく、男女平等に愛を注いでいるよ。今は君に乗り換えようと考えてるけど」

「今の彼女さんを大事にしてくれよ」


 俺なんかじゃなくてさ。


『しかし、あの勉強の日々に彼氏君と添い寝したのは気持ちよかったのです…♪』


 その間に夢葉が新しい投稿をしていた。


「お前」

「ふふ、これも投稿しちゃったのです」


 所謂投稿のネタだろう。だが、これは絶対炎上(笑)するぞ。

 まあ、彼氏公言した時に夢葉のフォロワーは一定数減ったらしいけど。


 そして、投稿はどんどんとリプがついていく。

 そこには『うらやましいなおい』『ちょっと彼氏さんの居場所教えてくれませんか? 羨まし罪で逮捕します』『俺たちのグレイスちゃんがー』『俺はまだ彼氏が嘘だという事を信じてるからなあ』『まだ彼氏ネタ続けていて草』『彼氏になりたい』『グレイスちゃん好きです付き合ってください』『俺も添い寝したい』『俺も他人のリプ欄で宣伝するぜ。俺の万バズ投稿はこちら』『パンデミックは政府によって仕組まれている』『俺が、寂しく家でアニメを見ている間に』『添い寝したのか、俺以外のやつと』『画像――こいつら添い寝しやがった』『てえてえなあ』『『これは素晴らしいです』『It is beautiful thing』『جميل』『可愛いです』『素晴らしいエロ漫画はこちら。リンクをタッチ』などと沢山のリプがついている。


 後半はなんか怪しい奴ばっかりだけど。

 いや、前半もだいぶ過激だったが。


「これは俺がリプしていい物かねえ」


 なんだか変な感じする。俺がリプしたら集中砲火を受けそうだ。


「そこは俊哉君にお任せするのです」

「そうか、ならしないでおくか。炎上しそうだ」


 いいね数よりも、引用投稿数の方が多くなりそうだ。


「もう俺たちいらないじゃないか」

「そうだね」


 そう言って柚葉は服を脱ぎ始めた。


「お、柚葉。お前も暑くなってきたのか?」

「うん、僕もそろそろお姉ちゃんみたいに涼しくなりたいなと思ってね」


 だめだこれ。空気を変えようとしてきている。

 もしかして俺たちがイチャイチャしてるから、無理やり俺にアタックしようと?

 まずい、また胸を押し付けられたり、キスを迫られたりする。


「夢葉。あいつらを止めてくれ」

「諦めるのです」


 夢葉が匙を投げてしまった。


「でも、私もあの巨乳を見るのは辛いのです。だから、部屋に逃げるのです」


 匙を投げたのは、脱ぐのを止める事だけだったようだ。

 俺たちは部屋に逃走した。

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