第9話 球場
その三日後、有言実行で夢葉と共に野球球場に行くこととなった。
三日前、完封負けのくだらない試合になってしまったから、今日は勝ってほしい。
「今日はじっくりと野球の話をしような」
「勿論なのです。話し合うのです」
そう言って夢葉は本を取り出した。
「それは」
「分かりやすくまとめた物なのです。それぞれの選手の特徴などが書いてあるのです。俊哉君なら代々わかると思うのですけど、せっかく持ってるのですから」
「なるほど……」
そうしてメモを読む。
あ、どうや中身はなのです口調じゃないみたいだった。
カラオケの時はなのです口調だったのにな。
さて、中身は結構事細かく書いてある。夢葉なりに俺を楽しませようとしてるんだな。
さて、この内容は、スタメンメンバーの特徴が書いてあり、その特徴が
ん?
一番センター柳原弘明三一歳 俊足好打の一番。その足の速さで悠々と二塁まで到達し、昨年の二塁打王。さらに今期OPSは九を超えており、事実上本塁打は少ないが、チーム最強バッターとしてふさわしい。そして、趣味は、ツイッターでアンチと戦う事。その口の悪さから炎上したこと多数だが、スンナ人たちを野球の実力で黙らせている。高校自体は投手もやっており、今他球団のエースの柴田勝弘と同期で、試合の才には騒がれている。
結婚していて嫁は元アイドルの宮仕原武子。
そしてそこから個人情報や。今季の成績一覧。さらには三振率、BB/K、WHIP、WAR、BABIPなども詳しく書いてある。
正直後半に至っては何を言ってるのか分からない。
正直OPSでぎりぎりだ。
と、思ったらほんの最初に詳しい用語解説集が書いてある。
しかし、本当に分厚い本だ。
「なあ、作るのにどれくらいかかった?」
「一か月くらいなのです。それに、毎年更新してるのです」
「夢葉。お前凄いな」
俺にはそうとしか言えなかった。
「でも、これはありがたいな。俺も知らないようなことが書かれていて。参考になる」
「それはよかったのです!!」
だが、今日の試合中にこんな詳しい知識を覚えるのはきつそうだ、と思う。
BABIPとかWARとか読んでもよくは意味が分からないし。
ある意味数学の教科書を読んでいる気分になった。
そして、球場の席に着く。
簡易的な席で長時間座っていると少し腰がやられそうだが、収容人数を増やすためだ。仕方ないのかもしれない。
試合が始まるまでは暇だから本を読むことにした。
無論、もらった本だ。
二番セカンド吉原みどり 二六歳。守備の名手。バントが上手く、今までになん十こものバントを決めてきた。また、意外性があり、アへ単だが、ヒットもそこそこ打て、選球眼もいい。そして、趣味は、子育て。シーズン中はビジター球場とホーム球場で成績が違うのは、子供に会えるからではないかと言われている。
だが、高橋光也という同い年のセカンドがいて、彼は四十ホームランを記録したことがあるため、たびたび比べられることに霹靂としている。
そして過去には――
やはり、夢葉には悪いが、いちいち読んでたら先に試合が始まる。それに、せっかく隣に夢葉がいるのだ。
一緒に話したい。
本を読むんじゃなくてな。
という訳で大まかな概要だけ読むことにした。
しかしプライベートのところは面白いが。
三番ファースト世良康介 21歳。若手として覚醒かというところまで来ている。昨年二軍で二冠を取って、今年本格的に一軍に対等。
今年は二割四分三厘、本塁打7本打っていて、将来の大砲として注目度が上がっている。
四番、サードマラティス 34歳 メジャーで通算100本塁打を打っている。
日本に来て今年が一年目だが、すでに6月時点で、14本塁打を打ち、本塁打王を狙えるラインにいる。
五番ライト山城 隼太 25歳。得点圏で0,353という部類の強さを誇っており、打点を稼ぎまくる。昨年89打点の成績を残しており、根強い人気を誇っている。さらにフォアボールも沢山選ぶため、先頭打者でも頼りになるバッターだ。
六番DH宇田川英二 39歳。もはや高齢で守備には就けないが、打撃では過去にサンドの本塁打王を誇る打撃でいまだに第二の四番として注目される。
更にプロ通算四百七本塁打の打撃は今も健在で、今も日本人で世良の次に本塁打を打てるバッターだ。
七番レフト田中 優人 25歳。
昨年台頭してきたバッター。
打率は2割3分と確実性はないが、その足の速さで、多くの類を盗み取る。
八番キャッチャー 中山永久 33歳捕手としてチームを抱えている。
基本バッティングは頼りにならないが、意外なところで打つため、意外とファンからの信頼度が高い。タイムリーを撃った際には大盛り上がりとなる。
九番ショート 竹川 水棋 22歳
守備が上手く、守備だけで飯を食べられると言われた昨年のドラフト一位。
打撃はまだなじんでいないため基本吸盤の出場だが、すでにフォアボールをそこそこ選べるようになり、あと少し力がつけばヒットが量産できるだろうと言われている。
ピッチャー山岡重行
イニングイーターとして有名で、170イニングをここ数年間挙げてくれるためありがたい存在となっている。
ふう、読んだ感じ、こういう感じなのか。
これに比べたら俺の野球の知識なんてしょうもない事のように思えてしまう。
「夢葉はすごいな」
「へ?」
「ここまで没頭するなんて。本当想像以上だよ」
「そうなのですよ。……だから、もっと褒めてほしいのです。撫でてほしいのです」
「おいおい」
そう言いながらも、俺は夢葉の頭を優しく撫でた。
その、柔らかい、青色の髪を。
「えへへ……なのです」
夢葉はそう嬉しそうに笑った。
「そう言えばそろそろ試合開始なのです」
「そうだな。夢葉の推しはやっぱり……」
夢葉の着ているユニフォームを見る。するとそこには宇田川と書いてある。
「勿論なのですよ」
「前も言ってたもんな」
「勿論俊哉君が一番好きなのですけどね」
「それは分かってるよ。恋愛対象と、推しへの感情はまた別なものだからな」
「ふふ、俊哉君はよくわかってるのです」
そう言って手を万歳する夢葉。正直かわいすぎる。
「それにしても俺の好きな橋下投手が今日登板しないのは少し寂しいところだな」
「先発は、週一でしか登板しないのですから、仕方ないのです。私が俊哉君を慰めるのです」
そう言って夢葉は俺の頭を軽く撫でた。
「でも、俺は山城選手も好きだぜ。打点稼ぎまくるし」
「なら慰めなくてもよかったのです」
「おい」
思わず突っ込んでしまう。
「それで、本は全部読んだのです?」
「いや、まだ半分くらいだ」
正確には半分ところが、二割ほどかもしれない。
だって200ページあるのだから。
普段から小説を読んでいる夢葉と違うく、俺は活字慣れなどしていない。
長時間は読めない。
「なるほどなのです……」
ぎろっと見る夢葉。
普通に半分など読めていないことがばれた。
「すまん。二割ほどだ」
「ふふ、正直に白状したのです」
なんだか、そう言う夢葉は楽しそうだ。
「……怒ってないのか?」
「だって、あの短時間で読めたとも思ってないのですから」
「でも、せっかくお前が作った本なんだしさ」
「そう思ってくれるなんて。……俊哉君……大好きです」
そう言って夢葉は俺に抱き着いてきた。
俺はそんな夢葉を優しく抱き返す。
「夢葉。周りのお客さんが見てる」
ここは球場内。周りのおっさんが俺たちを注視している。
「私はそれでもいいのです。俊哉君を愛せている事実だけで嬉しいのですから」
それは結構な事だ。
そうこうしているうちに、プレイボールの合図がした。
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