第15話 僕っ子従姉妹
「えっと、俊哉君。少しいいのです?」
そう、おずおずと、夢葉が話しかけてくる。
「今日また私の家に来てほしいのです」
またか。最近そこそこ行っている気がするんだが。
「おう」
「ありがとうなのです」
感謝されるのはいいが、なんか態度が変だ。
「これで、一安心なのです」
「何がだ?」
「いえ、関係ないのです」
何なんだ。
ここまで言われると怖くなってしまう。
そもそも家に来てほしいなんて、今更そんな改まって言うセリフでもないし。
そして放課後。俺は夢葉の家に遊びに行った。
そして夢葉は早速俺に対し、
「紹介したい人がいるのです」
紹介したい人?
他にいるのか?
「私の従姉妹の柚葉ちゃんなのです」
そこにはかわいらしい緑髪の少女がいた。
「僕は柚葉だ。よろしく」
うーむ。僕はか、見た目は完全に女だというのに。
しかし、なのです、俺っ子、僕っ子。本当にこの家、特殊な人が多すぎる、
一体どうしてなのだろうか。
何かしらの呪い? 祝福? みたいなのがある気がする。
「ああ。ついにご対面だな」
そう、夢木さんが言う。
「俺の可愛い従姉妹
《いとこ》だ。仲良くしてやってくれ」
「はあ」
「じゃあ、私は一旦外に行ってくるのです」
そう言って夢葉は外に出た。俺の彼女である自分がいたら話しかけにくくなるだろうという、夢葉なりの配慮だろう。
「僕は、夢葉お姉ちゃんから話を聞いていて知りたかったんだ。君のことを」
僕っ子という割には声が高く、はっきりと女声だ。
だが、やっぱり違和感はぬぐえない。
だが、今更僕っ子にびっくりしないのは、この家に特徴的な子が多いからか。
そして、柚葉は俺に抱き着いてきた。
「は?」
どういうことだ?。胸がしっかりと当たり、この子がちゃんと女であるという事を実感する。
だが、そんなことはどうでもいい。なぜいきなり?
夢葉の彼氏であるという事は周知の事実なはずだが。
「僕はずーと気になってたんだ。あの夢葉お姉ちゃんを虜にする人を。なるほど、こういう抱き心地なのか」
「えっと、夢木さん。教えてもらっても?」
「ああ、柚葉は、痴女だ」
「痴女?」
「気になった人には容赦なく手を出す女だ。実際もうすでに彼氏が五人、彼女が三人出来たことがある」
彼氏はともかく、彼女。
百合カップルかよ。
「しかもこいつは今も彼女がいるからな。嫌になるぜ」
「そう言う夢木姉ちゃんだって、彼氏いるでしょ」
「まだ彼氏じゃねえよ。ただの友達だ」
「それはともかくだけど」
柚葉が俺の方へと向き直る。
「僕の方からもプロポーズしてもいいかな。僕は君のことが好きだ。姉ちゃんの彼女でも。だから付き合ってほしい」
「……」
いやいや、堂々と従姉妹の彼氏を寝取る宣言。
夢木さんは頭を抱えている。
おいおい、夢葉。なんでこいつと俺を会わせたんだよ。
……いや、半分無理やりなのだろうか。あの時疲れてそうな感じを醸し出していたし。
でも、予め言っておいてほしかったが。
「俺はその告白には乗れねえ。何しろ夢葉がいるからだ」
「えー、僕にしときなよ」
「そもそもお前のことをよく知らない」
「確かにだね。でも、僕は俊哉君が姉の告白を受けたと聞いたよ。しかもほぼ初対面の」
「いやいや」
告白を受けると、寝取り宣言されるのは違うから。
「とにかく俺はお前の告白なんて受けねえ」
「ははは柚葉、お前、盛大に振られたな」
「うるさい。こうなったら僕の魅力を見せつけてやる」
おいおい、何をする気だ。
そしてその次の瞬間、俺は柚葉に手をつかまれた。
「夢木さん……助けて」
「はは、がんばれよ」
「薄情者ですね!?」
どうやら助は来ないらしい。結局柚葉によってとある部屋の一室へと連れてこられた。
「それじゃあ、行くね」
柚葉はベッドに座る。
「どうしたんだよ。こっちへ来なよ」
「いやいや、なんでだよ」
「僕と一緒に寝ないか?」
「だからなんでだよ」
しかも今のニュアンス。若干エロいことをしそうなニュアンスだったぞ。
「僕の誘いを断るなんて。……じゃあ」
そう言って、彼女は自身のブレザーを脱ぎ始める。そしてそのまま制服のボタンを外し始める。
あ、これあれだ。絶対に色仕掛けしてくる奴だ。
「おい、待て待て待てよ」
俺は彼女の手をつかむ。
「色仕掛けとかすんじゃねえよ」
「だって暑いから脱ぎたくなるじゃん」
そうじゃねえだろ。
絶対俺がいる前で脱ぐ必要ねえだろ。
確かに俺は夢木さんの下着を見たことがある。けど、良いものではない。
何しろ知り合いをエロい目で見る羽目になってしまうからだ。
「えい」
その時、俺の唇に不思議な感触を感じた。
これは、キスをされた?
「っ~~~」
「先手必勝だよ」
「ふざけんなおい」
一応俺のファーストキスだぞ。まだ、夢葉と、キスすらしてないんだぞ。
「信じられねえ」
そう、怒りの感情を震わせながら彼女の方を見ると、まさに今服を脱ぎ切ったようで、彼女の姿はブラ一枚になっていた、
エロいのはエロい。だが、いま彼女への好感度はゼロだ、むしろ怒りすら湧いてくる。
「お前には発情しねえよ」
俺はそう言って部屋を出て、ドアを強くばだっとしめた。
「はあ」
とんでもない奴に会わせやがって。
ただのやばい奴じゃねえか。
「俺は、絶対にあいつとはもう金輪際関わらねえ」
そして、リビングに戻り、夢木さんに言い放った。
「とんでもない女ですね」
「ははは、えぐい事されたか」
「笑い事じゃないですよ」
怒りが収まらない。こうなることが分かってて助けてくれなかった夢木さんにも、どこかへ消えてしまった夢葉と、あの悪魔に。
「俺はあいつのことが嫌いです」
「安心しろ俺もだ。従妹じゃなかったらぶっ飛ばしてる」
「よかった。この家の全員が彼女を好きだったらどうしようかと」
「はは、そんな事天地がひっくり返ってもねえよ。あいつはプレイボーイならぬプレイガールだからな」
「そうですか」
とかなんとか言ってもどうしようもない。
もう嫌いだから。
「お待たせなのです」
夢葉が戻って来た。
「あれ、柚葉ちゃんはどこに行ったのです?」
「おい夢葉」
俺は夢葉につかみかかろうという勢いで立ちあがった。
「え、一体どうしたのです?」
「よくも俺にあいつと会わせやがって」
「やっぱりだめだったのですね」
「やっぱりってどういうことだ?」
「あの子は、ずっと会いたがってたのです。しつこかったので会わせる事にしたのですけど、こうなる事は目に見えてたのです。ごめんなさいなのです」
そう、夢葉は頭を下げた。
「でも、勘違いしないでほしいのです。あの子はああいう性格ですけど、いい子なのですから」
「俺にはそうは思わなかったが、何しろ、俺を誘惑してきたし」
「それは彼女の欠点なのですけど、良いところでもあるのです」
「いやそうには見えなかったぞ」
夢葉までそんなことを言うのか。
「とりあえず、俺はあいつとはもう会わない。そう言っておいてくれ」
「分かったのです」
とりあえず今日はイライラだけが生まれる結果になってしまった。
「でも、私としてはこのまま二人が仲直りできないのは嫌なのです」
「は?」
「だから、今呼ぶのです」
いやいや、なんでだよ。
俺は彼女と仲直りするつもりはない。
一方的に俺にあんなことをするなんて。
これは嫌って当然なんだが。
一般的に男から女への行為よりも、女から男への行為は性犯罪だとか、性行為とか言われることはほとんどない。ただ、服を脱ぎだしたり、キスを突如したりするのはどう考えても変態行為だ。
夢葉に、ちゃんと伝わってないのかな。
「連れてきたのです」
「……」
俺は何も言わない。何も言う必要がないと思ってる。
「僕は間違った行為とは思ってないよ」
「間違った行為だろ。キスをしてくるなんて」
俺は何かが切れた音がした。
「夢葉。やっぱり話すことは無い。初めてのキスは彼女とするものだ。それを初対面の子に奪われたという事が許せないんだ」
「僕にとってのキスはただのスキンシップだ。僕は君がこれがファーストキスだとは思ってなかったよ」
「はあ!?」
ファーストキスだとは思ってなかったって。
いやいや、そんなわけないだろ。
俺は決して持てる見た目であるとは思っていない。
イケメンでもないし。
まあ、夢葉からはかっこいいし、性格もいいと言われたがな。
「それに僕は君のことが好きだよ。いや、僕もか」
「私が先に良いと思ったのです」
「それはわかってる。だからこれは僕から夢葉お姉ちゃんに対する挑戦状。僕は絶対に俊哉君を僕のものにする。覚悟しといてね」
「望むところです」
「いやいや」
なんか、良い風にまとまりそうなところ悪いが。
俺がのけ者にされてしまっている。
「俺は、納得してないからな。とりあえず色仕掛けは禁止だ」
「いや、僕は色仕掛けをするよ。だって、僕が夢葉お姉ちゃんに勝つ方法はそれしかないんだから」
「いや、それをやめろって」
「いや、僕はやめない。絶対にね」
いやいやいやいや。
いやいやいやいやいや。
とりあえず。
「俺には夢葉しかいないから。……行こう」
俺は夢葉を彼女の部屋に連れて行った。
「それで、私に何をしてほしいのです? まさか私にも色仕掛けしてほしいとか?」
「いや、それはだめだ。それにあいつに対抗してそんなことしなくてもいい」
「それは分かってるのです。でも、私がもしそれを望んでいるとしたらどうするのです?」
「それは、甘んじて受け入れるが」
「分かったのです。まあ、しないのですけど」
「しないのかよ」
「そりゃ、私と柚葉は違うのですから。……私にまだキスは早いのですし」
「そうだな。せめて頬だけだもんな」
俺たちはカップルだ。
だけど、すぐにカップルらしいエッチな事をする必要はない。
「とりあえずだ」
俺は夢葉に抱き着いた。
「愛を伝えておく、俺はお前が好きだと今日再々再確認した」
「ありがとうなのです。私も好きなのです」
キスなんて今はまだいらない。
ハグだけでも愛は伝わるのだから。
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