第14話 体育祭


 そしてそろそろ期末テストの時期に入る。だが、その前にイベントが一つやって来た。

 そう、体育祭だ。

 前々から日程とする競技などは決まっていたのだ。

 とはいえ、俺は特にやる気があるわけじゃなかった。

 だから、適当な競技にした。

 だが、競技決め自体、夢葉の恋人になる前だった。


 じゃあ、今は?

 楽しみだ。


「さあ、がんばるのです」


 そう、夢葉が言う。

 幸い俺たちの競技はある程度一緒だった。綱引きと、リレーだ。

 というよりも、俺の事が前々から好きだった夢葉が俺の出る競技に立候補したと考える方が近い気がする。

 さて、今日は本番前の練習だ。

 という訳で普段は男子だけでやる体育。それが今日は夢葉たち女子と一緒での体育となる。

 正直楽しみだ。夢葉と一緒に体育を受けれる機会なんてそうそうないのだから。



「俊哉君。こんにちはなのです」


 そう、体育の集合の時間に夢葉が言った。


 正直、体操服の夢葉は可愛い。天使みたいだ。

体育での運動の邪魔になるからと一つでくくられた髪の毛もまたいつもとは違う雰囲気を醸し出している。

 


 夢葉は胸が小さい方だ。



 姉の夢木さんが巨乳だったのでそちらに吸い取られてしまったのだろう。

 しかし、そんな華奢な胸も体操服のおかげで少しエロく感じる。

 っておいおい、夢葉をエロい目で見るんじゃねえ。

 そんな一人漫才をしていると、夢葉が話しかけてきた。


「俊哉君はスポーツはできるのですか?」

「俺はできないな。何しろ、あまりしたことがない。部活も入ってないしな」

「私は一応入ってるのですよ」

「ん?」


 初耳だ。


「文芸部に一応なのです」

「ああ、そうか。文化系なら似たようなものだな」

「はい、そうなのです」


 そしてさまざまな競技の練習が始まっていく。


 そして俺たちは綱引きの練習だ。とはいっても大したものではない。

 綱引きは、一人で行う物ではなく、みんなで行う物だ。

 だから、一人一人の力はそこまで必要じゃない。


 そして俺は夢葉と共に、あまり戦況にかかわりがないように後ろの方だ。

 本当は俺は女子よりは力がある。だからこそ、前の方に行くべきなのだが、彼女と一緒にやりたいだろうと、クラスメイトが気を使ってくれた。


「がんばるのです」


 そう、夢葉がこぶしを握り締めて言う。やる気満々だ。


「夢葉。行けるか」

「はい、なのです」


 そして二人で精一杯引っ張る。

 これはあくまで練習なのだが、それでも負けたくはない。どんどんと力を加えていく。だが、縄はなかなか動かない。

 緊迫した勝負だ。

 だが、勝負は一気に無効に傾く。

 そして俺たちは負けてしまった。


「悔しいのです」


 夢葉はそう拳を叩きつける。


 だが、その表情を見ると、どうやら冗談での叩きつけだったみたいだ。

 

 そしてそのあとは障害物リレー。

 早速俺たちはレースのタンカの中に入る。俺は網目状の縄を張って進む。そしてその次は夢葉がボールの中に入り転がっていくのだ。


 網目状の縄それに絡まれながら進むのは大変だったが、段々と抜けるスピードが上がって来た。これなら本番もできるはず。


 そして、夢葉も進むスピードが上がって来た。

 これなら本番は安心だ。


 そしてあっという間に体育祭本番がやって来た。



 体育祭本番は学校ではやらず大きなドームを借りてやる。


 早速開会式が行われた。開会式は、芸人の漫才から始まった。

 その漫才で会場は笑いに包まれた。


 そして体育祭が始まった。

 だが、いきなり出番があるわけでは無い。

 最初は主に見ているだけなのだ。

 何しろ、俺たちの出る競技は最後の方にあるのだ。


「よう」


 すると隣の男子が話しかけてきた。名前は確か萩原智はぎわらさとしだったはずだ。


「今日もラブラブだな」

「そうだな」

「ラブラブなのです」


ラブラブだなと言われるのは変な気持ちだ。



「最初の時間暇だろ。だから、話の仲間に入れてくれよ」


 そう、萩原君は言った。


 仕方がないので俺たちは野球のエピソードを話す。

 主に夢葉が積極的にだ。


「それで、私悔しくて泣いてしまったのです。でも、最後は肉を食べて機嫌が直ったのです」


 そう、夢葉が言うと、萩原君は大笑いした。


「ははは。内容が濃いな。流石いちゃいちゃカップルだぜ」

「そんなに面白いのですか?」

「ああ、正直言ってさっきの漫才よりも面白い。やっぱり生の恋愛話は面白いな」

「そう言えば……」


 萩原智という男は、恋愛話を聞くのが好きだって噂があったな。実際、そう言う場面を何度も見てたし。

 そして、萩原君と話しながら会場を見る。


 今は、縄跳びだ。出場者の生徒たちが縄跳びを飛ぶ。先に失敗した方の負けだ。

 すでにそこそこの回数飛んでおり、そろそろ疲れないかと不思議に思う。だが、それでも飛ぶ続けている。

 俺は正直言って体育系の男子を基本同じ人種だとは思っていない。俺が根が引火yという事もあるのだが、何より運動能力が段違いなのだ。そして、その教義ではうちのクラスが一位になっていた。

 そして、俺と夢葉の競技が来た。そう綱引きだ。


「夢葉、がんばろうな」

「勿論なのです」


 そして競技は始まっていく。


 俺たちは縄を持つ。なんだか緊張してくる。


「私たちなら大丈夫なのです。一緒に勝つのです」

「おう」


 そして試合開始の合図とともに俺たちは一気に縄に力を込める。


 そして全力で引っ張っていく。

 相手の力も強く均衡状態が続いていく。

 だが、ある瞬間に均衡が崩れた。

 ある瞬間こちらが引っ張られていく。相手側が勝負をかけに来たのだろう。

 俺たちはそれに対抗して力強く引っ張る。


「うぅ、負けないのです」


 夢葉の手には力が込められていく。


 俺もそれに合わせて「うおおおお」と、自身を鼓舞する。

 頼む。


 そして、ついに決着はついた。先頭の人が線を越えてしまった。そうつまり、俺たちのクラスの負けだ。


「うぅ、悔しいのです」


 今度は練習の時と違って本気で悔しそうに膝をパンっと叩いた。これだけで相当悔しいのだろうという事が伺える。


「まだ敗者復活戦があるから」

「はい、なのです:


 そして見事に敗者復活戦では勝ち、何とか三位は死守した。


「いや、負けたなあ」


 席に戻ると、萩原君がにやにやしながらそう言った。


「うるさいな」

「どんまい」

「悔しいのです」


 だが、夢葉は野球で負けた時ほどは悔しがっていない。そこに安堵しながら、


「次は障害物リレーだ。勝ち切るぞ」

「ええ、なのです」


 そして、障害物リレー。

 俺と夢葉は持ち場に付き、待機する。そして、先頭の人が走り出す。

 そしてすぐさま俺はバトンを受け取り、網に挑戦する。だが、練習の成果を見せてやる。

 俺は見事にあっさりと縄を抜けることが出来た。そして、夢葉にバトンを渡す。

 夢葉も必死に入ってる球を転がしていく。だが、その際に違和感を感じた。


「あれ、向こうに行ってないか?」


 ボールをうまくコントロールできていない。

 これじゃあ、観客席の方に行き、コースから外れてしまう。それにボールの中の夢葉も気づいているようだが、本人にもどうしようもないらしい。


 結局時間をかけコースに戻ったが、そのロスは最後まで取り返せずに俺たちのチームは負けてしまった。


「私のせいなのです。ごめんなのです」


 戻るとすぐにそう言って周りの人たちに謝る。


「せっかく作ってくれたチャンスを無駄にするようなことをしてごめんなのです」



 周りの目が痛い。いざとなったら夢葉を助けるつもりでいるが、果たして。


「大丈夫だ。そんなことあるさ」


 そう、クラスの陽キャ、達が言う。


「所詮体育祭は遊び。本気になってたら心臓が持たんよ。なあ、みんな」

「おうよ」


 良かった。ここは暖かい世界だ。

 そして、どんどんと体育祭は続き、ついに最後の競技となった。

 リレーだ。これの商社が実質個の体育祭の勝者になると言っても過言ではない。

 俺たちのチームは先頭からどんどんと走っていく。

 みんなどんどんと走り、どんどんぬかし抜かされの勝負となっている。

 観客席の俺たちはもはや見守ることと応援することしかできない。


「我慢できないのです」


 夢葉が急にそう言って野球の応援歌を全力で歌った。


「おい、夢葉」


 周りは頑張れーと言った応援はしているが、応援歌なんてものは歌っていない。

 これ絶対あかんのじゃないか。


「俊哉君も一緒になのです」

「いや、ダメだろ」

「でも、応援歌を歌ったらダメというルールは無いのです」

「そうだけどよ」


 確かに決まりはない。でも、だからと言ってしていいわけでは無い。

 ただ、その応援歌に段々と人が集まっていく。


「夢葉ちゃんに賛成だよ。皆で盛り上げよ」


 そう陽キャの女子が言ったことで、応援歌を歌集団になっていった。

 そして、心なしか、段々と二位に差を広げていく。そしてついに、イチイでフィニッシュした。


「やったのです!!!」


 クラスは大盛り上がりだ。


「これで……価値なのですか?」

「いや、分からん。何しろ、総合評価だからな」


 リレーが一番点がつくのはそうだが、しかし、だからと言ってここまでの転さを覆せるほどかは難しい。


「お願いなのです」


 夢葉は神に祈る。


「点数が出ました。紅組一位です」


 紅組とは俺達ではない。俺たちは青組なのだ。


「二位は青組です」

「やったのです」


 一位にはなれなかったが、二位でもじゅぶんだ。


「あ、でも、私がやらかさなかったら一位に慣れたんじゃ……」


 そう、夢葉は軽くうなだれる。


「心配すんな。それは結果論だ。そんなこと言ったら他の組の人も、あれがこうだったとか言えるだろ」

「それもそうなのです。とりあえず今は喜んでおくのです!!」


 そう言って夢葉は手を上にあげ、万歳をした。


 そして俺たちは高校初めての体育祭の思い出をかみしめながら家へと帰った。

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