塩と砂糖11

「姉様が捕まってるでしょ?間抜けな狸親父も回収したいんだよね」


 姉様。女騎士のことか。ならばこいつは血縁者か。こんなにも幼い頃から訓練を受けているのか?何の為に?思考を巡らせたところで、ソルトの言葉が蘇った。


 ──女騎士はお飾りだろうな。


 ──珍しくもないだろ。箱も、空も。同じだ。


 蘇った言葉で、フォックス家の本命はこの少年なのだと気が付く。そうか、女騎士とは段違いの訓練を受けさせられているのか。そして当主が運悪く此方に捕まったことで主力にならざるを得なかった。ピースが当てはまる。


「結構お喋りなのな。坊主」

「姉様には負けるよ。間抜け度合いもね!」


 キン、と激しい金属音が辺りに鳴り響いた。思わず身構える。そろそろ終わりにしたいと言わんばかりに猛攻を繰り返す。ソルトの額に汗が滲む。


「早まるばかりに隙を見せたな」


 ソルトのその言葉が合図だった。俺は速まった動きの中で生まれた隙を見つけ、銃口を研ぎ澄ます。その瞬間、引き金を引いた。──つもりだった。


「遅いよ」


 少年の腕に向けた弾は空を切って何処かへと飛び去り、即座にソルトから間合いを取った少年の狙いは此方へと向けられた。俺に。


「シュガー!」


 怒号にも似たソルトの声よりも先に、投擲されたククリナイフで腹を貫かれる。思わずその場に崩れ落ちた。


「あ……ぐ……!?」

「クソ!」


 ソルトが即座に間合いを詰めて少年の胸を切り裂く。ナイフの片方を失った彼は、致命傷を負ってその場に倒れ込んだ。


「はは、……は、最初からこれが狙い。……の、片方を、排除、すること。そう、銀髪紅眼の反対側を、箱にいる理由を消すこと……」


 血を吐き出しながら、少年は嗤う。ゲホッ、と一際大きく血を吐き出したきり、そのまま動かなくなった。ソルトが俺に向かって駆け寄ってくる。


(血が沢山出てるな)


 一気に出血した為か、意識が遠のく感覚がした。痛みももうない。


「しっかりしろ!医者に連れてってやるから!」


 ソルトの声とぼんやりと霞んだ視界の中に赤い瞳が目に入っていた。

 そこからの記憶は、途切れている。

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クソザコナメクジ @4ujotuyoi

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