0-4 迷子の…
山舘は樹海へ続く青の橋を辿るようにサーチライトを動かした。このあたりには街灯が一切無く、夜には真っ暗になってしまう。それで、こうして橋の両脇に張られたネットが破られていないか、樹海に入ろうとする自殺志願者が歩いていないかを確認しているのだ。今日は誰も居なさそうだ、とサーチライトのスイッチを切って引き返そうとしたとき、樹海の入口を若干入ったあたりで何かが一瞬だけ光った。今夜の明るい月明かりを透過してシャランと輝く透明な青色の光は、間違いなく人影の上に集光模様を落としていた。
「あれは……!」
山舘は焦る気持ちを押し込めて、慎重にヘリを停める。橋と樹海の間の隙間に停めなければならないため、崖際ギリギリの繊細な操作を要求されるのだ。
「うう、誠志くんが居てくれたら、追っててもらえるのに……」
「ま……迷った、かも、しれない」
しばらくの後、山舘はゼイゼイと息を切らせて暗闇の中を佇んでいた。懐中電灯は持っているものの、昼間でも似たような景色が続くために遭難者が出るのが樹海というものである。一応、観光コースではあるので誘導テープが張られているのだが、自殺志願者がそんなものに沿って歩くわけがないので脇道を見ていたらテープを見失ってしまったのだ。山舘は息を整えてから、自分に言い聞かせるように「焦っても仕方がないよ」と呟いた。まずは懐中電灯を周囲に巡らせ、座れそうな岩を探して歩く。木の根が絡んだ岩を発見すると、そこに座り、光を上に向けて置いた。そうすると自分の姿が照らし出されるので、ジャケットを
「朝になるまで待つ他ないかぁ……」
イヤホンを外して身なりを整えてから、懐中電灯を消して腰ベルトにカラビナを引っ掛ける。幸いにも山舘は空の上の寒さに耐えうるヘリジャケットとストール装備だ。何度かの春風を過ぎた今日は全く温かい。凍死してしまうことはないだろうが、すっかり手持ち無沙汰になってしまった。見上げれば、鬱蒼と茂る真っ暗な木々の隙間から僅かな星の光が見えるばかりだった。こうなると、忙しくあちらこちらへ飛び回っている普段では考えないようなことが頭に浮かんでくるものだ。例えば、過去の事件の事だとか、置いてきた仕事の事だとか、……先程の無線の内容だとか。
統制官は如何にも仕事人というふうで表に出しはしないが、休む間を惜しんで働く自分に対する本音としては「よくやるよな」と4番の言う事が最もなのだろう。誰にも指摘されなかったが、彼の発言の後ろで、同乗していた警官が発した「だからついてけねぇんだよ」というボヤきが山舘の胸に針を刺していた。それは山舘が何かしらの行動を起こす度に周囲から囁かれる言葉だ。山舘としては自分にできる事をしているだけであって、周囲に対してそれを強要したことはない。しかし彼らが内証にそう思っているかと考えると、どうしても自分と彼らとの間に一線を引かざるを得ないのである。まあそれは今に始まったことではない。それよりも気がかりなのは、学生時代からついてきてくれた目星が、近頃ではめっきり単独行動を好むようになったことだ。4番たちのように皆バディがきちんと横に居るのに、自分の隣には誰も居ない。暗闇を進むのに、一人で大丈夫だろうと放り出されている気分だ。
「やっぱり誠志くんもついてけないって、思ってるのかなぁ」
警察学校時代はこんな事なかった。むしろ目星の方から「探したぞ山舘この野郎!」とくっついてきて、星の
はぁ、と大きな溜め息を吐いて、暖を取るため体育座りにした足に顔を隠した。しばらくそうしていたが、うっかり眠ってしまいそうだったので物憂げに視線を上げる。依然として変わらない真っ暗闇が無限に広がっていた。木々のざわめきも夜鳥の声も遠く感じる。
「僕……何がしたいんだろう……」
たった一人の静寂の中で気をおかしくしそうになっていたその時、中~大型の生物が枝を踏み折る音が聞こえた。山舘はハッとして石の上へ立ち上がり、周囲の気配を探りながら音のした方へ素早く拳銃を構える。サク、サク、とゆっくり散歩でもするような速度で木の葉や草を踏む音が遠ざかっていく。敵意があるわけではなさそうな足音の正体を探ろうと注視していると、光の
「おうい、キミ! 待ってくれ!」
声を掛けてみてもまるで聞こえていないように、一定の速度を保ってふわふわと揺らめく光はさながらクラゲのようであった。光は木々の隙間を縫って、みるみるうちに遠ざかっていく。やがて声を掛けていては追い付けないと悟った山舘は、ただ光を追うことに専念するようになった。何分、何十分とそうしていたであろうか。少し遠くで
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