第63話 そんなことを言われても

「第一な、私の言動をとやかく言うなら、志朗。お前もそうだろ」

 身に覚えのない言いがかりを突然訴状に挙げられても弁護資料をそろえられるか心もとないんだから、自重してもらいたい。だが、弁天さんは

「お能登があんなに心を許した顔を見た事がないぞ」

もはやヤキモチな声色だ。それに冤罪だ。そんなこと意図してたってできるものではないし、俺はその顔を知らんぞ。どこかにウェブカメラがついていたら処理してみるのはやぶさかではない。

「どうせ、お前のそういう捻くれたような性格だって……」

 罵詈雑言がストレッチ中に筋を違えてしまったような顔をし出した。

「志朗、お前捻くれているよな」

 他人の性格を貶めるようなことを驚いた表情で確認するな。どんな刑罰だ、これ。それが良心の顕現とかで鼻を高くする神の所業かよ。

「こういう風に成長してしまったのだからもうしょうがないですけどね。なんですか、例の統領さんはもっとドリルみたいなねじり方だったんですか」

「そんなわけあるはずが無かろう。彼の心の根のまっすぐさ、よどみのなさはあの時代には珍しい実に澄んだものだ。あれは武将というより聖人だな。そんな男が志朗みたいな青二才と比較できる素地にいるわけなかろう」

 散々な言いようだな。見事に梯子を外された気分だよ。

「自分の性格を分析できているなら、それができたとしてもっと嘘が上手ければ、就活はもっとうまくいったでしょう。どっちかと言えば俺は器用ではないですよ。ああ、そうすると弁天さんと同じになってしまう」

 新たな視点に気づいた時、人は衝撃とともに正気を失う。

「私と同じがそんなに嫌かー? 神と同列なのだぞ」

 いやもっと超常的な側面での同質なら百歩譲って受け入れるが、性格となれば一考が必要となる。なぜなら、とても厄介だからである。

「いやいや脱線してはならない。志朗、お前仕事でここに来たと言っていたな」

 お能登さまへと同様に、弁天さんにも俺の生業について話したことがあった、暇つぶしに。それが今になって改めて確認されなければならないことなのだろうか。仕事というよりバイトなのだが、細かいことを説明するのも面倒なのでスルーしておいた。

「はい、依頼人から任されたんです」

「それで志朗は奇妙に思わんのか」

「なにをです」

「しゃべる鳥だの岩の精霊だの美しき女神だの鬼だの変身するトナカイだの、だぞ。お前の仕事ではないではないか」

「はあ。途中に引っかかる単語がありましたが、事実なので一応飲み込んでおきます。ここまで連続ってのはさすがに驚きましたが、依頼人のおかげ、いや依頼人のせいですっかり耐性ができてます。これまで散々な目にあってますから」

「やはりお前は阿呆だ」

 弁天さんがまたしても頭を抱え始めた。食べていたのはみかんで、アイスクリームではないからこめかみのあたりがキーンとくるはずはない。それに言うに事欠いて今更阿呆とは何事か。

「依頼人にもですね、俺の肝は一風変わっていると言われたことがあります。気付かないうちに霊能力? みたいなことがあったらしいですが、取り立てて不都合はありませんでしたし。あ、肝が変わっていると言っても、しょうゆ味のからあげがカレー味のからあげになったということではないですから」

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