第61話 感想

 弁天さんは二合空けてしまった。徳利を逆さにして覗き込んだ。

「志朗」

 徳利を差し出してきた。

「いや、やめておくか」

 それをテーブルの上に置いた。目も伏せた。湯飲みを見ると空になっていた。もう一杯お茶を淹れようか迷った。その時間に呼吸が聞こえた。

「弁天さん」

 いじわるく張った声にした。ビクンと体が揺れて、弁天さんは

「なんでまあ、いや」

 俺を忌々しく、それからいたわるように見てから頭を掻いた。

「お茶飲みますか?」

「ああ、頼む」

 テーブルの上には湯気のゆらめく湯飲みが正対した。俺は椅子に座って大きなため息をついた。

「感想なんですけどね」

「ああ」

 弁天さんは湯飲みを持ち上げようとして止めた。それから湯飲みの口を指先でなぞった。

「感想じゃ、ないみたいです」

「ああ」

 弁天さんは一口啜った。怒ってはいないようだ。といっても俺の真意を探る感じもない。拭いた風に暖簾が動くみたいな、そんな感じだった。

「家臣腹立つなあとか、神アホじゃねとか思うっちゃ、思うんです」

「阿呆というなら、あやつもな」

「手厳しいですね」

「そしてお前も阿呆だ」

「お手柔らかにお願いしますよ、こっちは神に阿呆と決めつけられるんですから」

「そういう風に返すから目をつけられるんだ」

「仕方ないです、どっかの誰かさんと同じで性分なので」

「ほらこれだ。けれど、これで分かったろ、こんな話しあのトナカイが知っているわけないだろ」

 二人して乾いた笑いをして、お茶を飲んだ。そういえばと立ち上がって買ってあったみかんを出した。デザートというには時間が結構過ぎていたし、

「もっと早く出せよ」

 弁天さんが頬張って酸っぱい顔になっていた。

「酔い覚めますか? しゃべり終えたら寝落ちするようなお子ちゃまには今のタイミングがベストかと」

「言ってろ」

 さすがにさっきの寝落ちは意図してなかったのだろう。恥ずかしいのか頬がピンクになった。

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