第59話 休憩

 弁天さんはフウッと息を吐くとお猪口を空にした。それからぬるくなったお茶を飲んだ。

「志朗、お茶」

 言われるままにお茶を淹れた。

「フウ。まるでお能登が淹れた茶のようだな」

 それはそうだ。家元が厳しく教えてくれたからな。湯呑を口まで運んで、それからテーブルに置いた。

「さっきの、人身御供にすらならなかったってことですよね」

 俺も人ならざる者に下手をしたら喰われる危険性があったから、他人事とは思えなかった。

「そうか、そうでないか、私は判断できるわけがない。その者の思いがいかなるものだったか今となっては知る由もない。というか絶対に喋らんだろうな。ただ戦は終わり、統領は首を切らず、国は守られた」

 弁天さんはお茶を飲み干すと、一合さらっと空にした。

「それで終わりというわけではない」

 そう、そうでなければつじつまが合わないというか、消化できない。それくらいならわざわざ神が語らずとも、図書館に記録が残っているだろうし、史家がふんぞり返って偉そうに知識をひけらかすのを我慢して聞けばいいだろう。文字列はおろか記号にさえなってない、なれなかった息遣いはまさに弁天さんが言わんとすることなのだ。

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