第51話 それはないよ
十二月。
それは唐突な朝だった。
お能登さまがいなくなった。
ついでに弁天さんも。
リビングのダイニングテーブルに紙が置かれていた。
羽場志朗様
来島以来、否乗船以来世話になった。今回の件、私一人では成し遂げられたどうか甚だ疑問である。とすれば、志朗に負担ばかりかけたという事実が導き出され、それに対して私が何か報いられたかと言えば、これもまた心許ない。ならばその誠意くらいは見せよとの批判は覚悟の上で私はもう発たねばならなない。率直に言わせてもらえるならば、この出立にあたり志朗に面と向かって告げるのが忍びないという一言に限る。それこそ礼を欠くという誹りは甘んじで受け入れるつもりだ。何も告げぬより一筆でも残しておこうというあざとさを笑ってくれても構わないし、私を非難してくれても構わない。ただ筆舌に語りつくせない感謝の念を志朗に頂いているということだけは承知してもらいたい。これとても私の独りよがり以外の何物でもないと理解している。志朗との出会いは、私にとって極めてうれしい時間だった。もう二度と会うことは叶わぬだろうが、最後に重ねて志朗に感謝を述べたい。
自動車のキーを握って玄関を走り出た。キーを差し込もうとして手が利かず何度かずれてようやく入った。エンジンをかけようとして、止まった。大きく息を一つ吐いて運転席を出た。今度は静かにドアを閉めた。居間に戻った。ダイニングチェアに腰を下ろした。隅がよれてしまったお能登さまの手紙を手にしようとして、もう一枚の紙を取った。弁天さんの書き置きだった。
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