第45話 事情説明
居間では、変身を終えた元トナカイが人の姿でお茶を啜った。重苦しい空気が漂っていた。換気扇を回しても意味はないだろう。サーキュレーターを買ってなかったことを後悔した。
「申し訳ありません」
トナカイ人間姿が湯飲みを置いて頭を下げた。すでにビキニではない。着ぐるみでよく見る動物のパジャマ姿になった。何の動物か。いわずもがなトナカイである。ゆったりとしたパジャマのはずがトナカイ人間姿の体型を如実に表す凹凸のラインを形成していた。
「お能登、鬼は金棒を置いていかなかったかしら」
弁天さんはトナカイ人間姿の豊満なとある一点を瞬きもせず凝視しながら、声を絶対零度に下げる勢いでそんなことを言った。
「私は知らん」
投げやりなお能登さまを通り越して、
「志朗。鬼に連絡して。金棒持ってくるように」
瞬きしない開いた艶のない目が俺を捉えた。テーブルの上に置いたお盆でシャットアウトした。もう少し見返していたら、俺は石になっていたかもしれない。神話違いだが。
「志朗、何してるのかな~」
もはや神ではなく怨霊の声量である。
「お能登さま、知り合いなんでしょ。なら、お能登さま先行で打開してください」
目を閉じて懇願した。
「弁天、それくらいにしておけ」
ため息交じりの制止に、弁天さんは
「チェッ」
舌打ちをした、神が。が、目が平静に戻った分、お盆を置き直すことができる。見れば口を尖がらせて足を前後に振っている。おもむろに立ち上がって勝手場の冷蔵庫から弁天さんの前に置いた。
「こんなもので私の機嫌が直るなんて思わないことね」
とはいうものの一口目ですっかりおとなしくなった。プリンを置いたのだ。
「それで何をしに来たんだ」
「ちょっとお能登さま、そっからですか」
「他にあるのか?」
このトナカイ人間の紹介をそっちのけで目的を問いただそうとしたのだ。俺のことなどお構いなしというのは、それはしょうがないことだろうが、弁天さんでさえ玄関でトナカイに驚く俺に気を回せみたいなことを言っていたではないか。プリン食ってニッコニコになっているがな。
「そうか、あれ。名前つけてたっけ」
お能登さまはトナカイ人間姿に逆質問をする事態になった。頭を抱えた俺を誰が責められよう。
「いえ、私たちは取り立てては固有の名はございません」
「だよな、というわけだ、志朗」
それならそれでもっと説明が必要だと思うが。
「お能登様に戻っていただくようお願いに上がったのです」
そうか、お能登さまの仕事はもう既に完了している。だとしたら、進捗状況の確認がなければ心配をするだろうし、あったとしても既に完了しているのになぜ帰来しないと疑問になる。よって呼びに来る……その前にお能登さまはスマホを持っていたから、そこに連絡すればいいのでは。わざわざトナカイをガキの使いにしなくても。
「ああ、だから日々送信していた。帰りは遅れると。それならば待とうという返信もあった」
ちゃんと連絡はしていたんだ。なら一安心。のはずなのに
「なぜ、呼びに来ている」
思わず立ち上がってしまった。
「ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんです」
若干驚いて身を引いて、トナカイの弁論。それならば、そもそも論である。トナカイの姿ではなく、その人間の姿で玄関を開けるべきではなかったのだろうか。
「ああ、そうですね。人間さんは賢いですね」
トナカイがコツを教えられたパズルゲームで高得点をたたき出したような顔をした。お能登さまが目を閉じて頭を抱えていた。
「志朗、お代わり~」
空になったプリンを掲げた弁天さんに脱力したまま、新しいプリンを渡した。食わして置けば静かな人にはそうしておいた方がいい。話しを進めるためにも。
「呼びに来たって、お能登さまから連絡はあったんだろ。それなら待っていればいいんじゃないか? それに緊急ならそれこそその用事だとスマホに連絡すればわざわざ来なくても」
お能登さまが口を開きそうはなかったので、自分で問わないと状況確認ができそうになかった。
「いえ、それはそう、……な、……ん、です?」
トナカイが途中から首を傾げ始めた。
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