第41話 見返り

「それで、報酬は?」

 いつのまにか買ったばかりのせんべいを菓子器に入れてバリバリと堪能している弁天さんがビジネスの話しをし出した。

「ご要望があれば揃えますが」

 なんだ、この商談。金銭交渉ではなく、等価な物々交換で済むというのだろうか。いや、そもそもこういう思考自体が資本主義の恩恵というか、影響というか、前例主義というかそういうことなのかもしれず、契約を結ぶ当人たちが価値の交換に適すると判断している以上そこに貨幣がなければならないというのは社会思想かぶれの人のおごりである。いくらもらうことにしよう。

「ぱそこんと、たぶれっとと、すまほとかいうの。書類なんかを書くみたいだからその名前は志朗で」

「心得ました」

 神に情報通信機器は必要ないだろうし、その名義を人に押し付けるとは何事か。

「鬼さん、人間社会の物品を買う金はあるんですか?」

 そもそもそこを責めれば女神の要望が聞き入れることはない。心象的にはない、物質的に貨幣がなければそれらは買えないのだ。

「ええ、ほらここに」

 腰から小さな金塊を出しやがった。俺でも分かる。これなら買える。

「なければ志朗が依頼人に言えばいいだけのことだろ」

 確かに俺が経済的にひっ迫する事態にはならないか。いや名義を俺にすると言うことは請求書が来るだろ。

「それも依頼人が支払うのだろ?」

 いや鬼さんだろ、支払いは。

「私は特にない。ただついて行くばかりだからな」

 お能登さまはあっさりしたものだ。報酬がいらないとは。その分俺が吹っかけておこうか。

「では、……」

 鬼さんが金塊を持っていたということは貨幣ではなく、もう少しでかめの金塊をもらいうけ、金の相場価値が上がったころを見計らって売りさばけば……なんてことを考えて要求の金塊の重さを調べようとスマホを見ようとしたら、お能登さまと目が合った。目は口ほどにものを言う。本当だった。鋭利かつ怜悧な目が語っていた。「志朗、お前それで本当にいいのか」と。

「俺はお能登さまと同様で結構でございます」

 頭を掻いた。仕方あるまい。ビジネスは人間同士でするもの。神と鬼が条件交渉しているからと言って、人間がそのテーブルにつけるわけはない。それになにかあったら、それこそ依頼人に請求すればいいだけのこと。たぶんそういう手続きの方が性に合ってるんだろうなあ。

「まことに感謝申し上げる。早速日取りを……」

 即決で翌日になった。

 鬼が恭しく頭を下げて出た玄関。見送ったその足でやはり弁天さんの例の儀式に必要な品々を買いに出ることになった。鬼さんが準備すると言ったのを弁天さんが断ったのだ。良し悪しを見極めるためとか言っていたが、単にスーパーを見て回りたいだけなのかもしれない。なぜなら何枚ものチラシを話の途中から見ていたからである。

 玄関を出ると、鬼さんの姿はもうなかった。はたしてどうやって行き来したのか、次の日にでも訊こうと思って、結局忘れてしまった。弁天さんがスキップで助手席のドアを開けようとしたら、すでにお能登さまが乗車していた。

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