第40話 無茶ぶりされても

 頭を垂れた鬼。まったく具体ではないので、何のことやらさっぱりだ。とはいえ、弁天さん云々は大野亀でやったあの踊りの類だとは想像がついた。あえて具体的というならそこくらいだ。前例がなければまったくもって不明瞭この上ない鬼の弁と聞き流していたかもしれない。けれど弁天さんの力はもう知っており、精霊がリフレッシュするくらいだから、それは不調の鬼ならばデフォルメで美形にメタモルフォーゼするくらいにリフレッシュするのだろう。それは分かる。その後、なぜ俺とお能登さまを見た。その後頭を下げた。それでも、お能登さまは分かる。巨岩の精霊を引っ張ったり、女神にメンチ切ったりは並大抵の肝でできることではなく、超能力的そのパワーが、それこそ海鳥やら何やらが目撃しており、島内で口を軽くしていたとしてもおかしくはない。……、もはや人間ばかりが監視カメラではなく、まさに生物たちが治安維持に役立っているではないか。

 そんなたわごとはおいておくことにして、なぜ俺が出てくる。

「若い人の男、そうシロウと名乗る男が新たなる風を巻き起こしている、ともっぱらの噂で」

 その噂を着火した奴を今すぐここに連れて来てもらいたい。裏の小屋にあった錆びついた刈払機で薙ぎ払ってやるから。なんだその新進気鋭の野党議員のキャッチフレーズみたいな言いぐさは。

「間違いではなかろう」

 お能登さまがようやく口を開いたかと思ったら鬼の援護射撃だった。なんか楽しそうだし。

「お能登さま、いつぞやも言いましたが、過大評価です。というかそんなかまいたちみたいなことできるわけないじゃないですか」

 投げやりついでに自分の湯飲みにも新しいお茶を淹れた。ところが、

「ほほう」

 弁天さんが意味深し視線を投げてきて、お能登さまも何か言いたげな目をよこしてきた。

「で、鬼さんは俺たちに何をしろと」

 もうこうなればやけくそである。とっとと話を聞いた方がいい。

「ええっと。と、とれーにんぐ、って言うんですか? 養生に体を動かすようなことを」

 鬼が現代用語の意味内容を述べようとしたが、皆まで言わなくていい、キーワードだけで理解できる。

「それなら、鬼ごっこ一択ですね」

「志朗、もう少し親身になってやれ」

 さすがにここでの冗談は叱られたか。お能登さまの口が酸っぱい。

「お言葉ですがお能登さま、鬼の養生になるようなこと俺は他に知れませんが」

「鬼の言い分を聞いてやれと言っている。出来ぬお前ではなかろう」

 まだ就職が決まっていないどころか、学部は全く体育系でもないし、スポーツトレーナーの資格があるわけでもない。ないのだが、面倒ごとのお鉢が回ってきたとすれば、そんな工芸品はぶっ壊したのもやまやまだがとっとと終わらせてしまった方が、それこそ後顧の憂いがなくなる。幸いなことにインターネット環境は整っている。肩をすくませてから、もう一度鬼に説明を求めた。

「ずいぶん知恵の働く人だと、シロウという人間は、と聞き及んでおります。ですから我が子に即したとれーにんぐ方法を考案してくれるのではないかと。それに」

 鬼は頭を低くしてお門違いな評価を挟みつつ申し出て、さらには頭を上げお能登さまを見やり、

「お能登殿、という方ならその人間の男も弁天様も懐柔できるそうで」

 お能登さまのこめかみがピクリと動いた。手綱を引く騎手というならそれはそれでかっこいいとも思うが、そうなれば俺は馬か、あるいはサーカスの動物か。いや、いくら拗ねていてもらちが明かないな。一つ確かめておくことがある。

「もし鬼さんの要求がかなえられない場合はどうなるんですか?」

「その時は」

 鬼が胸を反り返らせた。さすがに迫力がある。

「その時は朱鷺の卵を食らうことになる」

 頭を抱えた。どんだけ滋養供給に適してるんだよ。というかそれはもう打開策を見つけてある。

「杉池の主殿がおっしゃっておられた『土産物での応対はもうなし』だと、シロウに言っておけと」

 もう一度頭を抱えた。つまりはゲームのシナリオはさらに展開されたわけだ。その他に「トキノタマゴ」の発音になる商品は知らない。ということは弁天さんが癒して、鬼のリハビリ・トレーナーになること以外に取れる選択肢はないということになる。マジ?

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