第38話 外出から帰ると鬼がいた
そんな日が二日続いた。雨が一日半続いた。雨が止んで美女二人を連れて外出した。改めてこの日々がとても貴重な時間だと印象を深くした。
「もう退屈した~、どっか気晴らしできる場所へ行こうよ~」
引きこもっていたとは思えないほどアクティブな女神が駄々をこねた。
「お能登もそう思うでしょ~」
買い物帰りの車内。後部座席から身を乗り出して助手席のお能登さまを見る弁天さんに、
「運転するのは弁天ではなかろう。志朗を労わらんか」
視線を合わせることなくまっすぐ前を向いたままだった。俺に振らんでもらいたいが、
「志朗はどうだ? 観光」
今度は俺に顔を向けて来た。神の意向と勧誘に抗わないように、かつお能登さまのご機嫌を損ねないような答えは、
「ご随意に」
低く小声で言うくらいしか浮かばなかった。
「ほら、いいって」
再度助手席に向く陽気な神と、
「ああ、そうだな。気が向いたらな」
冷徹に一蹴する美人。意図の裏表を汲んでいただいて大変ありがたかった。
「温泉かな~、かふぇかな~」
後部席に戻ってウキウキしているのがルームミラー越しに見えてくる。横目でお能登さまを見た。やはり前を見つめたままだった。
「運転に集中しろ、志朗」
気配を察したお能登さまの注意はもっともだった。
停車した途端、弁天さんがトイレを我慢していた幼児の勢いで家に入って行った。鍵は俺がもっている。ただし施錠はしてなかった。不用心なのは心得ているが、どうやらこのあたりは少々の外出なら鍵はかけないらしい。むしろ鍵をかけているとよからぬこと云々らしい。当然物騒なのは確かだがご近所の人曰く「盗んだのが誰かなんてすぐ分かる」らしい。防犯カメラなどいらぬ人の眼という監視装置が十全と働いているようだ。だとしたら、若い男と美女二人が同居しているこの家はいったいどのように見られているのだろう、怖いから聞かないが。
「志朗、客だぞ~」
買い物袋を持ち上げようとしていたら俺を呼ぶ声。お能登さまも先に入っているはずだが、こういう発声をするのは一人しかいない。
ところで外出中に客が来ているとはこれいかに。盗人ならとんずらこく方が先決だし、なんだったらお能登さまと弁天さんがきっととっ捕まえてくれる。だとしたら、近所の人か。回覧板はいらないと言ってあるし、またしてもおすそ分けなんだろうか。だとしたら、わざわざ玄関を閉めて待つってのもおかしな気がする。
「志朗~」
急がせている声色ではないが、確かに待たせておくのも申し訳ない。いそいそと入った。すると、そこには。上り框に腰を下ろした、見間違えなければ鬼がいた。背中を丸くした鬼が。弁天さんは敵意を見せてないし、お能登さまはとっくに上がってしまっている。となれば、この鬼が攻撃を仕掛けてくるという危険はないと踏んで間違いではない。よって、俺が言えることは、
「じゃあ、まあ、居間に上がりませんか」
鬼は申し訳なさそうに一礼をした。
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