第33話 再度訪問
「これはこれは。まったくご足労いただいた」
例のしゃべる鳥はそれこそ満面の笑みだった。鳥が笑ってるなんて見た事はないが、あの表情は間違いない。
「いえ、これが条件でしたので」
お能登さまの声が微妙に震えていた。なぜなら、
「こんなとこにいないで、もっと景色のいいところにすればいいのに~」
弁天さんがなぜかついて来たからである。引きこもりが何を言い出す、と反論したいのはもう思わないことにした。無論、大野亀からの帰路、お役御免となった弁天さんを風島へ連れて行く算段となるはずであったが、頑としてそれを拒否。
「そんなことするなら、このじどうしゃ海に突っ込ませるから」
物騒なことを言い出し始めた。願掛けの成就確率がいかなるものか統計がないけれども、神様が直々に呪術をのたまわったからには、的中率百パーセントの予言であることに間違いはなく、俺の懇願もあってお能登さまも渋々同行を認めた。きっと下唇を噛んだら出血多量になっただろう。
「いやいや弁天殿、ここはここで羽を休ませるのには適しておりまして」
弁天さんの引きこもりの情報をこの島全体の精霊とか神の使いとかそういう存在全員に知らせて、クレームを殺到させたい。さすがの弁天さんも反省する、かもしれない。いや、しないな。
「ではお能登殿」
言われ、お能登さまは恭しく鳥の前へ。卒業証書の授与など目ではないくらいに、まさにお宝を頂戴する丁寧さでその鳥の羽を受け取った。
「謝意申し上げます。必ずお渡しいたします」
そう言うとお能登さまは羽の載った両手を胸へ近づける所作をした。途端、羽は消えた。物質消去現象はそれこそ蛇やら精霊やら、能天気な神様がやってのけていた。お能登さまが尋常でない行動をしていたとしてもびっくりはしたが、さすがにそれと同レベルの術を施したとなると、いよいよとして、「お能登さまの素性はいかに」が頭から消えなくなってしまった。
「え~と、ばいばい~」
弁天さんはもう用済みとばかりに習いたてを即使いたがる小学生のように手を振って歩き出した。
「私も失礼いたします」
お能登さまが頭を下げ、俺も習って深くお辞儀する。恒例の儀式化してきたな。
駐車場へ向かう林の中、
「これでお能登さまのお勤め終了ですか?」
「当地ではな」
お能登さまは簡素に答えた。それまでお能登さまの言葉少なさは個性であった。けれども、この時の答え方はまるで違っていて無表情に見えた。
無事お能登さまのお仕事を終えたということで簡単な打ち上げをすることにした。そこにはなぜか弁天さんも同席すると言い出し、この人が(人ではないのだが)言い出したら意見を引っ込めるということはない、というのはもうすでに経験則で知っているので、逆らわないことにした。ただとっとと酔いつぶすだけである。
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