第31話 夢

 その晩、夢を見た。白い蛇が出てきた。といってもあの池にいる主様かどうかは判然としなかった。まっくらな空間にぽかりと浮いていて、なんだか像がぼんやりしていたからだ。近視のぼんやり感とか靄がかかっているのとは違っている。白い蛇様自体が揺らめいていて輪郭がはっきりしなかったのだ。

「お能登殿のこと、気にかけてもらえぬか」

 説教でも威圧感のある頼み事でもなく、どこか嘆きのようであった。いわずもがな、お能登さまはどこか危うい。それは初日から勘付いていて、日にちを経つ毎にそれは確かな印象になった。素行が悪いとか暴れん坊とか、そういうことではない。弁天さんの前では例外だが。見ていてひやひやする。手を差し伸べて、補助というか代替というかしたくなる。良い意味でまっすぐな人なのだ。だからこそ、石ころがあろうが壁があろうが神様が待ち構えていようが進んでしまうのだ。回避とか懐柔とか妥協とか、そんな選択肢を持たない、いや持とうとしないのだ。おそらく自覚してそうやっているのだ。だから、気にかかる。俺が同行するのもそこが理由として大きくなっている。暇だし、金はあるし、なにしてもいいと言われているからこそ同行しているというより、そうするのが今回の仕事であるような気がしてきたくらいだ。

「弁天さんのおかげで、てんやわんやになっているので、どっちにしろ目が離せなくなってます」

「そうか。それとても無理からぬことなのだ」

 “それ”ってどれだよと思いながらも、

「どういうことでしょう?」

 やんわりと訊いた。

「あれからちょっと聞いてな。弁天殿とて嫌がらせでお能登殿と接しているわけではないのだ」

 何を誰に聞いたのか問い詰めたいが、弁天さんのアレはお能登さまにとっては嫌がらせ以外にはないと思うが。

「まあ、聡いおぬしのことだ。すぐに分かるだろうて」

 蛇からの高評価も悪い気はしないがそれは過剰評価だ。賢い人間ならそれこそ妥協して就活くらいはやっているはずだ。

「人の世は生きにくいもの、それは時知れず変わらぬということだ」

 白い蛇は達観した思想家のようなことを言い出した。抽象的すぎて要領を得ないが。

「それとな、朱鷺の卵でなくともなんなりと持って来てもいいのだぞ。さもなければ頭から食らってやるからな」

 白い蛇はケタケタと笑った。

 そんな夢から覚めて、時計を見れば朝の四時半だったが、それから二度寝はできなかった。

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