第27話 池の主も所望
ほらこの通り、依頼の流れの本流に乗った。俺でさえ「またかよ」と肩を落としそうになっているのだから、お能登さまにしてみれば「いい加減にせいやーっ」などと怒号を発してもおかしくはない。ないのだが、作った笑みを浮かべるのみだった。それでも聞く耳を持っているあたり、唯々諾々とは違うが、それでもすんなりと受け入れるのはなぜなんだろう。
「嗜みたいものがある」
つまりは狩猟採集または収穫をして供物を捧げよということか。イノシシの肉とか、クジラの肉とか言われたら打つ手なしだが、米でも酒でも魚でも果物でも供物になりそうなものはこのご時世お店に行けば入手は難しくない。依頼人から経費で落とせばいいだけのことだし。
「トキのタマゴをな」
俺だけではなく、お能登さまもフリーズ。まさにそれをゲットするために刻々奔走しているだけでなく、お能登さまにしてみれば天敵に妥協しているのだ。ジェンガをしていたら途中参加の奴に崩されそうになっているようなものである。
「栄養価が高く、滋養になる。はるか以前に食したことがある。確かに美味だった。おかげでほらこうして長寿だ」
蛇の寿命の長短に心得はないうえに、目の前の白い蛇が若いのか、はたまた加齢しているのか肌艶で識別する眼力はなく、ご高説を恭しく拝聴するしかない。それこそはるか以前とかがいつかは知れないが、現代は栄養の高いものは他にも……。
「あの、ちょっと聞いていいですか」
「なんじゃ? 人間。はて、人間と話せるのはそれこそ……」
長くなりそうなので、話しの腰を折らしていただく。蛇のどこが腰かは知れないが。
「トキノタマゴならいいんですね?」
「そう言うとるだろ」
「分かりました。ちょっと行ってきます」
あっけらかんと俺が答えるものだから、お能登さまの情緒が乱れたようで、
「な、何を言い出すんだ、志朗。知らぬ事情ではあるまい……」
狼狽しているのか、おろおろと体を動かしていた。
「いえ、お能登さまが困ることはないので、なんならここにいてもらっていいですよ」
お能登さまの困惑は杞憂だ。杞憂なのだが、それをここで説明するわけにはいかないし、下手をしたら「そんなこと適うわけなかろう」と反論されかねない。そうなれば、余計に事態がややこしくなり、行き詰まりとなってしまう。
「いや、私も」
行こうとする俺に手を伸ばすお能登さまに
「お能登殿、人に任せてみては?」
白い蛇様の言うことには逆らえないようで
「では、志朗。頼んだ」
力なく見送ってくれた。振り返ってみたら泣きそうな心配げな表情をしていた。
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