第23話 岩の霊からの懇願
「心得ておる。呼んで来てもらいたいのだ。それができる御方に」
つまりは在地の神主か巫女か、はたまた霊能力者を連れて来いということか。
「言っただろ、人の手では無理だと」
岩に言ったり、俺に言ったりお能登さまも律儀なもんだ。けれど、だとしたらどうすればいいのだろう。お能登さまはおろか俺も地元民ではないから手がかりがない。岩の霊からご指名を入れてもらうしかない。
「この海岸線を南にまっすぐ行くと風島という場所がある」
なるほどそこにお目当ての人――どうやら人ではないようだが――がいるらしい。
「そこに弁天様がおられるので、お連れ願いたい」
七福神の弁天様か。芸事の神様だったっけか。なんかヒーリングとか結界張ったりすることもできるんだな。てか島にもいるんだな。弁天様。
さっそくスマホで検索。現在地と真逆の方だから時間はかかるが、本当に海岸線に沿ってまっすぐだから迷うことはないだろう。蛇行が多いから直進とは行かないが。それより、なんか状況がロールプレーイングゲームの展開みたいになっている。車で行くのならそう大層ではない、くらいに思っておかないと。
「行きますか、お能登さま」
なぜか黙ったままのお能登さまを見れば、初見以来見た事もないまったくもって歪んだ表情になっている。どんな虫を噛んだらそんな苦々しい表情になるのだろう。お美しい顔がもったいなくなってますよ、なんて俺の方が慌てふためいてしまった。
「べ、弁天で、すか?」
「いかにも」
「他にできる者はおらぬのですか? おればこの者を馬車馬のごとく走らせてお呼びいたしますが」
俺の首根っこ、もとい襟首を掴んで前方へ差し出す。献上品ではないので、もう少しお手柔らかに扱いいただきたい……献上品でないから扱いが雑なのか。というか、お能登さまのご乱心ぶりは尋常ではない。俺は馬車馬のようには走れないし、走らせるのは自動車の方である。ていうか、神様に敬称をつけず呼び捨てにしているのはかまわないのだろうか。
「風島の弁天しかおらぬ。ではまかせたぞ」
「ちょ……」
お能登さま、俺の襟首を解放し、手を前方に差し出した。どうせなら例の糸出してとっ捕まえればいいのに。
「お能登さま、弁天さんとなんかあったんですよね?」
もう確定である。ものの見事なツンデレには会ったことがないが、
「な、なにもない」
素知らぬ方向を見上げながら声を震わせて、誤魔化しきれてない強がりなんて他に見たことがない。なんかとても貴重な顔を見た気がする。
「ではお能登さま、ひとまず退散することにしましょうか」
ここで「本当は何かあってんですよね」とか「教えてくださいよ」とかちょっかい出したら、今度は俺が縛り上げられた挙句、放り投げられてしまう。小山級の岩――まあ霊だったから質量がどうなのかは知れないが、見た目はかなり重そう――を動かすくらいである。体重六十五キロの俺なんて水平線近くまでぶん投げられてしまう。
さきに歩き出した俺にまさに重そうな足取りで着いて来るお能登さま。
「今晩は焼き魚に刺身もつけますんで」
「そうしてくれ」
お能登さまの好みを餌にしてみたが、力ない返事。やはり何も聞かん方がいいな。
車中、お能登さまは生返事ばかりしていた。目的地に行くのは別日ということになった。
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