第二話

「おい!!しっかりしろ!!」

「ぅ.......」


葛飾北斎を名乗る男の声によって、重い瞼を開く涼子。

あぁ、これは夢じゃなかったのか。

本日二度目となる布団の中にて、そう思う涼子を尻目に....葛飾北斎の隣にいる女性は彼を引っ叩くと


「あのねぇ!!倒れた女の子に叫ぶアホがいるかい!!」


葛飾北斎に向けてそう叫んだ。

その光景を見た涼子はボカーンとしていたのは言うまでもない。


「あ、えと....だ、誰ですか?」

「あぁ、初めましてよね?私はこと。こっちにいるのが多吉郎とお栄。そしてこの馬鹿は私の旦那だよ」


葛飾北斎の妻を名乗る女性....もといことの言葉を話を聞き、彼女が良い人だなと思う涼子。


「それで....アンタ、名前は?」

「りょ、涼子です!!」


涼子はまず苗字を名乗ろうとしたが、この時代では苗字を名乗っていたのが一部の職業の人だったことを思い出したのか、咄嗟に自分の名前だけを言った。


「涼子....いい名前だね!!」


ことがそう言うと、照れながら体を布団から起こす涼子。

そんな時、北斎は何かを思い出したかと思えば....彼女に対してとある物を渡した。

それは、涼子のスマホだったのだが


「え?」


そのスマホの画面にはバッテリー∞と表示いて、涼子が軽くパニックになったのは言うまでもない。


「先に言っておくが、俺は何にも見てないからな」


北斎はそう言うものの、子供の目は誤魔化されなかったのか


「父ちゃん、この板の中でご本読んでた」

「読んでた〜」


あっさりバラされるのだった。


「アンタ....人様の物を勝手に見てはいけないってあれほど言ってるでしょうが!!」

「い、いやだって、適当にいじったら何故か動いちまって....」


涼子のスマホを覗いた北斎に対し、そう怒鳴ること。

そんな北斎を見た涼子は、歴史上の人物に自分のスマホの画面を見られたことが恥ずかしかったのか....思わず顔を手で隠していた。


「全く....うちの馬鹿が本当にごめんねぇ」

「あ、あはは.......」


葛飾北斎の奥さんってパワフルだな。

そう思いながら苦笑する涼子。

そして、ことが子供を連れて部屋を出ると


「....で、アンタは何者なんだ?」


ニヤリと笑いながらもさっきまでの雰囲気とは一変した様子で、彼女に対してそう言った。

その言葉を聞いた瞬間、涼子は自分のことを探られていると思ったのか.....即座にこう言った。


「わ、私は南蛮人ではないです!!」

「それは見れば分かる」


北斎がそう言うと、ゔっと声を漏らす涼子。

そんな涼子を尻目に北斎はこう言葉を続けた。


「お前が持っていたあの光る板。ありゃ南蛮産の物じゃねぇ。かと言ってこの国の物でもない。だとしたら....お前がこの時代の人間じゃねぇのは確実だ」


彼女に対してそう言う北斎の目はギラリと光っていて、その視線を見た涼子は思わず冷や汗を垂らした。


「....はい、そうです。私は未来人です」


彼には隠し事は出来ない。

そう思った涼子は彼に向けて、自分が未来人であることを告白した。

そんな彼女に対し、北斎はニッと笑った後


「やっぱり!!そうだったのか!!」


と叫ぶと


「んじゃ!!未来のことについて聞かせてもらおうじゃねぇか!!」


続け様にそう言った後、涼子に対してグイグイ迫るが


「アンタぁ!!何やってんだい!!」


ことがその場に戻ってきたことにより、彼はまたもや引っ叩かれるであった。


「本当にごめんね。後でこの馬鹿に説教しておくから」

「待て!!俺はやましいことは何も」

「黙らっしゃい!!」


ことに叱られる北斎の姿を見た涼子は、彼女だけは敵に回さないでおこうと思うのだった。

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