オタクと北斎と化政文化〜どうやら私は江戸時代にタイムスリップしたようです〜

@marumarumarumori

第一話

2024年9月1日。

その日は残暑というにはあまりにも暑い日で、亀有カメアリ涼子リョウコは暑い日差しを感じながら、東京観光をしていた。

彼女はいわゆるオタクと呼ばれる部類の人間で、コミックマーケットに参加するために東京へとやって来たのである。

参加すると言っても、コスプレなどをするわけではなく.......彼女は同人誌を販売する側として参加する予定だったのだが、コミックマーケットの会場に向かおうとしたまさにその瞬間!!突然空模様が変わったかと思えば、涼子目掛けて雷が落ちた結果


「......ここどこ?」


今現在の涼子は、どういうわけか質素な家の中にいた。


「えっと...確か私は......」


ボーッとする頭の中でグルグルと考えながら、そう呟く涼子。

そして、雷に打たれたことを思い出したのか.....ポツリとそんな言葉を漏らした。


「そうだ....私、雷に打たれたんだ.......」


雷に打たれたということは、自分は死んだのだろうか?

そう思いながら、布団から出る涼子。

ふと、部屋の中を見てみると.....床には紙や筆が足の踏み場もないぐらいに所狭しと置いてあり、その中にはくしゃくしゃに丸められた紙もあった。

それを見た涼子は部屋の主が作家なのだろうと思いつつも、とりあえず紙やら筆やらを避けながら部屋の中を歩いて行った。


「何これ....」


そう思いながら丸められた紙を手に取った後、その紙を広げる涼子。

床に落ちていたその紙には、いわゆる浮世絵のようなものが書かれていて


「わぁ....!!」


本物の浮世絵を見た涼子は思わずそう言葉を漏らした。

しかもその浮世絵はまるでついさっき描かれたように色鮮やかだったため、彼女がそうなるのも無理はなかった。


「でも、何でくしゃくしゃになっていたんだろ?」

「何でって、その絵が気に食わなかったからに決まってるだろ」


どこからともなく聞こえてきた言葉に対し、涼子がその声のした方に向くと.....そこには、いかにも時代劇に出てきそうな格好をした40代ぐらいの男で、その男のそばには小さな男の子と女の子が居た。


「え、えっと.....あなたは?」

「俺か?俺は中島鉄蔵。つってもこの名前よりかはの方が好きだがな」


葛飾北斎という言葉を聞き、目を見開く涼子。

それもそのはずで......何しろ、葛飾北斎という人物は涼子の生きた時代では日本が誇る伝説的な絵師として知られていたが、葛飾北斎はあくまで過去の時代の人物。

なので、彼女が混乱するのも無理はなかった。


「あ、あの.....ちなみにここは」


恐る恐る、葛飾北斎を名乗る男に向けてそう尋ねる涼子。

そんな涼子の問いに対し、葛飾北斎は


「ここは江戸だ」


と答えた。

それを聞いた涼子は一つの結論に辿り着いた。

あぁ、自分は江戸時代にタイムスリップしたのだと。

そう理解した瞬間、彼女の脳内は情報量の洪水でパンクしてしまったのか....フラッと倒れてしまい


「お、おい!?」


葛飾北斎のそんな言葉を尻目に、彼女はそれは夢だと思いながら瞼を閉じたのだった。

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