入学式

 あの波乱の入学試験から、はや1ヶ月。俺は今絶賛、入学式に遅れそうだった。


「やばい、やばい、やばい!!遅れる!!」


 くっそ!!こんなことなら昨日の限定イベントなんてやんなきゃよかった……

 後悔先に立たずとはこのことなんだろうな……


「ええと持ち物は、昨日のうちに準備してあるからおっけいと。服装はこの日のために、ちゃんとスーツをクリーニングに出してきているからバッチリ、その他諸々全部よしっと」


 忘れ物がないか確認したあと、急いで家から飛び出す。

 ここから駅までは走って6分ほど、そして乗らなきゃいけない電車はあと8分で駅につく。マジでギリギリだ。


「頼む間に合ってくれ!!」


 走るスピードを極限まであげる。


 〜6分後〜


「なんとか……ゼェ……間に合ったまじで……ゼェ……間に合わないかと思った……」


 息を切らしてゆっくりと電車の椅子に腰を下ろす。

 今日が休日で今が朝だろうか、他の乗客が少なく電車の椅子に座ることができた。


「今のうちに目的地の最終確認でもしておくか、間違ってたら嫌だしな」


 ポケットから新しく送られてきた、新緑学園と書かれた封筒を取り出し、それを大きく目の前に開いた。

 そこにはこれから向かう多目的ホール、いわゆる体育館的な場所だった。


「間違いはないみたいだな、それにしてもおかしな学園だよな」


 市の体育館を借りて入学式をやるなんて。普通敷地内でやるもんじゃないのか?それとも体育館がないのか?

 まあ何にせよ、今日からはれて高校生ってわけだ。思う存分青春を謳歌してやる。


「次は〜〜A駅〜〜〜A駅で〜〜ございます。お降りのお客様は荷物を手に持ちゆっくりとお降りください」


 到着を示唆するように電車内でアナウンスがあった。


「おっ、ついたか。さっさと降りて朝ご飯でも買うか、集合時間までまだ全然あるし」


 俺は駅の改札から出たあと近くのコンビニに向かった。


「唐揚げ弁当あるかな〜〜それにしても人少ないな。やっぱり早朝だからかな?」


 コンビニ内の人口密度は、毒ガスでも出たんかってくらいガラガラだった。

 客に至っては俺しかいない気がする……


「まぁ静かな方が好きだけどな……」


 別に、一人がさみしいって意味じゃねーけどな……

 そんなネガティブな思考を巡らせているときだった。こんな雰囲気の店内に合わないくらいに明るい声が、俺の鼓膜に響く。


「あ!!やっぱりそうだよ!!鰯田さんじゃないっすか」


 この透き通るような明るい声はもしかして――

 声がした方に首を回すとそこにいたのは、入学試験で大暴れしていた喜早と春川だった。

 この二人のお陰で俺は試験に合格できたと言っても、過言ではないくらいに恩を感じている。

 ていうかここにいるってことは合格したってことなのか?


「ところでお前らって合格したの?」


「あぁうん、合格したよ。じゃないとここにいる意味ないしね」


 後ろから春川が言った。よかった、前より警戒されてないみたいだ。

 俺等はとりあえず店の中で騒ぐのも何なので、集合場所に向けて歩き出した。


「それで?お前らって俺がいなくなったのって気づいたの?」


 第1ゲームで抜けた身からすれば、その後どうなったのかがずっと気になっていた。


「あーー俺それマジびっくりしたんすよ!!だって急に五色さん達いなくなるんですもん!!それでそのまま第2ゲームが始まっちゃって、何がおきたかさっぱりだったすわ。まぁ結局なんやかんやあって、合格までこぎつけたんすけどね」


「へーー苦労してたんだな」


 とりあえず喜早達が受かってくれて良かった。俺と五色だけ受かってたら、気まずくてしょうがなかったからな。


「それにしてもこんなおかしな入学式初めてっすわ、まさか自分たちの敷地内で行わないなんて」


 喜早がそうつぶやきながら、さっきコンビニで買ったおにぎりを大きく頬張っている。

 余程お腹が空いてたんだろうなという気持ちと同時に、喜早が言ったことに深く同意した。


「それな!!俺も思ったんだけどやっぱおかしいよな、学園っていうくらいだから体育館くらいあってもいいと思うんだけどな……」


 そりゃあ体育館がないから借りて行うんだろうけど、体育館が無いっていう学園とか聞いたこと無いからなぁ……


「あ、多分目的地見えてきたよ。ほらあれ」


 春川が目の前にある大きな体育館、いやアリーナといったほうがいいかもしれない。それくらい大きな建物を指差していた。


「でけぇ……こんなとこでやんのか?にしてもでかいな……」


 まるでこんなかでオリンピックが開催されてても、おかしくないくらいには大きい。


「まぁ入ってみれば分かるんじゃねーか?ほらあそこに人がいっぱい集まってるぜ?」


「あぁほんとだ、なにか配ってるってるみたいだな?」


「何だろうあれ?腕輪みたいなもんかな?」


 春川がそう言った。確かにそう見えなくもない。


「とりま行ってみるか……」


 俺等はとりあえず受付口まで行き、名前やらなにやらを入力する。


「鰯田志向様、待っていました。それではこちらをお付けください」


 受付の人から渡されたのは腕輪というよりかは、スマートウォッチに近いものだった。

 だがそこまで違和感があるとは感じられず、むしろ全くと言っていいほど腕に馴染んでいる。


「これ何だ?電源とかはいんねーのか?」


 喜早がスマートウォッチを触りまくる。


「バキッ!!」


 だが力が入りすぎて壊しそうなのでとりあえずやめさせた。

 俺等は案内された通りにアリーナの中に入る。


「おおっ。思ってたより人多いな?」


 アリーナに入った瞬間に、中の人達の視線が一気に集まってくる。ぐおぉ苦しい。


「ああーー、マイクテスト、マイクテスト。えーー予定時間になったんで、これから入学式を始めたいと思います」


 スピーカーから機械を通して男の声が聞こえる。

 声質からして若い男のようだ。


「それでは最初に睡眠ガスの放出でーす」


 その言葉は入学式にはあってはならない言葉だった。

 当然アリーナの中にいる新入生たちは――


「「「は?」」」


 という声を同時に上げた。もちろん俺も。

「プシューーーーーー」という音とともに、新入生たちの横から何かが吹き出し始める。


「うわっ何だ!!」 「何よこれ!!」 「聞いてない!!」


 吹き出し始めてから、アリーナ内が阿鼻叫喚に巻き込まれるまで1分もかからなかった。


「ちょ、シャレになんね……」


 とりあえず煙の無いほう、出口へと走るがまぁ思ってた通りがっちり固定されていた。


「やっぱだめか……」


 あ……これだめなやつ……

 たった煙を一吸いしただけで、俺は意識をごっそり持ってかれてしまった。

 身体の力が全く入らなくなる。


「く……そ……が」


 ”ドサッ”という音とともに自分の身体が倒れる音がした。

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