1ゲーム目の終了2
俺を見つけてそいつは一目散に俺の方に走ってきた。
そして目の前で急停止した。
「よかった〜〜僕だけだったらどうしようかと思ったよ。それにしてもこれなんなんだろうね?さっきから何故か人が全く増えないんだよね。なにか知ってる?」
怒涛の言葉に気圧されながらも、何も知らないと横に首振った。
そんな反応から察したのか、五色も質問攻めがなくなった。
その時だった。
――突然モニターに謎の音が現れた。そこには真っ暗な背景に気だるそうに座っている男がいた。
「はいはい〜〜第1ゲーム終了お疲れ様〜〜君たちはこの度心力学園への入学が認められました、いぇーーーい」
そいつは気だるそうな声で言った。
その言葉に冷静さが失われていくのは、そこまで時間がかからなかった。
は?今なんて言った?俺等は合格だって?何いってんだこいつ……まだ試験は3日あるんじゃなかったのか?
「一体どういうことだ……?」
他の合格者たちも段々と状況を理解し始めたらしく、周りがざわざわし始めてやがる……
なんなら俺もまだ状況を完全に理解できてない。急に合格とか言われたら誰でも困惑するだろう。
「あ〜〜困惑してる人もいるだろうから、あとは僕の上司が言ってくれるんでそれを聞いて下さい」
そう言ってフェードアウトしていく男が、画面外で誰かに止められる。
「え?帰っちゃったの?は〜〜マジで?あの人ホント勝手だな……しょうがない。上司の失態は部下が片付けないとな……」
男が紙を取り出す。おそらくカンペのようなものだろう。
「え〜〜と合格者の皆さん、これからあなた達は一度現実世界に戻っていただきます」
帰れる……のか?別に帰れるならそれに越したことはないけど。
「ただし条件として――」
声のトーンが1段階低くなる。
「ここで起こったことは一切喋らないようにしていただけますか?僕、これでバレたらクビなんすよね……」
「なので喋れないように現実に戻る過程で催眠させてもらうっすね。ここの記憶は消えないけど喋れない……みたいな感じになるやつっす」
「まぁみなさんがどう言おうと決定権は僕にあるんで、帰れないんすけどね」
じゃあ聞くんじゃねーよ……別にどっちでもいいんだけどさ……
だがそんな冷静な俺とは裏腹に、周りの受験生たちからは困惑と不安の声が上がっていた。
まぁ急にそんなことを言われたって、普通は困惑の声を上げるんだろう。
「まぁ詳しいことは後日資料遅らせてもらうんで、よろしくお願いしま〜〜す」
「ほんじゃあ、そういうことなんであざした」
そんな無責任な言葉と同時に、モニターが消え俺達は情報の中に取り残される。
「情報量多すぎ……処理できないって……」
隣で五色が困惑した声で言った。
まぁ俺もおんなじで3割くらいしか理解できてないんだけど……
「まぁでも俺等は合格ってことでいいんだよな?まだ1ゲームしかやってないけど、あいつが合格って言ったんだし」
何で1ゲーム目で終わったのかはよくわかんないけど……まぁあいつが言ったからには、何かしらの理由があったんだろう。
それに加えて強制的にログアウトとはな、この試験前も思ったけどこの学園の試験管達、絶対にバカにしてやがるな……
「それで?合格をもらったわけだけど、こんなよく分からない危険な学園に鰯田くんは入学するの?」
興味津々な顔つきで五色が聞いてくる。
「そりゃあ、せっかく受かったんだし……」
言葉が出てこなかった。
恐怖心はないのかと聞かれればそれは嘘になると思う。だって急にネットにも情報がない怪しげな学園の試験を、受けさせられて合格と言われて、警戒しないほうがおかしいだろ。
今だって、この場からさっさと抜け出したいとまで思ってる自分がいる。
そう考えているときだった。
「僕はいくよ。こんな面白そうなチャンス投げ出すほうがおかしいでしょ」
自信満々な声で五色は言った。その声の中に、迷いは見当たらなく、面白そうというそんな感情だけが詰まっているかのように思えた。
「それにさ本当は鰯田くんだって心のどっかでこう思ってるんじゃないの?――」
五色の指が俺の胸を指す。
「こんな面白そうなチャンス逃したくないってさ。少しでもそう思ってるなら、逃さないほうがいいんじゃないの?」
その言葉は五色の指のように、深く俺の心を突き刺した。
面白そうだって?こんな得体のしれない学園の試験を受けただけで?
「一体どこをどう見たらそんなふうに見えるんだよ……」
自分の思いを否定するためだけに五色に質問する。
「いやだって楽しそうだったよ?ショッピングモールでやり合ったときも、宗田くんと戦ってたときもね」
「それにさ、こんな面白そうな試験他にある?無いでしょ!!イカれてるとしか思えないよね!!受験生たちを戦わせるなんてさ!!でも僕はこの学園を気に入ったよ。こんな試験をするってことはさ、学園内も当然すごいんだろうな〜〜、あ〜〜楽しみすぎて今日寝れるかわかんないや」
イカれてると思った。こんな怪しげな学園に、そんな面白そうという感情で入学するのを。
俺は普通で平凡な暮らしをすればそれでいい。こんな出来事はいらない。
欲を出せば人間の悪意に絶対触れる……それだけはもう味わいたくない。
だがそんな考えを打ち砕くように五色は言った。
「いいの?こんな楽しそうなチャンスは他にないんじゃないの?それともまた何の刺激もない、普通で平凡な日常に戻るつもり?」
また俺の心に深く刺さる。
だけど俺はそんな五色の言葉を聞いて、こう思ってしまった。
――羨ましい、この試験は楽しかったと。
多分心のどこかではずっとそういう感情があった。だけど俺はそれを正常じゃないと勝手に判断して、勝手に排除してた……
でも普通が一番に決まってる、それが1番安全な方法だって分かってる。
「どうする?僕と一緒にこの学園に入って刺激のある日々を送るか、それとも平凡な毎日をこれからもずっと送り続けるか、どっちがいいの?」
五色が手を前に差し出してくる。
普通が安全、そんなの分かってる、分かってるけど……
――そんなに言われたら……やってみたくなっちまうじゃねーか。
俺は五色の手を獰猛に掴みこう言った。
「分かった。やってやるよ、入ってやるよ。もう普通にこだわってた小市民の俺とはおさらばしてやる」
その言葉を聞いてニマっと五色は笑った。
「契約成立だね。これで僕と君は同じ思想を持つ同士だ、仲良くしようね」
グッと手が強く握られる。
それと同時に手がキラキラと粒子状になっていく。
「どうやら時間切れみたいだね……また学園で会おう」
そう言い残し、全身が粒子状になって五色は消えていく。
俺も動揺に目の前が真っ白に染まっていった。
次に目を覚ましたのは、俺が仮想空間に入っていったときにいた部屋だった。
「どうやら戻ってきたみたいだな」
何から考えればいいのか分からず、ただそれだけを呟いた。
だが何にも分からず何をすればいいのかわからない俺にも、一つのやるべきことが決まっていた。
それはこの学園に入り刺激的な毎日を過ごすこと、もう普通でいるのは辞める。これからは自分の脳みそに、忘れられない毎日のことが積み重なっていくようなそんな未来を過ごしてやる、と。
「待ってろよ、新緑学園。新しい俺で挑んでやるからよ!!」
このとき俺はまだ知らなかった。この学園に入ったことで俺が様々な刺激的で平凡な毎日では味わえないような、いろんな出来事に巻き込まれていくことを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます