第12話 かんらんしゃ

 日は傾き、時刻はもう十七時を過ぎようとしていた。

「ラモッグ見つからなかったね」

「そうね」

 蜘蛛の怪人を倒した後、二人はやはりラモッグを探してはいたが、そんなに簡単に見つからなかった。

「じゃあ僕帰るよ」

「あ、藤堂くん」

 藤堂が振り返ると、兎塚さんから出た言葉は意外なものだった。

「ちょっとさ、お礼がしたいんだけど」

 兎塚さんは「ついてきてくれる?」なんて藤堂を呼び止めたのだった。

「ちょ、ちょっと兎塚さん!」

『ホテルかな?』

「バカ、グラムお前!」

 ゲロゲロ笑いつつも、グラムは兎塚さんについていくよう促す。

 藤堂は兎塚さんについていき、駅ビルの最上階にある、屋上庭園に出た。昨今では珍しい、小さいながらも動く観覧車がそこにはあった。

「今日付き合ってくれたご褒美に、この兎塚美奈さんと観覧車に乗る権利をあげようというスンポーよ」

「あ、う、うん」

 藤堂は観覧車の乗車料を二人分払い、観覧車に乗車する。

「あれ? あっれー?」

 何か小さな疑問にぶち当たる藤堂を尻目に、ニコニコ笑顔の兎塚さんだった。

「いいのいいの細かいことは」

 そんな風に嗜める兎塚さんだったが、一方でグラムはゲロゲロ大笑いだった。エキャモラはというと景色を楽しんでいた。

『キレイねえ……』

「こういう場合さ」

 エキャモラと共に景色を眺めていた兎塚さんは、フッと声を発した藤堂を見る。

「こういう場合さ、多分何か話したほうがいいんだろうけど。ゴメン、僕は何も思い浮かばないんだ」

「いいんじゃない? 仕方ないこともあるわよ」

「まあでも、今日は楽しかったよ兎塚さん」

 兎塚さんはちょっと満足げだった。

「演芸番組よりもドキドキできたでしょ?」

「うん。グラムも「楽しかった」って言っているよ」

 二人が笑顔を見せあったところで観覧車は一周回り終わった。

 観覧車のドアが開く。

「はーい終点でーす。ご乗車ありがとーございまーす」

 二週目に突入する前に二人は観覧車を降りる。

「へえ、ヤルじゃん。このあとはホテルにでも連れ込むのかな?」

 スッとカードを裏返したように表情を変え、嫌な顔をした兎塚さんにも気を取られた。それより心の中にいるグラムの様子が変だった。震えている……のか?

「グラム?」

「エキャモラ?」

 兎塚さんの様子を見ると、エキャモラも同様のようだった。

「やっぱアンタらが……いいね。引き裂きがいがある」

「何だよテメエ!」

 兎塚さんは口汚い感じで「しゃしゃり出てくるんじゃねえよ」なんて黒コートのフードを目深に被ったヤツを威嚇する。通り過ぎようとし、最接近したところで一言発した。

「ラモッグ……」

 藤堂も兎塚さんも驚きソイツをじっと見る。

「アンタがラモッグのなの?」

「いや? オレは……」

 ソイツは拳を振り上げた。

 兎塚さんはそれに対する反応が一瞬遅れる。

 ソイツの拳は紫炎に包まれていた。

 兎塚さんが「やられる!」そう思った瞬間、割って入ったのは、仮面戦士ラスターだった。

 ラスターは両手で拳をガードする。だが、

「なんて、重い拳……うわああ!」

 ラスターは兎塚さんを巻き添えに吹き飛ばされた。

「ピジョン……ピジョン・ド・サブレだ」

 ピジョンを名乗るソイツはラスターへと徐々に近づいてくる。

「素手相手に申し訳ないが……」

 ラスターは腰の剣を抜く。

 気合いと共にラスターはピジョンに連続攻撃を仕掛ける。

 剣を連打! 連打! 連打! 剣線の数は牛頭の怪人を倒した時と同様に十七。だが、そのことごとくが紫炎燃える拳で受け止められた。

「その程度か」

 ピジョンはラスターが十七連撃放ったスキを突き、紫炎燃える拳をラスターめがけ放つ! それを逸らしたのは仮面戦士クネスだった。

「すまん、忘れてた。ツガイだったな」

「ツガイじゃない!」

 ピジョンの腕先を殴り、方向を変えたのだった。

「ありがとう」

「そんなことより、ピジョンって、例のピジョン?」

 ソレに対して、エキャモラもグラムも話さない。

「そうみたいだね」

 再び剣をかまえる仮面戦士ラスターだったが、何か妙な心持ちになってきた。何かが叫ぶのだ。「コイツとは戦うな!」と。

「グラム? 違うか……」

「さぁて、そろそろトドメを刺すかな」

 ピジョンはゆっくりと、二人に向かって歩き始める。

「おい」

 ピジョンを呼び止めたのは、数日前公園のベンチに座っていたいい男だった。

 男はおもむろにピジョンの顔面をなぐる。

「俺の後輩たちに、嬉しいことしてくれてるじゃないの」

 ピジョンはふらつくも、なんとか踏みとどまる。

「テメエ! 何者だ!」

「通りすがりの、たい焼き屋さん……ではないな」

「そうか、お前が三人目の……お揃いということか……」

 ピジョンは口もとを拭う。

「冷めた。今日はこの辺にしてやる」

 そういうと、突然姿を消した。何をどうやったらあのように急に姿を消せるのだろうか?

「何なのよ! もう……」

 元の姿に戻った兎塚さんは、そんなことをつぶやく。

 藤堂も元の姿に戻ったが、さっきの感覚が忘れられずに止まった観覧車の向こうを、じっと見上げるのだった。

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