第11話 マクナドルドの死闘
オナルドの口から出てきた黒いモノは、地面に落ちた。
オナルドは崩れるように倒れ、黒いモノ、蜘蛛のようなそれはゆっくりと立ち上がった。
「ふい〜、シャバの空気はうめえぜ……。お! ガキだ。たくさんいるなあ……どれ、ひとつくらい食ってみるか」
立ち上がった蜘蛛の怪人は、恐れおののいている子どもを文字通り食そうと手を伸ばす。
そこに飛び込んできたのは、藤堂の全力キックだった。
「ウボァッ!」
蜘蛛の怪人は藤堂の攻撃で体勢を崩し、むんずと掴んでいた子どもを手放す。
戸惑っていた人々だが、藤堂の「逃げろ!」の声で逃げ始めた。兎塚さんは店員とともにお客に非難の指示をしている。
「テメエ……何してくれてんだ!」
藤堂はポーズをキメて叫んだ。
「メドア!」
藤堂がベルトのバックルを中心に光輝く! 光が収まると変身が完了していた。
「仮面戦士! ラスター!」
カッコいい感じのポーズをキメ、ラスターは剣を抜く。
「ああ、アンタがあの……じゃあ食ってもいいんだ……」
黄色い牙を剥き出しに、蜘蛛の怪人はラスターに飛びかかってくる!
「フッシャーッ! 喉笛掻っ切って、その溢れる血を飲んでやる!」
ラスターはそんな蜘蛛の怪人の顔にカウンター気味のハイキックをいれる。
「フゲッ」
蜘蛛の怪人は、店内の植え込みに突っ込んでいった。
この程度なら勝てる! そうラスターは確信した。
「なにが来ようと、勝てる!」
「じゃあよ、こうしたらどうなる?」
立ち上がった蜘蛛の怪人が取り出したのは糸でぐるぐる巻きにされた何かだった。
「さあどうするよ? 剣士」
それは小学生の子ども一人分程度の大きさ。もし、もしもだ。逃げ遅れていた子どもが植え込みの向こうにいた、そうだったとしら?
「なかなか、卑怯な手を使うじゃないか」
蜘蛛の怪人は「卑怯?」という言葉に反応しつつ頭をかく。
「頭脳プレイと言ってくれよ。なあ、オイ!」
蜘蛛の怪人は繭を片手に持ちながら、どんどんラスターへとにじり寄ってくる。
「ほら、手ェ出してみろよコラァ!」
空いた手で蜘蛛の怪人は一発、また一発とラスターを殴る。
「ヘッ、テメエなんざこのオレ様の敵じゃねえんだよ!」
そして蜘蛛の怪人は、ラスターに噛み付くことで毒針を突き立てた。
「お前の命はあと五分……ってな」
下卑た笑いを蜘蛛の怪人はあげる。
「グッ……」
痛みにラスターは思わず膝をつく。剣を持つ手を噛まれたが、なんとか武器は落とさずに済んでいた。だがピンチには変わりなかった。
「ヘッヘッヘ、いい眺めだゼ……」
大笑いの蜘蛛の怪人は繭玉を地面に叩きつけ割った。
繭玉の中はナニも入っていない。「子どもが入っている」というのはフェイクだった。
「こんなモンに騙されるとはなあ!」
蜘蛛の怪人は「楽勝すぎるぜ!」と、ラスターを蹴り飛ばす。
「ヒヘェヘェ、あばよ剣士。死んで地獄へ行け!」
蜘蛛の怪人はラスターにトドメを刺そうと、手刀を繰り出す!
「……!」
ラスターの体が緑に輝いたかと思うと、次の瞬間にラスターはその場から飛び退いた。
「なっ!」
思わず蜘蛛の怪人は驚く。先ほどラスターに打ったのは致死の毒。もう意識は朦朧として、動くことは不可能なハズ!
「テメエ……なんで動ける!」
「解毒魔法『キュアポイズン』を使った」
それは兎塚さんがこの間藤堂に使ってくれた魔法だった。
ラスターは剣を振り、力が戻ったことを確認する。
「……ヘッ……その程度できたところで、オレには絶対にッ! 絶対、絶対勝てねえ!」
蜘蛛の怪人は手刀に毒液を吐きかける。
「毒手か。古風な戦い方を……。だが!卑怯な手を使うキサマは必ず倒す!」
ラスターは剣をかまえる。蜘蛛の怪人は既にラスター向け飛びかかっている! ラスターはかまえた剣に自らのエネルギーを注入する。輝くラスターの剣「閃光剣グランスカリバーン」をラスターは振る!
毒手とラスターの剣が交わった!
店内は輝きに満ちる。
「ヘッ。こんなヤツに!」
蜘蛛の怪人はラスターが振り返る前に、胸から頭にかけてを両断されていた。
「ふう……」
息を吐いたラスターは、剣を一振りしたあと鞘に収め、変身を解いた。
『希望、大丈夫かい?』
「なんとかね」
すると背後から声が聞こえた。
「肉だー!」
見ればマクナドルドの店員が、蜘蛛の怪人の死肉を見つけ喜んでいた。使っている肉牛ではなく、ミミズだのネズミだの色々な説があったが、これからしばらくは蜘蛛の怪人肉になりそうだった。
「よう、虫!」
遂に虫呼ばわりを隠さなくなった兎塚さんに「やあ」と返事をする。
「もう、わたしの分取っておいてくれればよかったのに」
「せ、先手必勝ってね」
その言葉を聞いて、兎塚さんは大きく笑った。
「まあいいわ」
すると、腰の低そうな店員が、二人の前に現れた。
「キミだね? あの怪人を肉塊にしてくれたのは」
「はあ、まあ」
「ありがとね。コレはお礼だよ」
腰の低そうな店員は、お礼としてマクナドルドで使えるクーポン券を一枚ずつ二人に渡したのだった。
「……」
『希望?』
「虫?」
『どうしたの?』
店員は「さあ受け取ってくれ」と、クーポン券をねじり込んでくる。
だが、藤堂は言った。
「そんなモノのために助けたんじゃない」
心底不機嫌な顔で立ち去る藤堂を、兎塚さんは追いかける。
「ちょっと、む……藤堂君!」
藤堂は立ち止まり、兎塚さんにも静止するよう手を出す。そして大きく深呼吸。吸って吐いてまた吸って。
「はあ、なんとか戻ったよ」
藤堂は「ティェヒヒ」なんて笑って、一見いつも通りに見えた。
「何よ? どうしたのよ? お礼が気に入らなかったの?」
藤堂は首肯する。
「多分だけどね」
『美奈』
兎塚さんにエキャモラが『あのね』と話しかける。
『あの子グラムそっくりなのね』
「どういうこと?」
肯定するエキャモラは続ける。
『グラム欲しいのはモノじゃなくて人々の笑顔なのよ』
兎塚さんの前を、笑いながら歩く藤堂を見てなんかちょっとだけ見直したのだった。
「やるじゃん」
そして、兎塚さんは、藤堂に追いつくと歩調を合わせて歩き始めたのだった。
そんな二人の様子を見ていた者たちがいたのを、当の本人たちは全く気づいていなかったのだった。
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