第10話 It’s show time!
探すといっても心当たりなぞなく、やはり欲しいのはヒントだった。
「やっぱモグラらしく、土の中とかに居るのかな?」
『土の中には居ないと思うぞ? ラモッグは明るいところが好きだったからなあ』
「何ブツくさ言ってんのよ?」
「グラムが言ってるんだけど、ラモッグはモグラでも明るい所が好きなんだって」
「エキャモラ、そうなの? ふーん変わったモグラねえ」
腕を組んでうんうんうなってる兎塚さんもチャーミーだった。
「あとさ、ラモッグはメカに目がないから、ホームセンター辺りにいるかもねってさ」
というヒントが出た所でお昼、昼食時となった。
「お腹すいたね。なんか食べない?」
兎塚さんはそんな提案をしてきた。藤堂がその提案をはねつけるわけもなく、メシを食うと言うことでは一致した。
問題は「何を食べるか?」だった。米、麺、パン、主食が決まっても和洋中どれにするか?。選択肢は無限にある。予算さえあればだが……。
散々迷った挙句、二人は、座れる立ち食いそば屋の「武士そば」か、ファストフードショップの代名詞である「マクナドルド」にしようというところまで来た。
「そばかあ、いいね」
「でもさ、ゆっくりできそうにないからマクナドルドにしない?」
兎塚さん案を採択し、食べ終わってもゆっくりできそうな「マクナドルド」へ行くこととした二人は、駅前広場を突っ切り、ガード下をくぐってその先にある、小広場の向こうにデンとかまえているマクナドルドへと辿り着いたのだった。
店の中に入り、とりあえず注文をするためカウンターに向かう。
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりでしょうか?」
店員のお姉さんは、嵐のような忙しさの中でも営業スマイルを忘れない。流石に訓練されたアルバイトだ、スキなどなかった。一分たりともッ! そしてメニュー表を見て、藤堂はてりやきバーガーのセットを、兎塚さんはダブルチーズバーガーのセットを注文した。
「お値段千三百二十四円になります」
「だって」
ニコニコしながら兎塚さんは藤堂を前に出す。
「あ、そうか」
そして藤堂はお金を払う。その時、奇妙な違和感を感じた。だがゲロゲロ笑ってるグラムのおかげでわからなくなった。
「あっれー? なんだろ? あっれー?」
「ホラ、向こうの席が空いてるよ!」
兎塚さんに手を引かれ、トレーを持った藤堂は席に座らさせられる。よくわからないけど、兎塚さんはダブルチーズバーガーにかぶりついている。なんか、イマイチ納得できないまま、藤堂もてりやきバーガーにかぶりついた。
あまじょっぱいソースが口いっぱいひろがって、うすっぺたでペラペラなビーフパティでも満足感を与えてくれる。多めにかかっているマヨネーズも、胃もたれしそうなほど美味しい。
セットになっているポテトも、塩味が濃くかつ油っこい。中々に高得点だ。
『ジャンクフードって言ったらこう来ないとね!』
グラムの言葉に、藤堂は素直に同意し、ペロっとてりやきバーガーを食べ終えた。
と、言っている間に、兎塚さんもダブルチーズバーガーを食べ終わっていた。
「この胃もたれする感じがなんともね」
同じようなことを考えていたらしい。やはり住宅ローンを組むしかなかった。
「ラモッグ見つからないね」
兎塚さんはポテトを頬張りながらそんなことを言う。可愛らしい。今日はまだ三十分程度しか探していない。別名、「割とすぐにマクナドルドへ入った」だった。なのにそこら中を探し回った顔をしている。そんな兎塚さんが果てしなく愛おしい。そんな気が藤堂はした。
二人はその後しばらく、しょっぱいポテトをアテに、薄いコーラを飲んでだべっていた。
内容は特にはない。担任への軽いからかいのような話から、ゴールデンウィークの予定など様々だった。
もっぱら話すのは兎塚さんで、藤堂は聞き手役だった。だが、それが本来あるべき姿な気もした。話す割合として、女性七割男性二割沈黙一割、そんな感じだろうか? ただし、
「だからオレは言ったのさ。お前のワイフならオレの隣で寝ているぞ? ってな」
的な唐突なメリケンジョークや、自分よがりの妄言は嫌われるパターンだから要チェックだ!
「ねえ聞いている?」
「あ、ごめんごめん。カリン塔で仙豆を食べたヤジロベエの話だっけ?」
「違うっぽい感じねえ」
ちなみに直前、兎塚さんが話していたのは、「この後駅ビルの上にある屋上庭園に行かない?」だった。一つもあってないので、藤堂は減点一だった。
「まあいいよ、虫……じゃない、藤堂君さ」
「今また「虫」って呼ぼうとしなかった?」
笑顔を浮かべ、力技で誤魔化そうとする兎塚さんだったが、可愛らしさの方が勝っていたのでまあヨシッ! とした。
と、店内に音楽が流れ始める。そして店内放送は「この後、みんなのオナルドがやってくるよ!」と、期待を煽る宣伝を始めた。それはこの店内で「オナルドのショー」が始まると言うことだった。
『希望!』
「ああ、わかっている!」
コイツは最前列でとくと拝見する価値があった。何せ「オナルドのショー」だ。どんな大惨事になるかわかったもんじゃない。ある時は「それ」と呼ばれ恐怖の象徴とされた。ある時はヤクの密売人だったという都市伝説がある。
「オナさん」という愛称で呼ばれている、子どもが大好き(意味深)な、アフロが印象的なピエロのショーだった。見ないわけにはいかなかった。
だが、今は行けないかもしれない。
「?」
と、訳のわからないといった顔をしている兎塚さんを放っておくワケにはいかなかった。「オナルド」と「兎塚さん」天秤にかけるも、どちらも取りたかった。
「どうしたの? さっきのバーガーに寄生虫でもいた?」
心配してくれる兎塚さんは、勘違いしそうに優しかった。
「腹パンで治してあげようか?」
兎塚さんのことだから、全力でおなかにパンチしてくれるだろう。それはある種ご褒美だった。が、多分ミッピーマウスと同じ運命を辿ることになるだろう。
「やだ、ジョーダンよ」
ケラケラ笑う兎塚さんも可愛らしい。可愛らしいから「まあいいか」となってしまう。
天秤は兎塚さんの方へ傾きそうだった。
『マジック使うかな?』
その、グラムの言葉に体中の毛が逆立った。「オナルドマジック」といえば、オナルドの使う魔法。見たい! この目で、しかと!
「でさ、あ、ピエロだ」
登場してきたらしい。藤堂のソワソワは、限界を迎えようとしていた。
でも、今はオナルドより兎塚さんだ。ベスト・オブ・ベスト・オブ・ザ・イヤー・インザスプリングなのは、「兎塚さんとオナルドショーを見る」だが、なかなかそうもいかないだろう。多分兎塚さんはオナルド興味無いだろうし。
「え? ナニ? ふんふん……」
エキャモラと何か話してるようだった。
「わかった、わかったから落ち着いて。ゴメンね虫。エキャモラがあのピエロ見たいんだって」
藤堂は「ほほう」なんて言いつつも、心の中で大きくガッツポーズし、「ナイス! エキャモラ・ザ・プリティラビットオオオ!」なんて心の中で叫んでた。声援まで飛んでいた。完全に「虫」呼ばわりだったことには気づきもしてなかったが。
悲鳴が聞こえてきた。その方向を見ると、オナルドが苦しそうにしていた。
やはりヤツか! そう思いつつも、藤堂は異変に気づく。
オナルドの口から何か別の生き物が出てこようとしていた。それはマジックではない。
藤堂はすぐに走り出した。
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