Episode22 全員集合?!





 先程と同じようにノイズが走り、ノアにENABMDイネーブミッドのリンクが強制移譲される。

 安全確認のために鈴菜の本体周りをサーチした。ノアが珍しく驚きの声を上げる。


「鈴菜の部屋って意外?」


 鈴菜がノアを拝み倒す。顔色も悪い。


「ノア君だっけ? 内密にお願い。子供の頃からいつも叱られてたの」

「まぁ、うん、そう、うん……」



 ≪神龍族 医術師スズナ。レベル8 FP110 MP100≫



 鈴菜は基地ベースからの帰り道で、後ろから追いかけて来た陽翔はるとENABMDイネーブミッドを渡された。





 説明されたようにフルダイブした後に、青い髪の賢者だと名乗る少年に、ゲームを攻略すると母親と話ができると言われたのだ。ランタンも母親と逢うためのアイテムだと言って渡されている。

 

 しかし、その賢者が消えた途端、ワニ男の群れにターゲットされ、逃げる羽目になったということだ。


「うーん、鈴ちゃんは赤い髪と赤い目をしているからこの国の人だと思う。まだ何もわからないし、聞き込み調査から開始だね!」


 陽翔はるとの掛け声と共に、街の聞き込み調査に入る。

 すると、この国の女王が行方不明ゆくえふめいであり、噂によると『氷の塔』に閉じ込められているということだ。

 また、ワニ男をはじめとするモンスターのボスも同時に行方不明ゆくえふめいであった。




 全くの別人が、同じ特別製のランタンではないと復活しない。

 従って、魔物とのランタン争奪戦を繰り広げろという事だ。


「鈴菜。王女様じゃん。とりあえず城に行ってみよーぜ」




 そんな樹希いつきの軽い一言でお城に行ってみれば、そこは魔物の巣窟そうくつになっていた。


 こんな大変なことになっているのに、丘の麓の広場ではお祭りとは奇妙なものだ。

 城が魔物に制圧されていることは伝わっていないらしい。


 城から逃げ出してきた侍女に途中で出会い、必死に助けを求められた。

 女王の間に陣取った魔物が先に『氷の塔』の移動用途のポートを手に入れてしまうとゲームオーバーになる。一刻の猶予も無い。






 玉座の間へ続く歩廊には、小隊程度のワニ男の軍勢が待ち受けていた。


 真っ先に樹希いつきが正面に飛び出し、敵に向かって槍をぐるりと回転させる。

 樹希いつきの槍攻撃は効果絶大で、一度に複数の敵を薙ぎ倒す。


 それも当然のことだ。

 シアンは次のストーリーの鍵として樹希いつきの出番を考えていた。レベルが高めに設定されているのだ。


 続いて、雫月しずくが湾刀『極光きょっこう』を抜く。


「漁火光柱(いさりびこうちゅう」


 刀の軌道にオーロラがけむり、光の尾を引いた。

 正眼に構えてから刀を振り駆け抜けると軌道の敵がすべて殲滅される。


 この二人をパーティに加えるだけで格段に火力が上がった。


 ノアは遠隔魔法で敵を倒し、陽翔はるとは状況を見ながら回復薬剤や補助魔法を使う。聖獣ラビィは、ランダムにいばらの障壁や回復魔法を放ちパーティを守護した。


 ワニ男の群れを一掃した後、ココア遠吠えが響き渡る。

 索敵スキルの発動だった。

 盤上には敵の姿が見えない。隠れた敵がいる証拠だ。


 メンバーは辺りを注意深く見渡す。

 陽翔はるとは鑑定スキルを発動した。

 柱の陰に魔物の影。

 悪魔のようなツノを持った真っ黒なモンスターだった。


 気付くのがわずかに遅く間に合わない。

 モンスターの長い詠唱付きの宣言は、難易度の高い魔法の証である。

 樹希いつきが走るが、魔法陣が発動するほうが一歩早かった。


 不吉で真っ黒な魔法陣が浮かび、醜い亡霊の影が放たれる。

 どすぐろい渦のような気配が樹希いつきに降りかかった。


「あぶない! 豪炎ごうえん-防」


 鈴菜が左手を上げると炎の盾のような防壁が樹希いつきを包み込む。

 死を放つ呪いの亡霊は野太い悲鳴を上げて、浄化のほのおで焼き尽くされた。

 さらに続けて、鈴菜は魔法を宣言した。


紅炎こうえん-浄化」


 大きな魔法陣から紅色の炎が湧き上がり、一面の邪気を焼き尽くす。

 悪魔のようなモンスターが燃え上がった。


 陽翔はるとは鈴菜を鑑定する。

 鈴菜は上位魔法を取得すれば、蘇生ができるほどの能力を持ったヒーラーだった。

 まだまだレベルが低いが育てがいのあるキャラクターである。


「鈴ちゃん、パーティに参加して、ヒーラー頼める?」

「うん、ゲームには慣れてないけど、やってみる」

「鈴菜、サンキュー。ぶっつけ本番で悪いけど、頼むよ。ほら、またうじゃうじゃ来た。やばくねえ」



 鈴菜をヒーラーに置き、自らをサポーターに配置変更する。

 この配置変更により陽翔はるとは軍師に専念できた。

 だが、レベル補正が入ったのか敵の数が多くなり、次々モンスターも湧いてくる。


 悪魔のツノのあるモンスターはデスデビルと鑑定された。

 一撃必殺の『死の呪い』が最大の攻撃であり、いくら火力のあるパーティでもこの呪いを前にするとあっさりと倒されてしまう。


 また、攻撃系のキャラクターは呪いの耐性が低く、鈴菜のような浄化魔法に特化したキャラが居ないと突破するのは困難だった。


雲龍うんりゅう−付与」

煙雲えんうん剥奪はくだつ


 陽翔はるとは仲間全員に魔法を弾く防壁のバフを付与する。また、デスデビルには魔法の的中精度が下がるようなデバフを付与した。





 今まで自信を持てなかった自分を変えられるような気がした。 

 軍師として采配に手応えを感じる。ぼんやりとしていた己の姿が、明瞭になっていく予感に胸が沸き立つ。


 一行は回廊を進み角を曲がる。そこはこのダンジョンの最深部だった。

 高い天井の回廊にそびえるような赭土色あかつちいろの扉が、陽翔はると達の行く手を遮っている。


 扉の前に障壁を張り一時避難した。

 この城に住んでいたという設定になっている鈴菜は、間取りを知っていたので地図で共有する。


 鈴菜の回復呪文でFT・MTをMaxにしてから戦闘準備し扉を開けた。

 作り物とは思えないような臨場感で、いかめしい音をたてながら扉が開け放たれる。






 一番初めに陽翔はるとが前に出て部屋全体を鑑定した。


 部屋の見取り図がパーティ全員に目の前に展開される。

 青い点でアイテム、赤い点で敵の位置が表示されていた。




 デスデビルの群れは姿が見えないように物陰に隠れ、ワニヘッドの群れは玉座の前に所狭とろこせましとと配置されている。


 ボスらしき赤黒い髪の女が玉座に座っていた。


 その左右には黒い炎と赤い炎が燃え盛り、精霊の卵が玉座の奥に祀られるように鎮座している。




 弾かれたように樹希いつきとココアが前線に飛び出した。



 ココアは威嚇スキルを発動すると先制攻撃のチャンスがやってくる。

 不穏な空気を煽るような戦闘開始の音楽が聞こえてきた。


 樹希いつきは槍攻撃の大技を放つ。


颶風牙ぐふうが


 嵐のように風を巻き込み槍が弧を描く。

 直撃を受けたワニヘッドが幾重にも切り裂かれた。


 戦闘態勢に入った敵の陣営が、タンク樹希いつきをターゲットする。

 陽翔はるとはデスデビルの群れに効率よくデバフを付与した。

 鈴菜は祝福のバフをパーティ全員に付与し、ノアと雫月しずくも次々と敵を薙ぎ倒した。


 ココアは雫月しずくの盾となり敵を威嚇する。

 乱戦ではあったが、陽翔はるとの適切な戦略の元で、ワニヘッドとデスデビルの群れは一掃された。


 ドロップアイテムとして宝箱を開けると、短剣『暁紅ぎょうこう』が入っている。

 適合者の鈴菜が装備した。


 玉座に優雅に座るのはくれないの魔女。

 死神のような大きな鎌を掲げ、燃えるような髪を振り乱した敵軍の女王だった。


 美しいが禍々しい。

 狡猾こうかつに微笑みながら陽翔はるとに問う。


「ここに居るわたくしも鈴菜の母親の一面。火は燈火ともしび業火ごうかのどちらの性質もある。ハルトよ。母親は女でもある。残すのはどちらじゃ?」


 この魔女は恐らく倫理AIだ。

 陽翔はるとは玉座の前に進む。

 すると玉座の左右の炎が勢いを増し、陽翔はると以外の人物はシステム的な制御により沈黙した。


 黒と紅の炎が陽翔はるとの周りに燃え盛り閉鎖へいさ空間くうかんを創り出す。





 ---続く---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る