Episode21 陽と樹、月と鈴
広場ではランタンを手に持つ人がたくさんいる。
どのランタンにも小さな人間が宿り、楽しそうに会話をしていた。
そんな不思議な光景を見ていたら、不意に後ろから肩を叩かれた。
何事かと振り返ると、ここで逢えるとは予想もつかない人物が立っていた。
「いっくん!!」
「よっ、ハル」
大きな槍を背中に担ぎ、どこか東洋風の勇ましい武装姿の
≪槍使い イツキ。レベル8 FP190 MP0≫
「いっくん、なんで?」
「なんでって、ハルがゲーム用のヘッドセットをくれたから、イネーブルしたんだぞ。昔からゲーム好きだし、一緒に攻略しような」
「ヘッドセットを、僕が?」
―――――――周囲から音が消えた。
風景が一瞬揺らぎ、バグのようにノイズが走る。
ノアが頭を両手で
感情が抜け落ちた人形のような顔になる。
それは一瞬の出来事で、瞬く間には元のノアに戻っていた。
「
疑問が押し寄せてくるが、まだ打ち明けられないことのほうが多い。次の言葉をぐっとのみ込む。
いつもの
しかも、どこに居ても自分らしさは失わない。
見事なまでに自分を確立し、気遣いまで見せる
だが、そんな
昔から
集団の中の空気を読んで行動するのがとても苦手なのだ。
そんな生き難い
心地よい距離感がいつもあり、頼るだけでも頼られるだけでも無い関係。
兄妹のように育ってきた
それでもいい。
育ての親の林夫妻と
新たに接続された
「
何故、シアンは
疑問は尽きないが偽物という懸念は取り消された。
彼は
ノアは自分を納得させる。
「いっくん、こっちは魔導士のノアとソルジャーの
「えっと、はじめまして。内緒でこんな楽しい事してるなんて、ずるいな。全部、説明してもらうぞ」
「全部話す。僕を信じて」
一通り話し終えると、
シアンは目立ことも無く、普通に授業を受けているだけらしい。
「このゲーム、ぜってえ、攻略しねーとな」
だが、シアンと
そこで感じた疑問も心に隠す。
精巧なヒューマノイドの意味を理解している。
このヒューマノイドを造れる人物は日本で、否、世界で一人しか居ない。
もしもの事があった場合、
それぞれ別々の思考が巡る。お互いがお互いの事を気遣っていた。だが、それはすぐには相手に打ち明けられるものでもない。
広場の中心からお祝いの歌が聞こえてくる。
複数のランタンを囲み、温かい飲み物を片手に歌う人達。
屋台で買ったスイーツを頬張る人。
故人に逢えるお祭りは想像していたのよりずっと陽気なもののようだ。
「
「
「あそこには何もないから、ノアとブラウの部屋の中にオブジェクトのツリーを飾り付けたの。画面の中を見ているだけでワクワクしたわ」
「ノアは凝り性な感じする」
「ノアは建築物が大好きだから、何日も前からガウディ風の教会を造っていたわ」
ノアは心底心外だという顔をする。
「ちがうぞ。オレが好きなのは、星空の背景の建築物。星のほうが主役。クリスマス・ツリーの見える広場にはガウディが一番いいんだ」
難しい理屈を話し出しそうなので
星と建築の事を話し出したら、ノアは話が止まらなくなる。
「
ノアとブラウが幼馴染のようなものだろう。
その中にシアンは含まれるのだろうか?
ノアとシアンに仲が良いという印象は無い。
そんな穏やかな雰囲気を壊すように、急にココアが陽翔の目の前に飛び出した。
非戦闘エリアなのに、ココアの索敵スキルが発動した。
何を意味するのだろう。
平和な一時を切り裂くような悲鳴が響く。
広場の雰囲気が一瞬で変わった。
静まり返った空間に不穏な気配と物音が近づいてくる。
ここはVR世界。何が起きても不思議ではないところなのだ。
黒ずくめの数十名の男達が少女を追い駆け乱入する。
悲鳴を上げながら逃げ惑う人々。
少女は空いた空間をすり抜け、懸命に走っていた。
手に空っぽのランタンを持っている。
ランタンは暗闇に浮き出るように、
ノアの
それなのになぜ?
「ハル、あれ、鈴菜じゃね?」
「なんでだろう? そっくりなAIかな?」
「今日、家に来たし。絶対助けなきゃいけないヤツだ」
「わたし、聞いてないけど」
「わん」
あちらも
後を追う男の顔がチラリとフードから見える。
ワニの頭をしている。モンスターだ。
彼ほどタンクが向いている人間に、
この中で一番足が速いのは
そのまま一気に路地裏から郊外の戦闘エリアに走り抜ける。
ワニ頭の男たちが二人に襲い掛かるが、
ココアが遠吠えでワニ男を威嚇すると、驚いたワニ男の足がすくむ。
ココアの威嚇スキルで先制攻撃のチャンスを得た
ワニ男が吹っ飛んだ。
ワラワラとワニ男が集まり、
ジリジリと距離は詰められた。
「その女が持っているランタンを寄越せ!」
リーダー格のワニ男が二人に向けて大声を上げた。
「嫌よ! これは、お母さんのランタンよ。魔女のランタンじゃないもの」
鈴菜がランタンを抱きしめ叫ぶ。
そのランタンは確かに他のものとは
レッドゴールドに繊細な彫刻が施され、真っ赤な宝石が所々に散らばり輝いている。
遅れて飛び込んできた
「鈴菜! つか、お前、ゲームなんてするんだな? 普通に頭が硬てーヤツだと思ってた」
「
学校の成績で首位を争っている二人は傍から見ると仲が悪いように見える。
しかし、
それなりに仲が良い。
そんな姿に隙ありと見たワニ男が、斧を振り上げ鈴菜に襲い掛かって来た。
「やばっ。
黄色のエフェクトが舞い散り、前衛のワニ男が光になって消えた。
その直後、
ノアと
約半数のワニ男が光となって消える。
リーダー格のワニ男が撤退の命令を下し、ワニ男の群れは宵闇に紛れて逃げる。
呆気なく戦闘は終わりをむかえた。
「……ハル。鈴菜も誘った?」
「多分、シアン? ちなみにいっくんもシアンに誘われたって自覚ある?」
「ある、……な」
---続く---
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