【完結】イピトAIは仮想空間をイネーブルする~未確認AIに高校生活を乗っ取られたら、もふもふワンコが助けに来てくれました。なぜか美少女アサシンに好かれてます~
Episode14 オーロラの湾刀『極光《きょっこう》』
Episode14 オーロラの湾刀『極光《きょっこう》』
羽根のようにヒラリと跳躍したイシュタルが、レイピアで騎士ユフタスの胸を突く。
FPのゲージが二割弱減る。
直後、カイが直刀を振り上げユフタスを襲い、その刃は左肩から右の脇腹を一直線に切り裂いた。
黄色のエフェクトが弾け、ユフタスが消滅する。
ノアは一瞬の間もおかずに駆け出し、後方にいた魔法剣士に氷の魔法を放った。
クリティカルヒットの効果音が流れ、ヒーラーは黄色の光となって消えた。
―――終わった。
「
「ノアのおかげだ」
ノアが
「勝ったぞ。ハルト、『氷の塔』に行けるな」
「イシュタル、カイ、ノア。ありがとう」
「あの強そうな騎士に、どうして私の攻撃がヒットしたのかしら?」
イシュタルが心底謎だという顔をしていた。
「それは、武器の特性だよ。ノアが調べてくれた」
カイとイシュタルは、それぞれユニーク・スキルのある武器を持っていた。
カイの直刀はドラゴンスレイヤーと同等の特別な効果が付与されている。
そして、イシュタルのレイピアは、砂漠の神の加護を受け、神の金属で造られていた。
この世界の神はドラゴンという設定なので、神の剣は、神には効くのだ。
レイピアという形態だったため、他のモンスターには小ダメージでも、ドラゴンには効果的ということだ。
「どうやって調べたの?」
「オレたちイピトAIは、データベースという点では人間より優れているが、自発的な創作は全くの専門外なんだ。だから、このRPGにも原案があると思った。そこで、インターネットを使って元の資料を探し、その設定を確認したんだ」
「うわ、AIって物語でもゲームでも簡単に創っちゃうのかと思ってた」
「空想や創造は人間の特殊能力だよ。AIは命令を受けて動く。条件を設定してくれれば、創作の手伝いはできるけど、独自の創作は無理なんだ。シアンは、とある国の作者にゲームのシナリオとして作品使用の許可を得たようだ」
そして、観客たちの喝采が上がった。
この国の最強の戦士を相手に、旅人のパーティが勝つとは誰も予測できない。
だが、これは祭りなのだ。
棺桶ペナルティから立ち上がった敵将も拍手を贈る。
ドロップ・アイテムは『
刀身を引き抜くと日本刀に似ている。今のパーティでは、誰も装備ができないので、仲間が増える前兆だ。
聖国の役人が
顔を上げると、目の前には壮大なコロシアムが広がり、観客席は歓声がこだましている。中央には、いつのまにか勝者の証として、花冠を手に持つ若い娘たちが待ち受けていた。彼女たちの純粋な眼差しに、
音楽が奏でられ、乙女たちが集まり輪になる。舞いながら種をまくと、そこから唐草のような階段が立ち上った。ツルは伸び編みこまれ玉座までの階段となる。
玉座に導かれると、聖王自らが
うやうやしく渡された石板を両手に持ち、書かれている内容を一読する。その重みがズシリと
石板は『エラリスの欠片』と示されていた。ルーン文字と呼ばれる古代文字で書かれている。
また、石板は『氷の塔』への移動ポートを兼ねている。
勝利の実感が遅れて胸に湧き上がった。
じんわりと熱い。
今まで好んで勝負というものはしたことがないが、ノアや
「勝者ハルトよ。正しき道が開かれれば、得難い仲間が手に入るであろう。但し、未熟な者には手に入れられぬ。封印を護る
聖王の言葉を
それは一瞬の出来事だった。
授与の瞬間を待っていたかのように、視界に白黒のノイズが入る。
今まで聞こえていた歓声が止み、辺りが異常なほど静まり返った。
人々も、舞い散る木ノ葉や紙吹雪までも、凍りついたようにフリーズしている。
システムの介入により、陽翔とノア以外の人間は動作を停止させられていた。
こんな事ができるのは、ゲームマスターしかいない。
「シアン?」
「正直、
重力の影響をまるで受けていないかのように、シアンが空からゆっくり降りてくる。相変わらずの無表情だった。
「シアン! いい加減に目的を言え。なんだってこんなまどろっこしい事をするんだ!」
ノアが掴みかかる勢いでシアンに手を伸ばした。
だが、まるで見えない壁に阻まれるように手が届かない。
シアンは眼鏡の縁を神経質そうに押さえた。少々苛立っているように見える。
「だいたい、わかっていますか? イピトAIとUbfOSは武器なのです。素直に凍結されればいいものを。蒼井博士はOSの権限を
初めてシアンの目的が少しわかった。
つまりシアンは、イピトAIとUbfOSを安全に運用できるように変更しろと言っているのだ。だが、システムの権限が委譲されたなどとは陽翔にとっては初耳だ。
「初めて聞くけど、今まで黙っていたの?」
「今、伝えました」
システムの解析ができない
しかし、それだけでは
ノアとのリンクには5時間という時間制限があるため、学校に行く時間なら十分にあるのだ。他にもまだ理由があるのだろうか。
「何度も聞いているけど、どうして僕の生活を乗っ取る必要があるの? 数日前、変な男に襲われたけど、シアンの仕業なの?」
シアンのポーカーフェイスが一瞬くずれた。
それは、悔しさの滲む表情だった。
その表情に隠された意味はわからない。
なぜ、そんな顔をするのだろう。
「せいぜい、寝首をかかれないように、ノアと一緒に大人しくしていなさい」
崩れ落ちた一瞬の表情が幻のように、元の無表情に戻っていた。
多分、今の言葉は嘘だ。
イピトAIは、嘘が下手だ。
あれでは、小学生だって騙されない。
何か裏があるのだ。
このゲームは恐らく時間稼ぎにすぎない。
そんな気がした。
「それが嘘だって、僕にだってわかるよ」
「理由なんて知る必要はありません。そんなに心配しなくても時期が来たら、あなたの生活はお返ししますよ。ノアと少し遊んで、気が済んだら言ってください。凍結すれば簡単に済むのに。全く、聞き分けの無い子供ですね」
「答えになってないよ。シアン!」
シアンが逃げるようにその場から掻き消える。
それと同時に、この世界の時間が戻ってきた。
人々は優勝を心から歓迎し、激励の拍手を
全ての歓声がピークになったとき、イシュタルとカイは
勝者を見守るように周囲の音も落ち着きを取り戻す。
「わたしたちの報酬はドロップしたアイテムの中から適当に頂いたわ。『氷の塔』の攻略を頑張ってね。困ったときは、砂漠のオアシスのアレナに来て。いつでも歓迎する」
「
RPGらしく、イベントも突然。別れも突然。
どこかでまた逢えたらいいなと、
鼻の辺りがツンとした。でも泣かない。
このストーリーは
そこに何らかの意図があるようにしか思えない。
勝利のドロップ・アイテムも
紫がかったオーロラの湾刀を大切に保管する。
ストーリーは勝利の喜びのままに進み、
---続く---
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