Episode13 トーナメント決勝





 一方、陽翔はると側の陣営はヒーラーが手薄である。


 ノアは氷の魔法を得意としているが、回復魔法はあまり得意ではない。


 イシュタルも回復魔法よりも、攻撃魔法が得意であった。

 レイピアも装備しているが、レベルの低い魔物でも一撃で倒せない代物だ。

 カイに関しては、そもそも魔力が無い。



 ヒーラーがパーティに居れば粘り勝ちも狙えるが、陽翔はるとたちは回復薬を使うしか無い。

 そのため、敵に回復魔法を使わせる前に掃討する、短時間決戦に持ち込む必要があった。

 ターンを重ねれば陽翔はるとたちに不利な状況になる。


 今までのようにカイの火力と、イシュタルの魔法に頼る方法では勝てない。


 そこで陽翔はるとは、自身をおとりにする作成を立てた。

 大量に作っておいた錠剤リカバリーを仲間全員に渡す。


「まず、今回は僕がタンクになります。イシュタルは後方で僕とノアを支援魔法で強化。ノアは攻撃優先。カイはアタッカーとして、大将の騎士ユフタスをなるべく早く倒すことに集中。みんな、危なくなったら自分の回復を優先して。相手は強敵です。だけど、勝たなくてはならない」


 そう、今回は騎士ユフタスだけ倒せばなんとかなる。

 タンクのFPが少なければ、敵の攻撃はタンクに集中するのだ。





✽✽✽





 試合開始の合図とともに陽翔はるとは前衛へ走る。


 弓を構え『光陰の矢』を、敵のヒーラーに向けて放った。

 『光陰の矢』は殺傷能力は無いが、眩しい光に目を焼かれ一定時間攻撃ができなくなる。


 同時に陽翔はるとにヘイトが集まるように中央に進む。


 敵の魔導士が魔法を宣言すると、薄緑の魔法陣からいばらのツルが陽翔はるとに向かって伸びる。


 陽翔はるとは弓を撃つが攻撃は止まらず、いばらツルの傷ついた部分から更に枝分かれをして襲ってくる。


 絡みつく棘により陽翔はるとの動きが封じられた。

 このままでは騎士ユフタスに届く前に、FPが0になってしまう。

 焦る陽翔はるとの足元に、つむじ風がくるりと巻き起こった。



朔風颪さくふうおろし-防」



 イシュタルが防御魔法を宣言した。

 真っ白の魔法陣から渦巻く風が沸き上がり、陽翔はるとに絡みつく茨のツルをねじ切り、寒風かんぷうが葉を枯らした。渦巻く風のバリアーが盾となる。



雹乱ひょうらん-撃」



 薄氷うすごおり色の魔法陣から、氷の結晶がつぶてのように乱れ飛ぶ。


 ノアの攻撃魔法は、敵魔導剣士の頭上に降り注ぎ、敵魔導剣士は盾で攻撃を受けた。

 派手な演出の魔法を使うことにより、敵を撹乱させる目的があった。


 その目論見は成功し、存在感を消すように後ろに控えていたカイが敵陣に突如姿をあらわす。

 大型の直刀を振り上げ敵将の騎士ユフタスに斬り込んだ。



 この作戦は時間勝負であり、この一撃で相手を倒さなければ苦しい戦いになる。


 カイは陽翔はるとの願いを受け猛剣をふるった。

 直刀は宵闇色のエフェクトを放つ。

 クリティカルヒットの前兆だった。


 有効範囲外からの突然の猛攻に騎士ユフタスは反応が間に合わず、目を見開き驚きと恐怖に支配された顔をした。

 手が大剣にかかる。

 引き抜くのは間に合わないだろう。



 騎士ユフタスにヒットするその瞬間、地面から茨のツルが早回し映像のように伸びてきた。太い幹になりユフタスを守るように広がる。



 ノアが足止めした魔導剣士が放ったものだった。


 カイのクリティカルヒットは茨を切り裂き、騎士ユフタスまで届く。

 だが、しかし、全てのFPを削ぐまでは至らなかった。



 代わりに、魔導剣士が光となって消滅する。

 ノアの攻撃をまともに食らったのだ。

 魔導剣士が自分の防御を捨て、大将を守った瞬間だった。



風塵浚ふうじんさらい-撃」



 イシュタルの宣言と共に、敵のヒーラーに向かって風の刃が乱れ飛ぶ。

 ヒーラーの宣言魔法が途切れ、騎士ユフタスの回復は失敗した。

 ヒーラーはイシュタルの攻撃で、FPが大きく削られたがわずかに残っている。


 大将を倒すことはできなかったが、イシュタルの機転で最悪の事態は免れた。



 まだ、負けではない。

 次のターンは陽翔はるとからの攻撃だ。



 陽翔はるとはこのチャンスを逃すことなく、騎士ユフタスに向かって跳ぶ。


 ここで負けられない。


 空中で歯を食いしばり、弓を構え直した。


 カイはそんな陽翔はるとを見て一瞬微笑むと、陽翔はるとの着地点に向かって走った。

 着地に合わせて陽翔はるとを肩に担ぎもう一度跳躍ちょうやくさせる。

 距離を縮めた方が攻撃の威力が上がるからだ。



 カイに抱えられた時、陽翔はるとは不思議な感覚を覚えた。

 カイはとても安定している。

 ふと何かを思い出しそうになった。




 だが、今は目の前の敵に集中し、倒さなければばらない。体重を乗せ渾身の力で弓を放つ。



 仕留めたかった。

 タイミングも合っていた。


 陽翔はるとが現段階で装備できる武器では、神龍族であるユフタスに太刀打ちができない。

 FPは1ミリも減らなかった。


 悔し事に、ユフタスは陽翔はるとの能力を見切っている。


 攻撃を仕掛けずに自らの魔法で回復を行った。

 FPのインジケータがマックスになる。

 この布陣は、今の陽翔はるとにできるベストな戦略だった。




「勝てない」




 落ち込む陽翔はるとにノアが駆け寄って来た。


陽翔はるとがさ、どうして聞き分けの良い、良い子ちゃんなのかわかるか?」

「え? 今、その話は必要?」


 謎な質問に陽翔はるとは困惑を隠せない。


「今じゃなきゃダメだ。陽翔はるとには、無茶しても、我がまま言っても、受け止めてくれる親が居なかった。自分はわがままを言える立場に無い。陽翔はるとは本能的にそう思っている」


「そう、なのかな?」



 そんなふうに突き詰められると陽翔はるとには返事ができない。


 イシュタルとカイの視線を背中に感じる。


 一緒に戦う仲間として共に過ごしているうちに、二人が陽翔はるとを気遣ってくれているのは肌で感じていた。

 心配を掛けて申し訳ない気持ちになる。




「無自覚だろうな。陽翔はるとは甘えている訳では無くて、どちらかというと何でも自分で責任を取ろうとする。だから、責任の取れないことは最初から諦めてしまう。それは、自分で責任取りたいという裏返しだ。蒼井博士は組織に隠れて、自分の代わりに陽翔はるとの家族になれるAIを開発した。ただ、組織を欺くためには、組織が望むような形態にしなくてはならなかった。オレはこのRPGではレベルが低いかもしれないが、陽翔はるとが望めば、あの大将の弱点くらい探れると思うぞ」


 ノアはいつでも手を差し伸べてくれる。

 陽翔はるとがヘタレな事を言っても、馬鹿にする事も無かった。


「オレを頼って陽翔はると。家族だからな」


「ノアは『misato』空間では、プロテクトされてるでしょう?」


「まあな。でもさ。陽翔はるとのためなら、火の中、水の中。なんてな! 蒼井博士の造った、UbfOSが制御するエリアで陽翔はるとより強いものはないぞ。さぁ、オレに命令を実行して」


「ノア。僕はこの試合に勝ちたい。『氷の塔』に行きたい。だから、あの騎士の弱点を教えて」


「必ず見つけてやる! オレは、陽翔はるとが小さい時から一緒に居たかった。来るのが遅くなってごめんな」




 ノアは魂が抜けたように動かなくなった。

 陽翔はるとはイシュタルにノア用の障壁魔法を頼み、カイと共に前に出た。





 カイの攻撃が騎士ユフタスに届いても、一割強くらいFPが残ってしまう。

 二段構えで、陽翔はるとが攻撃してもFPのゲージは変化しない。


 次のターンですぐに回復してしまう。

 無限ループに入ってしまったが、今は時間を稼ぐしか無かった。



 後方に下がった魔法剣士は、石礫いしつぶての攻撃魔法を放ちじわじわとこちらのFPを削る。

 何ターンか、我慢したがそろそろみんな疲弊している。


 ノアが弱点を探しに行ってから、まだ二分と経っていない。

 永遠のように感じる二分だった。






「待たせた。ごめん」


 ノアは陽翔はるとに耳打ちをする。それを聞き、素早く支持を飛ばした。


「隊列入れ替え。タンクにカイ、アタッカーにイシュタルとノア、ヒーラーにハルト」


 緑色のエフェクトが粉のように舞い、一瞬で位置が入れ替わった。






 ――――イシュタルの周りにつむじ風が舞う。






---続く---


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