Chapter4 雫月はなぜブランカとARリンクする?
Episode15 『氷の塔』
冬の澄んだ空を眺めシアンが語っていたことを反復する。
『イピトAIとUbfOSは武器なのです』
重い言葉だ。
また、石板には『
ノアとブラウは、
『エラリス』は『error』からきている言葉だ。
この石板に書かれていることは
どのような理由があっても、
そうなると、ブラウは完全凍結が正しいのだろう。
自分を蔑むような瞳で両手を見ていた
武器を生み出すしかなかった両親は、科学者として何を思っていたのだろうか? 実験による苦痛は
そのことを考えると、悔しさがこみ上げてくる。自分が世間知らずで甘いのは分かっているが、せめて傍にいられたらよかったのにと思う。
暗殺者に仕立てられてしまったが、本来の
カランカランと鉄骨の階段を上ってくる音が聞こえた。
買い物から帰って来た
低い位置にある太陽の西日は金色に輝いていた。白い息が、群青色と金色が混ざったような空に、滲んで広がり消えていく。
長いまつげも、すみれ色の瞳も、その全てが綺麗だった。
「
透明なビニール袋の中にピンク色の束が見える。
冬の風景の中で見る線香花火は、忘れ物のようにどこか頼りなく繊細だ。
「花火? 好きなの?」
「うん、日本の花火はキレイなんでしょう? 夜空に花が咲くようだって
蒸し暑い夏の夜。
人波は
遠くまで見渡すことができた。
父の頭が目の前にある。
多分肩車をしてもらっていたのだろう。
屋台の赤い光。
金魚の柄だった。
今思えば
母が
覚えているようで覚えてない。
ただ、微笑んでいたと思う。
目の前の
似ているはずは無いのに。
「その線香花火はとても小さいけど、きれいだよ。でも、
「打ち上げ花火?」
「打ち上げ花火は夏に大会があって、花火師さんが打ち上げる。来年になっちゃうけど、一緒に観に行こう」
「来年? 未来の約束はできない」
「なんで?」
「わたしはアサシンだから、約束は嫌いなの。守れないかもしれないから、落ち着かない」
「ここは日本だし、組織はもう無いよね」
親指の爪で人差し指の爪を弾く。
そして祈るように指を組んで顎に当てた。
「―――戦うために生きてきたの。わたしは
硝子のように繊細で、不安定さが滲み出た瞳を
その瞳を見た途端、
「ねぇ、
突然の問いに、
それから、淡く微笑んだ。
透明で頼りなくて、心が痛くなるような笑顔だった。
「とても、優しくて良い人だった。良くしてもらった。
子供のころ寂しくなかったと言ったら噓になる。
授業参観、運動会、事あるごとに両親が居ない寂しさを感じていた。
両親と引き離されたことは不幸なことである。
とても悲しいことだ。
けれど、寂しさにも意味があったと、今は感じる。
「僕の両親が、少しでも
「どうして?」
「僕の両親が
「いいけど、花火しないの?」
「明るいと見えないよ。夜にならないと。それと、花火以外にしてほしい事とか、欲しいものとか無い?」
「一つだけ心残りがあるわ。
✽✽✽
いよいよ、
聖国フロームの神殿の祭壇に『エラリスの欠片』を捧げた。
足元が凍り付き、水銀色のエフェクトに包まれる。
閉じ込められたような感覚の後、体が暖かくなり
塔の中は肌寒く、四方八方が氷に覆われている。
目の前には先の見えない階段が浮かんでいた。
薄氷が幾重にも伸び、螺旋のように絡み合っている。
軋む階段は恐ろしいほど不安定で、足を掛けたところからガラガラと崩れ落ちた。
後ろからサソリのしっぽを持った蜂のモンスターが大群となって追いかけてきた。
耳障りな羽音が聞こえ、毒の尾に狙われる。
「
ゆらりと黄金色の炎が矢の先端に灯る。
炎を纏わせた弓で、進行方向のサソリバチを射抜きながら走った。
毒持ちのモンスターは厄介だ。
ノアが広範囲の氷の魔法で攻撃すると、十メートル圏内のサソリバチは氷結して落下するが、次から次へと湧いてきてキリが無い。
全力で逃げ切り、階段の突き当りの扉に飛び込む。
勢いあまり床に倒れこんだ
ノアを見るとノイズが入りフリーズしている。
脳をかき回されるような混乱の後、導き出された記憶。
真っ暗な部屋で再生されている立体ホログラムは、両親の姿を映し出していた。
---続く---
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