第50話 その発言、つらい本心につき危険


「そう言えばルイーズは合同交流会どうするんだ?俺とベンはお世話になったクラスの貴族の人たちに挨拶してから隅の方にいるつもりだけど」


「私も交流のあった人たちに挨拶してからアイザック達に合流したいと思っているよ。」


「了解。癒術専門校の令嬢とダンスはしないんだ?」


気がつけば3ヶ月に一度の長休みまで残りわずかとなっていた。


「一回誰かとダンスしてしまったら終わりが見えなくなりそうだし、ロゼッタ嬢を誘うわけにはいかないからね」


「それもそうか。ところでルイーズもベンの事見なかった?」


そう聞かれてさっき手紙が届いて寮に呼び出されていた事を伝えた。答えを聞いたアイザックはとても心配そうな顔をした。最近、山岳地区の現状があまり良くないそうだ。


戻って来たベンは血の気が引いて真っ白な顔をしていた。


「気にかけてくれた2人には悪いけど……退学しようと思うんだ」


「なんで!?……学園にはまだ伝えてないよな?」


「まだ、だけど夏の長休みにはどうにもならなくなりそうだからそれまでには」


「何で私達に相談しなかった?絶対に力になるのに…」


ベンが何の相談もしてくれなかった事にショックを受けつつもセン殿の言葉を思い出して躊躇ってしまう。一度助けたからと言って次はどうなる?スカーレット辺境伯は困窮している訳ではない。そしてスカル派の中核を担う家に何度も介入するのは難しいだろう。何よりベンが欲に目が眩んだ魔法の教師候補のようになってしまうのが怖かった。


そんな私の躊躇いを感じたのだろうベンは私を落ち着かせるように穏やかに話し始める。


「ねぇ、ルイーズ。僕は君が家の力を頼りにされたり“才能”と評価されてしまう君の凄さを大袈裟に称えられる度に寂しそうな表情をするところを2ヶ月とちょっとの間ずっと見てきたんだよ。何も残してくれなかった父上と存在しているだけで力になってくれない歴史よりも僕は2人の事を優先したいから。……だから、だからもういいんだ。」


そう言ってベンはそっと視線を私達から地面に落とした。アイザックが唸るように抗議する。


「ベン・ウォード、撤回しろ!!!ここにいる3人はみんな己の家の歴史と向き合って来た家の出だぞ?それに俺らは仲間なんだろう?…頼ってくれよ、ルイーズだってそう思うだろう?」


アイザックはそう言うと悔しそうに歯を食いしばりベンを睨みつけた。私が同じ意見なのは疑ってもいないようだった。私はさっき一瞬浮かんでしまったセン殿の言葉を恥じた。


「……ベンは、何故あのとき試験の模擬戦の時私に声をかけて来たの?」


「それは…」


言い淀むベンに私は続ける。

「私にはね、あの時いつも領地の事を楽しそうに話す姉上と君の事が重なって見えたんだ。頼む、君の事を守らせてくれよ。私達は友達なんだろう?姉上に家の兵を動かせないか聞いてみる。駄目そうだったら私が行く。リズリー領の森では中型の魔物の討伐経験があるし、魔力操作はベンがお墨付きをくれただろう?充分力になれる筈だ」


そう言うと現実味を持てなかったベンは首を横に振り、第3王子殿下に呼び出されている事を理由に話を終わりにした。


「ルイーズ、お前1人でも助けに行くって…」

ベンがいなくなってからアイザックが聞いてくる。


「派閥違いに兵を出せる可能性は低い。平民の感覚はわからないからそこは…アイザックにフォローしてもらいたい」

「ああもう、わかってるよ」


呼び出しから戻って来たベンは泣き腫らした目をしていたがどこかスッキリとした表情だった。


「吹っ切れたよ。僕には僕の出来る事を最後までするしかないから。済まないがルイーズに頼ってしまう事になる。殿下がこの事について動けるようになるのはまだ相当先になってしまうだろうから。」


「わかった。とはいえ姉上に相談してからになってしまうが…次の週休み明けまでに答えを出した後話し合おう」


「すまないが……頼む」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る